ビジネスチャンスの宝庫「統計」の見方と活用術

経済センサスー活動調査から知る「意外な事実」

予測不能な時代となった今、ビジネスでの“意思決定”は難しくなるばかり。そこでいま一度立ち返りたいのが、統計やデータから現状を的確に把握すること。しかし、「数字の羅列をどう読み解いていくのかわからない」と思う人も多いだろう。そこで、統計ジャーナリストに統計の見方と活用のコツ、ビジネスに役立てるための考え方を聞いた。

「データがないと何も決められない」

「データは、誰もが日常生活で判断基準として無意識に使っています」。そう語るのは、統計ジャーナリストの久保哲朗氏。

久保 哲朗(くぼ てつろう)氏
統計ジャーナリスト
長野県伊那市でシステムエンジニアとして働く傍ら、自らサーバーを立ち上げて、さまざまな統計データを収集・分析。「都道府県別統計とランキングで見る県民性」や年次変化に着目した「年次統計」など、データベースを駆使した統計サイトを複数運営している。代表作に『統計から読み解く 47都道府県ランキング』『47都道府県の偏差値』などがある

「例えばパソコンや車を買うとき、値段だけを見て選ぶことはありませんよね。パソコンならメモリー容量や画面サイズ、車なら燃費や排気量などのスペックを比較するはずです」

ビジネスの現場でも同じことが言える。これから営業をかける相手先企業の売上高や従業者数は最低限チェックするだろうし、新たに進出しようとする地域や国の人口も知らないのでは話にならない。われわれは意思決定の前段階で、必ず何らかの統計・データに触れている。

その中でも、ビジネスの意思決定に役立つ統計データとして久保氏が挙げるのが総務省・経済産業省が5年おきに発表している「経済センサス-活動調査」。簡単に言うと、「経済の国勢調査」だ。

経済センサス-活動調査は、最新の『経済のスペック』を把握するうえで非常に便利な統計データです。最大の特徴は、『センサス』が意味する『全数調査』であること。都道府県レベルの統計はそれなりにあるのですが、市区町村レベルで産業の実態がつぶさにわかる『解像度の高い』統計はほとんどありませんので貴重です。私が個人的に運営する統計サイトでも重宝しています」

「経済センサス」とは
経済センサスとは、事業所および企業の経済活動の状態を明らかにし、日本における包括的な産業構造を明らかにするとともに、事業所・企業を対象とする各種統計調査の実施のための母集団情報を整備することを目的とした調査。
「経済センサス‐基礎調査」と「経済センサス‐活動調査」の2つから成り立っている。
●「基礎調査」:事業所・企業の属性など、事業所・企業の基本的構造の把握に重点を置いたもの。
●「活動調査」:売上・費用、設備投資など、企業の経済活動に重点を置いたもの。

例えば、調査結果からこんなことがわかる。

企業産業大分類別売上高の構成比
2015年(平成28年活動調査)

ビジネスパーソンが押さえるべき「統計のコツ」

では、市区町村レベルの統計がそろうと、何がわかるのか。久保氏は「地域単位でどんな産業が盛んなのか、どんなものが好まれるのかを把握できる」と話す。

「私は長野県に住んでいますが、県内南部の飯田市は『焼き肉の町』と言われています。

焼き肉店の数を人口比で見るとやはり日本トップクラスなんですね

そういった数字の裏付けがあると地域振興もしやすくなります。実際、飯田市は酪農家らと『焼き肉の町』を打ち出して町を盛り上げています」

※一説によると、山に囲まれた飯田市では農作物が育ちにくく、山の獣肉を貴重なタンパク源として摂取していた。「今でも、飯田市ではジビエ料理が親しまれています」と久保氏は語る

「地域ならではの特徴」をつかんで、そこにある需要を読み解くことができれば、ビジネス展開やブランディングの方向性を決定するヒントになりそうだ。

では、意思決定に役立つ統計やデータの分析のコツは、どのようなものだろうか。

「単一の統計だけを見るのではなく、複数を比較して『数字』の意味を見いだすことが大事です。その際に注意するべきポイントは2つあります。1つは『縦と横の比較』、もう1つは『数字をそろえる』ことです」

