コロナ禍で「物流」はどう変わり始めたか?

東京2020大会を機に、荷主自ら進める対策とは

東京2020大会の開催がいよいよ近づいてきた。聖火リレーはすでに各地域で行われ、都内には7月9日にやってくる。本番のオリンピック競技大会は7月23日~8月8日、パラリンピック競技大会は8月24日~9月5日で開催される。大会期間中およびその前後は交通混雑が予想されており、東京都では、大会関係者の円滑な輸送と経済活動の両立のため、交通需要マネジメント(TDM※)に取り組んでいる。当企画では、3回にわけて特集を組み、今、東京都で何が起きているのかを紹介する。第1回は、「モノの流れ」にフォーカスし、すでに準備が始まっている大会時の交通対策、そこから波及する影響、ドライバーの人手不足やeコマースの需要拡大などの物流業界の現状も踏まえ、どのような準備や対策が必要かを解説する。

※ TDMとは、“Transportation Demand Management(交通需要マネジメント)”の略で、自動車の効率的利用や公共交通への利用転換など、交通行動の変更を促し、発生交通量の抑制や集中の平準化など、交通需要の調整を行うことで、道路交通の混雑を緩和していく取組である。具体的には、手段、時間帯、経路の変更や、自動車の効率的利用、そもそもの交通発生量の調整や抑制が挙げられる。

現在の「交通状況」は「交通対策」でどう変わるか?

そもそも、現在の東京都内の「交通状況」はどのようになっているのだろうか。東京都オリンピック・パラリンピック準備局 大会施設部 輸送課長の飯村一実氏はこう語る。

「コロナ禍の影響で、2020年4月と5月は道路の交通量や、鉄道の利用状況が大きく減少しました。しかし、今年4月時点で、首都高速道路の利用台数は新型コロナウイルス発生前と比較し、約5%減の水準までに回復しています。加えて、物流の取扱個数は、コロナ前と比較して増加傾向にあり、とくに、ポスト投函が可能な小さい荷物の取扱量が著しく増加しています。逆に、鉄道の利用状況については、テレワークや時差出勤の呼びかけもあり、約3割減で推移しています」

東京都オリンピック・パラリンピック準備局
大会施設部 輸送課長
飯村一実

つまり、道路交通量は例年並みの水準まで回復しているということだ。そのような中で、大会期間中は、さまざまな「交通対策」が実施される。そうなると、都内の交通が混雑する可能性は高い。

大会期間中、選手を含めた大会関係者は専用車両で移動する。安全で円滑な輸送を行うため、各競技会場の周辺では、進入禁止エリアや通行規制エリア、迂回エリアが設けられるほか、大会関係車両の専用レーンや優先レーンが設置される。また、高速道路や一般道路においても、本線料金所での通行制限(終日)や交通状況に応じた入り口閉鎖が実施される。加えて、開会式・閉会式、路上競技や聖火リレー時の交通規制など、さまざまな交通対策が実施される予定となっている。

予想される事態を、次のような対策で防いでほしい、と飯村氏は続ける。

「何も対策をしなければ都心部を中心に、断続的かつ場所により、激しい混雑が発生すると予想しています。『人の流れ』については、引き続きテレワークや時差出勤、夏季休暇の取得など『密を避ける』取組をお願いしたいです。また、『モノの流れ』については、『開会式などの交通規制により、普段の配送先に行けない』『交通規制の混雑により、予定どおりに荷物を届けられない』などといった事態が予想されるため、早めの発注やセールス時期の前倒し、リードタイムの見直しなど、時期や時間帯をずらすような対策の検討をお願いしたいと思います」

なお、2020TDM推進プロジェクトホームページでは、自社の活動への影響把握や、大会時に発生しうる混雑の回避策などの行動計画の作成の際のツールとして、「大会輸送影響度マップ」のほか、「大会時の遅延等を想定した所要時間・経路探索システム」などを公開している。

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「2020TDM推進プロジェクト」内にある「高速道路・一般道路の大会輸送影響度MAP」。大会期間中において、TDMによる交通量の対策を何も行わなかった場合に、道路や鉄道などに生じる影響についてまとめたもの。画像は7/30(金)8:00~9:00を想定 ※実際に生じる大会期間中の交通状況を予測したものではない
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大会時の遅延等を想定した所要時間・経路探索システム」(2020TDM推進プロジェクト登録者専用)

「大企業」に続き「中小企業・個人事業主」も早めの対策を

今年3月に、東京都は東京2020大会組織委員会、関係省庁とともに「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会期間中の物流に係るご協力のお願い」を発出した。これを受けて、大企業や業界団体ではすでに対策に乗り出している。

