社名から好調「スシロー」の名を外した理由 コロナ禍でも過去最高益「おいしさの秘密」

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回転ずし「スシロー」をチェーン展開する「スシローグローバルホールディングス」は2021年4月、「FOOD & LIFE COMPANIES」へと社名変更した。新型コロナウイルスの感染拡大で外食産業が低迷する状況にありながら、過去最高の純利益を記録するなど好調を維持する中、知名度の高い「スシロー」の文字を社名から外した。その真意とは何か、これからどのような道を歩んでいくのか。同社代表取締役社長 CEOの水留浩一氏と、広告・事業開発会社The Breakthrough Company GOクリエイティブディレクター 松田健氏に話を聞いた。同氏は、「FOOD & LIFE COMPANIES」のコミュニケーション全般を担当する広告会社ADKと連携しながらブランディングを行っている。

──2021年4月1日から新社名「FOOD & LIFE COMPANIES」でのスタートを切られました。

FOOD & LIFE COMPANIES 代表取締役社長 CEO 水留浩一

水留 社内でプロジェクトチームを立ち上げ、「われわれにとって本当に大切なものは何なのか」「今後、事業をどう展開していきたいか」などを議論しました。

知名度の高い「スシロー」を使わないことに対し、外部の方々からは「もったいない」とか「スシローが付いていたほうが会社としてわかりやすい」といった声もありました。ただ、われわれとしては、社名を変えるのであれば、小さな変更にはしたくないなと。10年、20年といった中長期的なスパンでどのようなことをしたいのか、しっかりと具現化した社名にしようと考えたんです。

松田さんには、議論された内容について、社名と企業理念の構築に向けての交通整理をしていただきました。

The Breakthrough Company GO クリエイティブディレクター 松田健

松田 皆さんの思いを聞いたうえで、ADKのクリエイティブチームと一緒にネーミングの方向性をいくつか出させていただきました。そこからさらにプロジェクトメンバーの皆さんや水留さんをはじめとする経営陣の方々と議論を重ね、案を絞っていきました。その中には「スシロー」の文字が入ったものもありました。

結果、最終的な社名として選ばれたのは、案の中で最も大きなコンセプトとしてあった「FOOD & LIFE COMPANIES」です。

おいしい食を提供するだけではなく、その先にあるお客様の生活や人生までも変えていきたいという思い。つまり、手頃な価格で食べられる日常の食を通し、地球上の70億人の人生そのものを豊かにするということ。この案が選ばれた瞬間、「ここまで大きなことを目指すのか」と改めて実感しました。

水留 われわれは、スシロー以外にも「京樽」「海鮮三崎港」「杉玉」「むすび寿司」といったブランドがあります。スシロー以外の事業に携わる社員が増えていく中でスシローの名前を残すと、どうしてもそこに引っ張られてしまう部分がある。だからこそ、一度フラットになろうという意思が、今回の社名変更につながっている部分もあります。

日本を代表する「外食グローバルブランド」に

──スシローは海外展開にも積極的ですね。

水留 現在、アジアの5つの国と地域に展開していますが、今後は欧米も含め世界中に拠点を広げていき、世界の主要都市に行けば必ず目にするようなブランドにしていきたいと考えています。10月から開かれるドバイ万博への参加は、その試金石の1つといえるかもしれません。ハラルという文化を超えて、日本と近い味が再現できるかということに全力でチャレンジします。

そうやって事業の領域と規模の両方を拡大することで、食を通じて人々の生活を豊かにし、人生に喜びを感じてもらいたいと考えています。今回の社名変更は、回転ずしの一企業から日本を代表する外食グローバルブランドになるという決意表明でもあるんです。

松田 こういった思いをきちんと社内外に伝えようと、4月1日の新聞に全面広告を出しました。最近の広告は文字量を短くする傾向がありますが、今回はあえて15段、1800文字のボリュームで、取引先や投資家、社員などのステークホルダーの方々を中心とした、幅広い層に向けた「本気の手紙」として思いをしたためました。

水留 おかげさまで新聞広告の評判は非常によく、社内外から「わかりやすい」「そういうことなんですね」といったポジティブな声をいただきました。

──新型コロナウイルスの感染拡大で外食産業が軒並み低迷する中、2021年9月上半期の売上高に当たる売上収益が10.1%増の約1190億円、純利益が53.6%増の約78億円と、いずれも中間期として過去最高を記録しています。

水留 店内で食事をしていただく部分では、コロナ禍はかなりの痛手となりましたが、おすしは買って帰る文化が根付いていることもあり、テイクアウトやデリバリーの領域が伸長しました。オンライン決済をはじめ、テイクアウトやデリバリーに対応するシステムをコロナ禍以前から開発していたことで、需要の急激な伸びに対応できたことも大きな要因です。

ゴールはあくまで「おいしいものを出すこと」

──好調を支えるスシローの売り上げは、10年連続業界トップと、多くの消費者から選ばれています。

水留 われわれが最も大切にしているのが、「おいしいこと」です。スシローの企業理念である「うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。」のとおり、手頃な価格でおいしいおすしを提供することが、本質的な価値だと考えています。おいしさへのこだわりこそが、支持をいただいているいちばんの理由ではないでしょうか。

松田 スシローを担当させていただいた当初、「100円のおすしを届けるために、ここまでするのか」と驚きました。これまでさまざまな企業を担当しましたが、よい商品を安く届ける努力に関しては、スシローは見たことのないレベルにあります。

水留 注文分析やオペレーションの省力化をはじめ、新たなテクノロジーも積極的に活用していますが、ゴールはあくまで「おいしいものを出すこと」にあり、それを達成するためのツールと捉えています。生産性を上げ、無駄を省くことで、できるだけ食材の部分にお金をたくさん使えるようにする。それを創業以来、徹底して行ってきました。

もちろん、サービス業は「人」です。例えば海外展開に関しても、日本で生まれたおすしの文化や味、そしてわれわれのオペレーションをぶれさせずに持っていくためには、それを守れる人材がいないといけません。そういった人材を輩出し続けられるかという点も非常に重要になってくるでしょう。

日本でも海外でも本質は変わりません。高級といわれるおすしを、安価でカジュアルに提供し、日常の中に取り入れてもらう。そして、おいしさの部分には徹底的にこだわる、ということですね。

松田 こうして生み出される「おいしさ」に、ブランディングや店内体験、コミュニケーションなどを通して付加価値を付けることで、今後も「FOOD & LIFE COMPANIES」の国内外の事業展開をご支援させていただきたいです。