世界経済混乱期にエネルギー構造変革をリード 5つの事業でより豊かな社会づくりに貢献

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INPEX
代表取締役社長 上田 隆之 Takayuki UEDA
東京大学法学部卒、米ワシントン州立大学法律学修士。1980年に通商産業省(現・経済産業省)入省。通商政策局長、資源エネルギー庁長官、経済産業審議官などを歴任。国際石油開発帝石の副社長執行役員などを経て2018年6月より現職。
※21年4月1日付で「国際石油開発帝石」から社名を変更

――2020年は、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大で世界経済が減速しました。

上田 新型コロナの影響で、原油価格が大幅に下落しました。その結果、前期の業績が2008年の統合以来初の赤字決算となったことは、大変深刻に受け止めています。これまで以上に低油価耐性を高め、事業の強靱化とクリーン化を図ってまいりたいと考えています。

――「今後の事業展開~2050 ネットゼロカーボン社会に向けて」の策定や社名変更は、その決意の表れでしょうか。

上田 気候変動対応への取り組みを強化する機運の世界的な高まりによって、脱炭素社会への移行が急務となっていることを踏まえ、エネルギー構造の変革をリードしていく決意を「今後の事業展開」として表明させていただきました。

社名については、海外でこれまで認知されてきた「INPEX」に4月1日付で変更し、3000人以上いるグループ社員の一体感を高めると同時に、グループ全体の企業価値をより向上させていきたいと考えています。

培ってきたノウハウを水素や再エネ事業で生かす

――「今後の事業展開」で強力に推進するとしている5つの事業とは?

上田 これまで国内外で培ってきた技術や操業経験といった当社の強みを最大限に生かせる新事業分野として、「上流事業のCO2低減(CCUS※1推進)」「水素事業の展開」「再生可能エネルギーの取組強化と重点化」「カーボンリサイクルの推進と新分野事業の開拓」「森林保全によるCO2吸収の推進」に積極的に取り組んでいくこととしました。

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社会のニーズに応えるソリューションを提案すべく、5つの事業の柱を強力に推進します

われわれの基盤事業である石油と天然ガスは、中長期的には引き続き堅調な需要が見込まれていて、とりわけ天然ガスは、今後も主要なエネルギー源として需要が伸びると予想しております。石油や天然ガスの代替エネルギーを探すだけではなく、生産操業や利用におけるCO2低減、エネルギー利用の効率化、さらには油田やガス田を利用したCCS※2・CCUS技術を活用することも、脱炭素・低炭素化社会の実現には必要な対応であると考えています。


※1 「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略
※2 「Carbon dioxide Capture and Storage」の略

――国内初となる水素一貫製造実証試験ではどのような知見を生かしていくのでしょうか。

上田 実は、水素事業は天然ガス事業との親和性が非常に高いんです。天然ガスの主成分メタン(CH4)から水素(H)を分離させて残ったCO2をガス田に圧入・貯留することで、カーボンフリーの水素を供給することができます。新潟県柏崎市では、天然ガス生産から水素製造、水素発電、CO2の地下圧入・貯蔵まで一気通貫で実現する実証プロジェクトを計画しています。

海外での大規模水素事業として、アブダビでのアンモニア事業も計画しています。製造したアンモニアを日本に輸入して、石炭火力発電所で石炭と混焼することで、発電所からのCO2排出量を減らすことができます。

――再生可能エネルギーやカーボンリサイクルの取り組みでも、これまで培ってきた技術を応用されるのでしょうか。

上田 はい。再生可能エネルギーでは、地熱発電と洋上風力に注力していきます。地熱発電は、石油や天然ガスと同様に井戸の掘削技術が求められます。洋上風力では、海洋での石油・天然ガス施設の建設・操業におけるノウハウを生かすことができます。

CO2を再利用するカーボンリサイクルの取り組みは、すでに早期事業化に向けて動いています。CO2と水素を合成することで、都市ガスの主成分であるメタンを製造するメタネーション事業は、21年度に基盤技術開発を完了する予定です。今後はプラント規模を拡大、30年すぎには商業生産を実現し当社のパイプラインを活用した販売を目指します。

メタネーション実証実験プラント

また、こうしたCO2低減・再利用の取り組みだけではなく、森林事業支援によるCO2削減も重要だと認識しています。「森林保全によるCO2吸収の推進」はその一環で、例えば「カーボンクレジット付き」のLNGや天然ガスを販売するといった展開も視野に入れています。

クリーン・安定的な供給で豊かな社会づくりに貢献

――体制づくりや資金調達も含め、今後の展望は?

上田 水素事業の推進と、CCUSの技術検討をさらに進めるため、社長直属の組織として「水素・CCUS事業開発室」を新設します。また、新たな分野への取り組みを強化するという意味合いも込めて、「再生可能エネルギー・電力事業本部」を「再生可能エネルギー・新分野事業本部」に改編します。これらに携わる人材は、社内公募や社内副業制度をフルに活用するほか、研究開発型ベンチャーやスタートアップなど、産学官連携を強化して、あらゆる知見を積極的に取り入れたいと考えています。

資金については、中期的に1バレル50~60ドルの油価を前提として、年間投資規模約2500億~3000億円のうち、5つの新事業に対して200億~300億円程度の投資を計画しています。今後、形は変わっていったとしても、エネルギーが世界中から求め続けられることに変わりはありません。多様なエネルギーをよりクリーンに、より安定的に供給することで、これからもより豊かな社会づくりに貢献していきます。

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