京都が先進企業にもたらす3つの価値

地方創生イノベーションフォーラム2021

豊かな歴史・文化の魅力で国内外から多くの人を引きつける京都。とくに近年は、外国人観光客も増え、世界的な観光都市としてのイメージを確立している。その京都で今、時代の先端を行くIT企業が拠点を構える動きを加速させている。かつてベンチャー企業から世界的大企業となった、いわゆる京都銘柄と呼ばれる企業を育んだ京都のビジネス環境が注目されているのだ。2021年2月にオンライン開催された「地方創生イノベーションフォーラム2021」は、『世界標準の経営理論』などの著書がある早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授を講師に迎え、京都に拠点を開設している先進IT企業のマネーフォワード、LINE両社の担当者も招いて、ビジネス拠点としての京都の魅力を語ってもらった。

共催:東洋経済新報社、京都市

トークセッション
『世界標準の経営学』の視点から、ビジネス拠点としての京都の価値を考える

早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール
教授
入山 章栄

「長い歴史と優れた文化を持つ京都は、日本だけでなく、世界中の人たちにとって、ぜひ訪れたい街。京都の中にいると気づきにくいかもしれないが、その強力な魅力で、優秀なエンジニアやデザイナー、アイデアに満ちたビジネスパーソン、飛び抜けた資産を持つ富裕層の人たちを集めれば、次々とイノベーションが起きるシリコンバレーのような場所になっていく可能性がある」と、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏はビジネス拠点、京都の可能性を訴えた。

イノベーションとは、知と知を新たな形で組み合わせる「新結合」と定義される。それを起こすには、多様な人が同じ場所に集まり、出会える環境がカギになる。イノベーションが起きる「クリエーティブシティー」の条件として、異なる文化や価値観に寛容で、海外出身者、芸術家といった多様な人たちにとって居心地がよい場所であることが挙げられている。また、クリエーティブなリソースは特定地域に偏在しているとも指摘されている。入山氏は「日本でイノベーションを起こせる可能性がある街は東京に加え、福岡、京都くらいだろう」と語る。

入山氏が京都に可能性を感じる理由の1つ目は、世界中から観光客を引きつける歴史文化の力だ。コロナ禍前の京都中心部、四条河原町周辺は世界中の国々から来た観光客であふれ「人種のるつぼ」のような状況だった。また、京都大学をはじめ多くの大学が立地し、世界の若者を取り込むこともできる。企業が顧客体験を刷新するアイデアの源泉としてデザイン思考に注目する中、美術系大学が複数あることも強みになる。

2つ目の理由は、京都の社寺や自然が持つ環境の力だ。米国の著名な起業家がお忍びで何度も京都を訪れていたことに触れ、多くの海外グローバル企業の経営者が訪れているという。背景には、欧米企業にも社員研修として導入されている「マインドフルネス」のブームがある。これは日本の禅に由来する瞑想を中心としたプログラムで、集中力を高め、ストレスを軽減するとされる。「激しい競争を戦う、意識の高い外国人は、京都で座禅をしたいと望んでいる」と入山氏は語る。

ただ、せっかく訪れた外国人を観光だけで帰国させるのは惜しい。

「サバティカル(長期休暇)を取って1年くらい京都に住んでみたいという海外の知人は多い」と言う入山氏は、京都にハイレベルな長期滞在向けの施設を用意し、その家族に良質な教育を提供するインターナショナルスクールなどを充実させることを提案。「潤沢な資産、優れた技術・アイデアを持つ人たちが京都に集まれば、日本企業との間にビジネスが生まれ、起業にもつながる」と期待する。

そして3つ目は、京都が多くの優良企業を育んできたことの背景にあるものだ。JR京都線沿いにはIoT(モノのインターネット)時代のハードウェアを支える電子部品などの有力企業が集結している。これらの企業の成長を支えたのは、長い京都の歴史に裏付けられた長期的視点だと入山氏は考えている。変化の激しい現代は、さまざまなチャレンジをする「知の探索」が必要だ。しかし、コストがかかるので、目先の利益を追っていては探索は続けられず、長期視点の経営が欠かせない。長期視点は、SDGsが掲げる貧困や地球温暖化といった一朝一夕に解決できない問題に取り組むうえでも重要となる。

聞き手:ジャーナリスト
國貞 文隆

「京都にグローバルなIT企業の拠点が増えれば、面白いことが起きそう」と、聞き手の國貞文隆氏に水を向けられた入山氏は「そうしたイメージを持ってもらうことが大事だ。イノベーションを起こせなければ、企業も国も衰退する。京都には、面白いイノベーションを起こす力が潜在している」と強調。「オープンに多様性を受け入れることがビジネスに革新を起こすポイントだ。新型コロナウイルスが収束すれば、対面の価値は復活するので、企業の皆さんには、ビジネス拠点としての京都の魅力を検討していただきたい」と語った。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、京都に進出している先進IT企業、マネーフォワードの村上勝俊氏と、LINEの御代田亮平氏が、京都に拠点を構えることの意味を語った。

マネーフォワードは、個人向け家計簿アプリを中心に、企業向けバックオフィスSaaS、金融機関向け通帳アプリなどのサービスを展開。京都支社は2017年に営業拠点として開設され、19年からは開発拠点としても活動している。

