「アルコール分0.5%」変わる飲みニケーション 多様性の時代になじむ「微アル商品」誕生の裏側
飲み方の概念を変える「スマートドリンキング」という発想
日本のビール市場に「アサヒスーパードライ」という新しい味わいのドライビールを根付かせたアサヒビールだが、「かねて根本的な課題を抱えていた」と話すのは、「ビアリー」誕生のキーマン、新価値創造推進部の梶浦瑞穂部長だ。
「われわれの理念は、さまざまなシチュエーションで人々が楽しく共生するための商品をつくることです。しかしながら、これまではお酒好きをターゲットに『飲める人に満足してもらえる商品』を手がけてきました。したがって、飲めない人や、飲めるけど飲まない人の選択肢は極めて少なかったと思います。飲まない人が宴会や飲み会を楽しめない、ともすればそうした場を嫌いになってしまうというのは、本意ではありません」
事実、アサヒビールが2020年11月に実施した「酒類飲用実態・意向調査」では、「飲みたくないのに飲まないといけない場面で不満を感じた」「周りの人と同じ種類のお酒を飲まないといけなかったことに不満を感じた」「飲む場は好きだが、お酒は弱いので長時間はつらい」という意見が寄せられ、半数近くが現状の「飲み方」に不満を抱えていることがわかった。
ちなみに、梶浦氏自身は実家が酒問屋で、アサヒビールに新卒で入社。営業やマーケティングでキャリアを積み、酒類の普及に尽力してきた人物だ。もちろん本人も無類のビール好きだが、ある経験がきっかけでマインドが変わったという。
「2015年にインドネシアに赴任しました。当時の周囲の環境は、お酒を飲まない人がマジョリティー、飲む人がマイノリティー。飲まない人たちの中でお酒を飲むということは、実はものすごく気を使うことでした。逆の立場になって得た感情が、今のポジションに生きていると思います」(梶浦氏)
梶浦部長が統括する新価値創造推進部は、アサヒビールが20年12月から提唱している「スマートドリンキング」の考え方に基づき、ローアルコールやノンアルコールの商品開発や販促を担当する部署だ。
スマートドリンキングとは、飲む人も飲まない人もお互いが尊重し合える社会の実現を目指すために、さまざまな人々の状況や場面における“飲み方”の選択肢を拡大し、商品やサービスの開発、環境づくりを推進していくこと。つまり「飲み方の多様性」を提案するものである。
そして、このスマートドリンキングをついに具現化した最初の商品が「ビアリー」なのだ。
3年半の月日をかけて「本物のうまさ」を実現
「ビアリー」の特長は大きく2つ。「アルコール分0.5%」と「脱アルコール製法」である。
「お酒に強い人も弱い人も同じお酒で楽しめるよう、アルコール分は、それぞれに満足してもらえる数値を追求しました。飲める人からするとノンアルコールは酔った気分になれません。一方お酒に弱い人も、強いお酒は飲めずとも、多少は酔った気分を味わいたい。双方のちょうどいい『酔い』を突き詰めた結果、0.5%にたどり着きました」(梶浦氏)
だがアルコール分を下げたところで、味わいに満足できなければ選ばれない。そこで決め手となったのが「脱アルコール製法」だ。
「これまでのノンアルコールビールは、味をビールに近づけるため、材料を調合してつくっていました。一方でビアリーは、一度実際にビールをつくってからアルコールを抜いています。これが『脱アルコール製法』と呼ばれるもので、開発に3年半近くを要したアサヒビール独自の技術です」(梶浦氏)
ビールらしい香味を残すため、研究所では温度や圧力を細かく変えながら約100回にわたり試験製造を実施したという。
「本物のビールを1回つくってからアルコールを抜くという、いまだかつて採用したことがない技術ですから、ビールらしい風味を残すためには工夫が必要でした。アルコールを抜きすぎると味がシャバシャバになり、香りも飛んでおいしくなくなってしまいます。納得いく味になるまで、時間がかかりましたね」(梶浦氏)
エキスの調整でコクをアップさせる仕込み、リッチな香りにするための最適な条件下での発酵など、細かい工程を繰り返し検証。3年半の歳月をかけて、発酵由来の複雑な香り、コクや苦味を残すことに成功した。ビアリーをグラスに注いだときの泡立ちや、口にしたときの味わいはビールそのものだ。
飲む人と飲まない人が尊重し合える社会へ
かくして“微アルコール”という新カテゴリーを世に送り出したわけだが、「ビアリー」はお酒が弱い人だけではなく、ビールが好きな人にとっても新たな選択肢になると梶浦部長は胸を張る。
「100%ビール由来ということで、やはり味がおいしいですね。ビール好きの私でも、十分満足できます。実際に試されたお客様からも『味にコクがあってのどごしがよい』という声をいただいています」
現在、コロナ禍も相まって外で飲む機会が減っているものの、「ビアリー」は徐々に消費者に浸透しているという。
「おうち時間の『ながら飲み』にビアリーを選ぶ方が多いです。例えばゲームや創作をしながら、料理などの家事をしながらなど、少し心地よくなりたいときに飲まれている印象です。個人的には『次の日仕事だけどちょっと酔いたい気分』というビジネスパーソンにもお勧めしたいです。現在飲食店にも導入を進めていますので、今後は宅飲みだけではなく、飲み会でも1杯目は生ビールで、2杯目からはビアリーのような選び方をしていただけるといいなと思っています」
最後に梶浦部長は、スマートドリンキングや微アル商品を通して今後実現したいことについて次のように語る。
「お酒がすごく好きな人からソバーキュリアスまで、飲み方にはグラデーションがあります。決して、『飲めるか飲めないか』の二極化ではないのです。だからこそ、飲み会で大事なのは、その場にいる人の考えを尊重するコミュニケーションではないでしょうか。飲める人も飲めない人も肩身の狭い思いをせずに、自分にとってしっくりくる飲み方を選択できる世界をつくりたい。その世界を実現させるためにも、今後さまざまなバリエーションの商品を手がけていきたいと考えています」
2021年6月29日には、微アル商品の第2弾として、同じく脱アルコール製法を活用した「ビアリー 香るクラフト」を首都圏・関信越エリアの1都9県で発売。クラフトビールのようなフルーティーで華やかな香りが感じられる商品だ。これからも飲酒文化に多様性をもたらすべく、アサヒビールの挑戦は続く。
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