「自動運転」開発の雄、日本オフィス拡張の狙い

コロナ禍でも堅調、日本の顧客対応を強化

車載ソフトウェアの開発・検証ソリューションの世界的なリーディングカンパニーであるdSPACEがコロナ禍の中でも堅調な業績を見せている。同社では、昨年から日本オフィスの拡張に着手。アッセンブリー(組み立て)能力などを強化し、日本市場での顧客対応のスピード化を図る方針だ。そこにはどんな狙いがあるのか。dSPACE Japanアプリケーション技術部の部長である松井茂氏とアッセンブリーの現場を担当する同部シニアアプリケーションエンジニアの福山一哉氏に話を伺った。

昨年からの新型コロナウイルスの流行により、世界各国で自動車販売は落ち込み、国内外の自動車メーカーは大きな打撃を受けた。自動車業界を主なターゲットとしているdSPACEでもその影響が懸念されたが、意外にも業績は堅調な動きを見せているという。その理由とは何か。dSPACE Japanアプリケーション技術部の部長である松井茂氏は次のように語る。

dSPACE Japan
アプリケーション技術部 部長
松井茂

「コロナ禍にあっても、自動車メーカー各社は自動運転技術への投資を緩めていません。各社は独自の技術をもって対応すべく、競争はさらに激化しています。むろん予算的には厳しいものの、開発を止めて市況が改善するのを待っている状況ではないということです」

自動車メーカーにとって自動運転技術の進展は欠かせないとしても、なぜdSPACEはメーカー各社から重要なパートナーとして見られているのだろうか。

「自動運転のソフトウェア開発・検証ソリューションのツールとして、私たちの技術が非常に有効であり、必要不可欠であるということです。実用性を兼ね備えたその高い技術は、国内外の自動車メーカーで活用されており、実際、日米欧で私たちの技術を利用していないメーカーはないと言えるほど、広く使われています」

では、世界の自動車メーカーにそれほど重宝される同社の強みとは何か。それが車載システム開発向けに需要が拡大しているHIL(Hardware-In-the-Loop)システムにおいて、圧倒的なシェアを保持していることだ。また、有力な自動車メーカーが群雄割拠するドイツを拠点に培われた高い技術力とグローバルなセールスチャンネル。さらに、世界で約1800名の社員を抱え、そのうち約1400人がエンジニアとソフトウェア技術者である研究開発型企業であることも大きい。

「日本法人でもトータルで約100人のエンジニアを擁し、クライアントのさまざまな要望に自前のエンジニアで対応しています。いわば、クライアントファーストを貫いているのです」

そんな同社が新たに今、日本オフィスの拡張に着手している。その狙いとは何か。

「これまでドイツで行っていたHILシステムのアッセンブリーを日本で行うことにしたのです。日本市場でクライアントへのベネフィットをさらに強化することが主な狙いです」

これまで日本法人ではアッセンブリー機能についてはドイツに任せ、メンテナンスなどのクライアント対応に注力してきた。今回の対応で何が具体的に変わるのだろうか。

「まずリードタイムの短縮です。これまではHILシステムのアッセンブリーに6カ月かかっていたものを約8週間、最大2カ月ほど短縮する予定です。また日本でアッセンブリー機能を持つことによって、お客様とのコミュニケーションの機会を増やし、よりきめ細かい対応を可能にしていきます。さらに、技術的な課題解決についても、これまではドイツ本社と逐一やり取りしていましたが、日本拠点が主体的かつスピーディーに対応できるような体制を構築しようとしているのです」

そのため、すでに日本法人のエンジニアをドイツ本社に派遣、現地の設計開発者など共に新たな知識の取得やOJT研修を重ねることで技術スキルの強化も図っている。実際、ドイツで研修を受けたシニアアプリケーションエンジニアの福山一哉氏はこう語る。

dSPACE Japan
シニアアプリケーションエンジニア
福山一哉

「ドイツ人エンジニアがどのように思考し、自動運転技術の設計開発をどう行っているのか、非常に多くのことを学ぶことができました。HILシステムには多くの部品やモジュールが必要になります。これからは、日本にアッセンブリーを置くことで、より早くクライアントの要望に応えることができるでしょう。そのために、どの技術をどんなときにどう使えばいいのか、身に付けておく必要があります。その点についても非常に勉強になりました」

これから本格化する日本でのアッセンブリー機能の現場対応については、福山氏をはじめとした日本人エンジニアたちが最前線で担うことになる。

「個人的にも楽しみです。今回の日本におけるアッセンブリーの始動は、各地に拠点があるdSPACEにおいても、ドイツ本社以外では、北米に次ぐ取り組みになります。それだけ日本市場が重要視されているという表れでもあります。日本で実績を増やしていき、日本独自のコンパクト化の技術も活用していければよいですね。その結果としてワールドワイドで、dSPACEのクライアント対応の強化につながることを期待しています」

アッセンブリー機能を日本におくことで、仕様変更などがよりスピーディーになり、クライアント対応がより充実することになる

日本法人では今年からアッセンブリー機能の構築を鋭意進めており、来年の2022年から本稼働していく方針だ。松井氏が言う。

「自動運転技術の検証では、膨大な事例を高速処理しながらシミュレーションをします。そうやってコンピュータ上で検証されたソフトウェアを、実際に自動車に搭載し、さらに検証を重ねなければなりません。そのとき必要なツールとなるのがHILシステムです。このシステムは各社のお客様の要望に応えながら、一つひとつ違ったものをオーダーメイドで作っています。こうした一連の業務の量と質を強化するとともに新たな技術も導入しながら、アッセンブリー機能をいち早く軌道に乗せていきたいと考えています」

現在、自動運転技術は5段階の自動運転レベルのうち、ドライバーがモニターを実施するレベル1、レベル2がすでに量産中だ。ドライバーがバックアップするレベル3においても最近、一部メーカーで実用化がなされた。ただ、ドライバーのバックアップがいらないレベル4、レベル5はまだ研究開発途上という状況にあり、それがいつ頃、実用化されるのかはまだ確実に見通すことはできていない。逆に言えば、自動車メーカーはレベル5の実用化に到達するまで研究開発投資を終えることはないということだ。その意味では、dSPACEの取り組みにも終わりはないということになる。

現在も私たちはコロナ禍の渦中にいるが、自動車業界では昨年後半からV字回復ムードが漂い、21年も好調が持続しそうな気配だ。業界が、EV(電気自動車)時代に本格的に突入する一方、自動運転技術の進展も大いに注目されている。次世代の一大イノベーションの一翼を担っているdSPACE。これからの意気込みを松井氏はこう語る。

「自動運転技術をはじめとして、あらゆる分野において日本の自動車メーカーの技術革新に私たちは貢献していきたい。今、ビジネスで最も求められているのはスピードと品質です。私たちは品質には絶対の自信を持っています。そこに今回の戦略で、よりスピードを上げ、日本の会社として、そして、日本人だからこそできる技術力を生かしながら、これからも日本のお客様のご要望にお応えしていきたいと考えています」

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