今だからこそ必要なブランド戦略を専門家が解説 「エボークトセット」で正しいブランディングを

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コロナ禍の影響で、eコマースはすっかり定着した。他方でSNSの台頭により「ググる」から「タグる」へと情報収集法の変化も見られる。必然的に消費行動も急激に変化しており、一昔前のブランディング術だけでは通用しなくなってきた。はたして、予測不可能な時代を勝ち抜くマーケティングの攻略法はあるのだろうか。マーケティング研究の代表的な研究者の一人として知られる早稲田大学教授の恩藏直人氏と、2021年4月にJASDAQ上場を果たしたネオマーケティングの代表取締役社長 橋本光伸氏に話を聞いた。

昨今の消費行動変化の本質とは

早稲田大学教授の恩藏直人氏は、今の生活者の消費行動について、以下のように語る。

早稲田大学
商学学術院 教授
恩藏 直人氏

「従来は、‟所有”するしかない固定的な消費スタイルだったのです。しかし今は、高級バッグだってシェアサービスを使えば、毎月、異なるブランドを手軽な価格で利用できるようになりましたから、ブランドに対する関係性が以前よりも流動的になっていく可能性が高いとみています」

生活者の意識が変わったというよりも、選択肢が増えたことによって、よりニーズを満たせる方法が選ばれやすくなったと捉えるべきだろう。ここで見逃せないのが、情報の伝わり方の変化だ。一般消費財メーカーを中心に生活者起点のマーケティング支援を展開しているネオマーケティング代表取締役社長の橋本光伸氏は、次のように話す。

株式会社ネオマーケティング
代表取締役社長
橋本 光伸氏

「SNSは人がつながる場所でしたが、今やハッシュタグを通じて情報が検索され、それをもとに消費が生まれる場所となっています。とりわけ若い世代ではその傾向が顕著です」

そうなると、従来のように大量のテレビCMを展開するといったマスアプローチだけが有効とはいえなくなってくる。しかし、このように順を追って読み解いていけばわかることも、マーケティングの現場では見えなくなっていることが多いようだ。目先の結果を求めるあまり、間違ったブランディングを展開している企業が目立つと橋本氏は明かす。

「間違ったブランディングの例としては、短期間で部分最適を図ろうとする動きです。例えば値段を下げたり、SNSで“バズらせる”ことだけを狙ったりするのが典型的なのですが、中長期的に見たときにブランドの価値を毀損させる可能性を感じさせるものが多いのです。短期的でも収益を上げなければならない事情もあるでしょうが、ロイヤルカスタマーのロイヤルティーを下げてしまうブランドコミュニケーションは、結果的に自らの首を絞めてしまうことになりかねません」

「エボークトセット」が現状把握に有効なワケ

では、適切なブランディング活動をするにはどうすればいいのか。まず意識すべきは、問題解決の基本アプローチである現状把握だが、旧来のマーケティング指標が通用するとは限らない。ましてや今は、予測不可能な時代だ。変化が起きても柔軟に対応できる枠組みが求められる中で、有効な指標として恩藏氏が示すのが「エボークトセット(想起集合)」である。

「誰でも、頭の中で知らず知らずのうちにブランドをカテゴライズしています。例えばビールと聞いたら、パッと2~3のブランドが頭の中に浮かぶでしょう。これがエボークトセットです。買おうという意思決定をするとき、エボークトセットに入らないブランドはほとんど選ばれません」

「知っている(知名集合)」「知らない(非知名集合)」で分類されたのち、「購入・利用してもいい」と想起されるのが「エボークトセット(想起集合)」であり、知っているけれども「購入・利用しない」選択肢に振り分けられてしまうのが「保留集合」や「拒否集合」だ。

「上図にあるブランドカテゴライゼーションという枠組みは以前からありますが、とくに重要なエボークトセットに関して、私は長年研究に取り組んできました。実店舗で実物を見ないと買えなかった時代から、SNSで情報を見れば海外の商品でもeコマースで簡単に買える時代になった今だからこそ、この枠組みをしっかりと捉えておくことが、マーケティング施策を考えるうえで極めて重要になるのではないかと考えています」

