経済成長のカギ「オープン化と生産性向上」 アフターコロナの企業間取引プラットフォーム

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新型コロナウイルスの打撃を受ける前から、日本の経済成長は長年、低迷を続けている。GDPはかろうじて世界3位だが、2位の中国に3倍近く差をつけられ、1人当たり名目GDPは26年前の6位から大幅に転落して23位となった。この凋落の要因は何なのか。また、回復の妙薬はあるのか。イノベーション研究の第一人者として知られる法政大学経営大学院教授の米倉誠一郎氏と、独自開発の間接材購買プラットフォームを展開するジーニーラボ代表取締役社長の米谷雅之氏へのインタビューを通して、日本が国際競争力を取り戻す道筋を模索する。

日本の経済成長は長年、低迷を続けている。その理由について、法政大学経営大学院教授の米倉誠一郎氏は次のように指摘する。

「日本企業の競争力の低下、とりわけ生産性の低下は顕著です。日本の時間当たり労働生産性は、OECD加盟37カ国中21位(2019年)で、主要先進7カ国で最下位の状況が続いています。

なぜ、日本人は生産性が低いのか。それは働き方が悪いのではなく、無駄な仕組みが阻害しているんです」

その構図を浮き彫りにさせたのは、皮肉にもDXの遅れだ。

法政大学経営大学院
教授
米倉 誠一郎
一橋大学社会学部・経済学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。米ハーバード大学歴史学博士号取得。一橋大学イノベーション研究センター教授などを経て現職。一橋大学名誉教授。『イノベーターたちの日本史』(東洋経済新報社)など著書多数

「ある海外自動車メーカーが中国に進出する際、緻密なデジタルマーケティングを行った結果、350台を販売するのにかかった時間がたった33秒でした。

片や日本では、ディーラーが新聞の折り込みチラシやポスティングを行い、毎日店舗を開けてスタッフがスタンバイしています。まったく車を買う気がない私の教え子も試乗に行っていました。本来向き合うべき顧客や削らなければならないコストが見落とされ、スタッフは意味のない仕事をしている。購買意欲をみじんも持たない人のために見積書を作成するのは無駄でしかなく、生産性が上がるわけもありません」(米倉氏)

日本には「カイゼン文化」があるように、無駄だと理解すればすぐに改めるはず。それができず、働き方や仕事の仕組みを見直せないのは、課題を顕在化させられていないからだという。

「見える部分の見直しは、どの企業でもすぐやりますが、見えない部分は放置しがちです。例えば製造業において製品の原料や部材などのいわゆる直接材のコストについては非常にシビアです。しかし、経費として扱われるシステム開発や建設工事、備品や消耗品などの間接材の分野については、大手企業だと年間何千億円もの支出があるにもかかわらず、管理が行き届いていない。

その理由は、対象品目が多種多様で、最適な調達にまで手が回っていないからでしょう。企業はより優良なサプライヤーからよりリーズナブルに調達する方法を模索していますが、人海戦術で対応するには業務が煩雑すぎるんです」(米倉氏)

間接材購買の効率化が生産性の向上につながる

間接材は、生産設備の消耗品や制服、事務用品などの物品だけではなく、警備などの役務サービス、人材派遣まで多岐にわたる。つまり、全部門・全社員が調達・購買に関わる分野のため、購買部門が一元的に調達する直接材と違って、運用・管理が煩雑にならざるをえず、非効率で多くの業務工数がかかる仕組みになっているのだ。

ジーニーラボ
代表取締役社長
米谷 雅之
早稲田大学法学部卒。日本アイ・ビー・エムを経てソフトバンクBB(現SB C&S)に転職。間接材購買サービス「パーチェスワン」を事業責任者として立ち上げる。2015年7月にイービズラボラトリーズ(現ジーニーラボ)を設立、代表取締役社長に就任

間接材購買プラットフォーム「ジーニー2.0」を展開するジーニーラボ代表取締役社長の米谷雅之氏は、画一化された社内ルールが理不尽な状況を生み出すと語る。

「多くの企業で相見積もりが義務づけられているため、取引する可能性のないサプライヤーからも見積もりを取っています。買い手と売り手の双方に無駄な作業が発生するだけではなく、両者の関係は極めて閉鎖的です。双方が生産性を高めてコストを削減するためには、もっとオープンで公平な取引環境が必要だと思います」