例えば、ある大手百貨店では、顧客に対しお中元の時期の前倒しのお願いをしているほか、大手通信販売事業者は、セールの前倒しを実施予定である。

また、全日本トラック協会では、荷主向けに大会期間中の物流に関するご協力のお願いのリーフレット「東京2020大会期間の物流に関するご理解・ご協力のお願い」を作成。今年4月より配布している。さらに、東京商工会議所では、大会期間中に実施される交通対策や競技会場周辺の交通規制情報、企業が取り組める対策などの情報をわかりやすくまとめた「2020交通対策ハンドマップ(2021年度更新版)」を作成し、今年4月30日より配布している。

しかしながら、中小企業や商店街などの個人事業主においては、こうした取組を実施しているところはまだまだ少ないのが現状だ。今から準備を進めなければ、実際に大会が始まったとき、ビジネスに影響が出る可能性が高いことから、「2020物流TDM実行協議会」では、中小企業や商店街などの個人事業主に向けて、早めの対策を呼びかけているという。

では、具体的には、どのような対策や準備が奨励されているのだろうか。

「まず挙げられるのは『事前発注・事前納品』や『納品・調達量の調整』といった対策です。あらかじめ商品を注文し、ストックしておくことで、物品の在庫切れを防ぐことに加え、納品回数を減らし、混雑時の配送を避けることができます。また、『複数日分の一括発注への対応』も同様にお願いしたい取組です。これは、一括発注の受け入れ体制を整えることで、着荷主の頻繁な小口発注を見直すきっかけにつなげることを目的としています。さらに、発荷主や物流事業者の方から『着荷主から言われた日時に商品を運ばざるをえない』という話をよく伺いますが、物流の効率化の取組は、物流事業者や発荷主だけでなく、着荷主を含めたサプライチェーン全体での協力が必要です。取引先との積極的な会話もお願いしたいと思います」

上記のほかにも有効な取組は多いそうだ。例えば、「納品時間の見直し」は納品時間を深夜や早朝にずらすことで、混雑を避けた円滑な走行が期待できる。「輸送ルートの最適化」では、注文状況から最適ルートを分析するシステムなどを構築することで、輸送コストの削減につながる対策となるのだという。

さらには「他社・他品目との共同配送」も効果的な対策といえそうだ。他社との協力体制の確保と調整を行うことで、配送回数が削減され、輸送コストの削減が期待できる。

何も対策を取らなかった場合、どうなるのか?

もし何も対策を取らなかった場合、ビジネスにはどんな影響が出るのだろうか。飯村氏は次のように語る。

「考えられるケースは、前述のように『調達先からその時間には配達ができないと言われた』『納品日や納品時間を変更してほしいと言われた』『道路混雑が原因で、荷物が届かず商機を逃してしまった』といったものでしょうか。こうした事例は、これまでも少なからずあったでしょう。しかし、大会時は、頻繁にこうした問題に直面する可能性があります。それを避けるために、先に挙げた準備と対策を行うことはある程度有効でしょう。また、大会時に限らず、eコマースの需要拡大やドライバーの人材不足などといった今ある課題、将来的な物流対策にも、こうした取組は有効なので、今大会を契機にぜひ取り組んでいただければと思います」

また重要なこととして、業種ごとの事業形態や、実情に合ったきめ細やかな対策が必要なのだと飯村氏は続ける。

「『2020物流TDM実行協議会』では、専門のコンサルタントたちがこうしたさまざまな問題点を踏まえて、中小企業や商店街などの個人事業主向けに無料で個別コンサルティングや商店街単位での勉強会を行っています。対象となる助成制度についても紹介しておりますので、ぜひ今からでもホームページをご覧いただき、ご相談をいただければと思います。また、物流効率化に向けた意欲的・先進的な取組を『未来につながる物流』として募集しています。コロナ対策として行った配送の工夫や、まとめ発注、店舗在庫の拡大、ドライバー自身による配送ルートの変更など、身近な工夫は、物流効率化につながっていると思います。この機会に、新たな物流の取組を検討している方や、事例について知りたい方のために、皆様が行っている物流の工夫をぜひご共有ください」※取組の募集は6月21日(月)で終了致しました。

東京2020大会に向け、こうした物流の対策を是非実践してみてはいかがだろうか。中小企業・個人事業主にとって、大会時の対策だけでなく、ビジネスのコスト低減にもつながるはず。大会を機に、今後、物流効率化に向けた取組の輪が広がることに期待したい。

「未来につながる物流」応募はここから※6月21日(月)締切

「2020TDM推進プロジェクト」HPはここから

次回、第2回では「新しいワークスタイル」、第3回は「大会時の交通対策」をテーマに、特集を行う予定です。ぜひご覧ください。

関連ページ
2020物流TDM実行協議会
第2回
東京2020大会前に加速、テレワークの新潮流
第3回
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