縦の比較とは、いわゆる「経年推移」。企業ならば売上高や生産量の推移を見ていくことを指す。横の比較とは、同じ時点の他社の売上高や生産量などと比較することだ。また、数字をそろえるとは、物価のように年月を経ることによって「価値」が変わるものを、特定の基準でそろえて比較できるようにすることだ。

「同じ売上高1億円でも、30年前から現在まで同じ基準で集計されている数字にそろえないと、本質的な価値は見えてきません。

例えば1970年の売上高10億円と2020年の売上高10億円を比べてみましょう。国内企業物価指数(2015年基準)によると1970年の総平均が54.9で2020年は100.3なので、100.3÷54.9≒1.82で1.8倍に増えています。

つまり1970年の売上高10億円は、10億円×1.8=18億で現在の18億円に相当すると考えられます。このように『数字をそろえる』ことで1970年と2020年の売上高が比較できるようになるのです。

『横の比較』で同業他社と比べるときも、単純に売上高や生産量だけを見るのではなく、従業員1人当たりの数字を出すことで、価値ベースの比較ができます。そこで初めて、本質的な『企業の力量』がわかるのです。

そうすれば、意図しないところに競合企業があることがわかったり、まだ見ぬビジネスチャンスが見つかったりするかもしれません

「企業城下町 偏差値」から見るあの街の特徴

価値ベースの比較をするため、久保氏が基準をそろえる手段の1つとして用いているのが「偏差値」だ。偏差値と聞くと、つい学校のランク付けをイメージしてしまうが、そもそもは単純な数字の比較で生じがちなバイアスを取り除くもの。

「テストで100点を取っても、簡単なテストでの100点なのか難しいテストでの100点なのかで価値が異なります。そうした絶対的な数値ではなく、全体の中のどこに位置するかを相対的に判断できるのが『偏差値』です」

「偏差値」の手法を用いることで、統計データには表示されない意外な事実が浮き彫りになる。例として挙げるのが、いわゆる「企業城下町」の偏差値だ(下表参照)。

「経済センサスでわかる市区町村の従業者数と、国勢調査の昼間人口データを活用して、単位人口当たりの従業者数が突出して多い市区町村を割り出してみると、その業界の人たちにとっては常識でも、一般には意外と知られていない事実が見えてきます」

出典:「経済センサス-基礎調査」(2014年)、国勢調査 (2015年)
*ここに掲載している自治体は人口5000人以上の自治体です
*少数の自治体が飛び抜けて数値が高いと400を超える偏差値もありえます

表に挙げているのは、単位人口当たりの何らかの産業への従業者数が突出している自治体の例だ。東京都千代田区は、立法機関が集中していることから、「立法機関の従業者数」の偏差値が突出しており、ビジネス街でもあることから単位人口当たりの従業者数が多くなっている。

山梨県南都留郡忍野村には、産業用ロボットで世界トップクラスのメーカーの本社があり、金属鉱業の鹿児島県伊佐市には、日本最大級の金鉱山がある。

誰もが知るテーマパークがある千葉県浦安市は、公園・遊園地の従業者数の項目が突出している。

「知る人ぞ知る」特徴のある自治体だと、革手袋の製造が盛んな香川県東かがわ市や、書道教室の大手チェーンがある愛知県日進市、競走馬のトレーニングセンターがある茨城県稲敷郡美浦村、といったところだろうか。

「統計はあくまでも現状の数字です。病院でも、医師は1つの検査結果だけでなく総合的に見たうえで診断を下しますよね。同様に、統計も比較の方法や視点によって、その道のプロフェッショナルならではの読み解き方ができるのではないでしょうか」

つまり、統計を有効に活用できるかは、それぞれのビジネスの知見にかかっている。

各企業が蓄積してきたノウハウやデータを、いかに社会のニーズとマッチングさせるか――日本経済の全数調査である「経済センサス-活動調査」は、その橋渡しとしての役割を果たしているといえる。

その意味では、「経済センサス-活動調査」に対して正確に回答することが、結果的に自らのビジネスを成長させることにつながるともいえる。

ちなみに、5年に1度の活動調査は、今年6月1日に実施(インターネットでも回答可能)。速報は2022年5月末日までに、確報の集計結果は2022年9月ごろから順次公表される予定なので、“次の一手”を構築するヒントとしてぜひ役立てたい。

令和3年-経済センサス-活動調査について詳しくはこちら