国内における中小企業の割合が、企業数で9割以上、就業者数でも7割を超えていることを考えると、大手の買い手企業と中小のサプライヤー企業との不均衡な関係が日本経済に与える影響は少なくないはずだ。いま一度、企業間取引のプロセスを見直さなければならない時期にきているのではないだろうか。

2年の歳月をかけて開発した「ジーニー2.0」の実力

では、間接材購買プロセスを効率化するにはどうすればいいのか。米倉氏は組織や業界を超えて広くアイデアやノウハウを取り入れる「オープンイノベーション」をキーワードに挙げる。

「デジタル化が進む中で競争力を高めるには、『本当に必要なものだけを瞬時に調達できる仕組み』が求められますので、買い手と売り手が何度もやり取りを重ねなくても、お互いが取引に必要な情報をあらかじめ開示するような環境が欠かせません。その意味で、ジーニーラボが開発・展開している間接材購買プラットフォームには大きな可能性を感じています」(米倉氏)

ジーニーラボの間接材購買プラットフォーム「ジーニー2.0」は、従来、人が入力・選択していた項目について、所属組織や購入品目などの情報から自動的に判断して最適値を表示するなど、効率化・自動化する機能を搭載。調達・購買にかけていた時間を大幅に削減できる。

また、顧客企業の海外展開に合わせて各国の商習慣や法令に丁寧に対応するという、カスタマーサクセスを重視したグローバル対応方針も見逃せない。

「『ジーニー2.0』は、2年の歳月をかけ、最新のアーキテクチャーを取り入れて作り直したものです。結果、システム改修や機能追加をしても高品質を維持できるようになり、新機能開発やカスタマイズもスピーディーに行えるようになりました。こうした強みを生かして、3カ月単位で新機能をリリースし、よりいっそうお客様にご満足いただけるサービスをお届けしていきたいと考えています」(米谷氏)

オープンな間接材取引市場。5年以内に1兆円規模に

すでに、米倉氏が示した「本当に必要なものだけを瞬時に調達できる仕組み」の実現に向けた具体的な道筋もつけている。

「22年中頃をメドに、『ビズハイウェイ』という機能の提供を開始します。これは、企業情報や利用者評価などを盛り込んだサプライヤーデータベースを買い手企業に公開する『サプライヤデータバンク』や、サプライヤーが自社商品を出品できるECサイト『マーケットプレイス』、代金の支払先を一本化して新規取引を容易にするフィンテックサービスなど、バイヤーに新規の優良サプライヤーとの取引を促進する仕組みを提供するものです。また、『ヒーロー』という機能によって、マーケットプレイス上での取引価格の即決やサプライヤー向けのマーケット分析情報の受け取りが可能となり、従来のBtoB取引の常識を覆す仕組みとなっています」(米谷氏)

買い手も売り手も無駄を排して生産性を高めるとともに、オープンな取引を推進するBtoB取引プラットフォームへと発展させていきたいと語る米谷氏。リリースから5年以内に、大手バイヤー100企業・グループ3000社が参加する1兆円規模のオープンマーケットにしたいという。

「取引のオープン化によって中小サプライヤー企業を活性化させ、日本経済の発展に貢献したいんです。

アフターコロナ時代には、多くの中小サプライヤー企業がビジネススタイルを転換できず、大シャッフルが起こります。

だからこそ『ビズハイウェイ』で、すべての参加企業が効率的にDXを推進して体質改善していただきたいと考えています」(米谷氏)

経済と企業のダイナミズムは新たな風が入るから生まれる

「オープンイノベーションが重要なのはやはり新しい企業にチャンスを与えるからです。日本の時価総額上位ランキングの顔ぶれは30年前からほとんど変わりませんが、米国は大きく入れ替わっています。

『ビズハイウェイ』が新たな風を吹き込み、あぜ道のようだったBtoB取引のフィールドをハイウェイに変えれば、そこに新たな企業が参入し、活発なビジネスが展開される。これが具現化すれば、ジーニーラボはネクストユニコーンに名乗りを上げられるのではないでしょうか」(米倉氏)

企業の競争力をそぎ経済成長を妨げる「無理」「無駄」「理不尽」をなくし、社会の役に立つサービスを届けたいと意気込むジーニーラボ。その名が世界にとどろく日は、そう遠くないかもしれない。

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