売り上げ向上の秘策「サブカテゴリー開拓」とは

恩藏氏が指摘するこの重要性をいち早く認識し、実務に応用しているのがネオマーケティングの橋本氏だ。ブランディング活動の管理指標として有効なものになると確信し、恩藏氏と連携して共同研究プロジェクトを発足。生み出した調査スキームが、「エボークトセット調査」だ。すでに多数の企業から、ブランディング活動を測定する新たな管理指標として注目を集めている。具体的にはどのように活用するのだろうか。恩藏氏は次のように説明する。

「この調査スキームは、エボークトセットに入っているかどうかがわかるだけではありません。枠組みの中でどの集合に分類されているかがわかるので、ブランド育成のための具体的な施策が打ちやすくなります」

迅速な意思決定を促すことで、無駄な投資を回避し、広告コストの最適化もできるというわけだ。しかも、単純に「ビール」「車」「歯みがき粉」といったビッグワードだけではなく、サブカテゴリーでの測定ができることに、このスキームの真骨頂がある。

「例えば車なら『環境に優しい』『2台目』、歯みがき粉なら『知覚過敏』『虫歯予防』『ホワイトニング』といったキーワードを付け加えると、イメージするブランドが変わってきます。大きなカテゴリーではエボークトセットに入らなくても、カテゴリーのポイントを絞ってブランド育成をすることで1位をとれる可能性は当然ありますので、さまざまな分析をして狙うべきカテゴリーを見つけていくのです」(橋本氏)

「歯みがき粉は?」とだけ質問されたのと(左)、「知覚過敏で(虫歯予防で、ホワイトニ ングで)使いたい歯みがき粉は?」と細分化されたカテゴリーで質問されたのでは思い浮かべるブランドが変わる。これを活用することで、そのブランドに最適なブランディング施策が可能に

開拓したサブカテゴリーで、もしもトップを取ることができれば、さまざまなカテゴリーで想起される可能性も高くなるのだという。

つまり、マーケティングの切り口やコミュニケーション方法を少し変えるだけで売り上げを伸ばすチャンスがあるというわけだ。裏を返すと、コモディティ化が進んでいるカテゴリーであっても、ブランドの育成・拡張の余地は残されているといえるだろう。

属人的な施策を防ぎ、長期的なブランド育成に有効

さらに、SNS社会の今、人に勧めたいと思うブランドである「推奨集合」をフレームワーク(上図参照)に用意しているのも見逃せない。

「SDGsやESG投資などの動きでも明らかですが、今後は品質だけでなく社会的な賛同を得るのもブランディングの重要な要素となります。とりわけSNSではネガティブな力も大きく作用しますので、推奨集合の存在を意識しておくことはブランディング戦略を構築するうえで重要になってくると考えます」(橋本氏)

一般的に知られているブランディングの効果測定といえばブランドリフト(態度変容)だが、テレビCMなど広告を展開したあとの変化はわかっても、持続性には疑問が残る。顧客満足度の指標として知られるNPS(ネットプロモータースコア)も、回答者が選択式で簡単に答えられるため具体性に乏しいという欠点がある。

その点、「エボークトセット調査」は純粋想起で自由記述方式を採用しているため、バイアスが生じにくい。1000人調査が基本とサンプルサイズも十分で、ネオマーケティングが培ってきたノウハウを基に商品カテゴリーに応じた調査対象者のセグメントもしている。

こうした、社会情勢や生活様式の変化に左右されにくい客観的な指標を用いることで、ブランディング活動の属人化を防ぐ効果も期待できる。ブランディング担当者の交代で施策がガラリと変わる企業もあるが、一貫性を欠いたコミュニケーションは生活者に不信感を抱かせてしまうだけだ。「変化の激しい時代だからこそ、ブランドを企業の大切な資産として長期的に育成することが大切」との橋本氏の指摘も、併せて紹介しておきたい。

加えて、ブランド価値の向上は、もはや自社の利益だけの問題ではない。日本経済がこのまま停滞を続ければ、マーケットの活性化もおぼつかないからだ。そうした危惧から、恩藏氏は次のようなメッセージを発した。

「ブランド価値向上は、競争力を高めることにつながります。残念ながら今の日本は全体的に元気がありません。グローバルでのプレゼンスを高めるためにも、各企業は『エボークトセット調査』などを有効活用いただき、ブランドマネジメントをレベルアップしてもらいたいですね」
>「エボークトセット調査」について詳しくはこちら

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