LINE 京都開発室 副室長/
エンジニアリングマネージャー
御代田 亮平

LINEは、メッセンジャーを中心に金融、メディアなど幅広いサービスを提供するプラットフォームを展開。アジアを中心に高いシェアを誇り、月間アクティブユーザー数は主要4カ国・地域(日本、タイ、台湾、インドネシア)で約1億6700万人(20年9月時点)に達する。京都オフィスは18年に開設した。

ITサービス企業にとっての最重要課題は、エンジニアをはじめとする優秀な人材の確保だ。2人は京都拠点開設の理由として、多くの大学がある京都での学生へのアプローチや関西圏のエンジニアへのリーチを拡充して採用につなげることを挙げた。また、京都の魅力を生かして海外の優秀なタレントを引きつけることもできるという。

さらに、関西圏で働きたい社員に異動の選択肢を提供することもできる両社はともに東京、福岡に開発拠点を持ち、その中間地点の京都は国内開発拠点の第3の都市という位置づけになる。京都出身で「学生時代を京都で過ごした人は、いつか京都に戻って働きたいという思いがあるのではないか」と話す御代田氏は、LINEの京都オフィスが社員の異動の選択肢を広げた意味に言及する。LINE社内でも東京から京都への異動希望は増えていて、京都オフィスは「私自身を含め、社員のライフイベントに合わせたU・Iターンのニーズを満たす受け皿としても機能している」と言う。

マネーフォワード
京都開発本部 本部長
村上 勝俊
※肩書はイベント当時のものです

兵庫県出身で、自ら希望して京都開発拠点を立ち上げた村上氏も、マネーフォワード京都支社の正社員の約半数は東京から関西へのUターン組だとして「従業員に、マネーフォワードで長く働いてもらうため、社内異動先に京都を加える意義は大きい」と語った。

両社が京都を拠点に選んだ2つ目の理由は、数多くの大学があるからだ。インターンシッププログラムの提供など学生へのアプローチを広げ、優秀な人材の採用につなげたい狙いがある。さらに、マネーフォワードは、インターンシップのほか、京都大学のMBAの学生、OBらを中心に開催する「ジャパン・ハッカソン」に関わるなど、学生との関係を構築。LINEも複数の大学との共同研究を推進している。インターンシップで会社のことを気に入ってもらい、採用に結び付くケースも増えてきたという。

国際都市・京都でのビジネスの可能性

ファシリテーターの入山氏がトークセッションで言及した、京都の魅力でグローバルに人を引きつける人材戦略は、両社が関西圏の中で京都を拠点に選んだ3つ目の理由でもある。LINEは18年の京都オフィス開設当初から海外人材の採用活動を展開。アジア、米国、欧州など世界各地から、日本のポップカルチャーや、京都という場所に魅力を感じる人たちが入社してきている。

19年に京都支社に開発拠点を設けたマネーフォワードも、京都ブランドで巨大グローバルIT企業レベルの人材を集めることを目指す。外国語の採用コンテンツの準備を進めていた矢先にコロナ禍が発生して海外との間の移動が制限されたため、現在、動きは停止している。だが、海外向けコンテンツがなかった新型コロナ以前でも、日本語サイトを見て「京都で働きたい」と応募してくる外国人もいたといい「需要はある」(村上氏)と感じている。

外国人が働きやすくなるポイントとして村上氏は、ベトナム、韓国などから来ている外国人に話を聞くと、母国人のコミュニティーが心の拠り所になっていると指摘。インターナショナルスクールなどを核に外国人コミュニティーを充実させ、孤独への不安を解消することも重要ではないかと訴えた。

入山氏は、かつてのベンチャー企業から世界的な大企業に成長した企業を育んだ京都で今後、IT系のメガベンチャーが誕生することに期待を示す。

マネーフォワードの村上氏は「京都大学発のベンチャー企業は多く、シード(種)は生まれている」と指摘。成長段階では、マーケットがある東京に拠点が必要となるが、東京は営業拠点にとどめ、開発拠点は東京から離れた京都に置くという組織は「デジタル系ベンチャー企業の1つの形としてありうる」と語る。

LINEの御代田氏は、ユーザーへのリーチを広げてサービス規模を拡大することが最重要というインターネットサービス事業では、世界規模のスケールを目指すべきだが、国内だけで一定の市場規模がある日本では、国内で完結する方向にまとまってグローバル市場が後回しになる傾向があると推察する。その点、多くの外国人が訪れ、日常的に海外文化に触れられる京都は「日本の枠を超えるメガベンチャー誕生の下地がある」と期待。入山氏は「京都がコスモポリタンシティーとなることで、市場が小さいことを逆手に取ってグローバルを目指せるようになるかもしれない」と応じた。

京都で実際に働いてみた手応えについて村上氏は、開発の仕事はほかの拠点と同様以上に回るとしたうえで「京都では、じっくり仕事に向き合うことができる。思考の質も上がったと感じる」と評価。「京都は閉鎖的な面があるといわれるが、私自身は、そうした経験をしたことはない。働くにも住むにもよい街だと思う」と述べた。京都のオフィスは空室がない状況が続いていたが、コロナ禍で空きも出てきたとして「今が京都進出のチャンスかもしれない」と検討を促した。

御代田氏は、中心部から少し離れると豊かな自然や、落ち着ける社寺がある京都の環境はオンとオフを切り替えやすく、仕事もプライベートも充実できると強調。「京都は旅行先のイメージが強く、住むには窮屈と思われがちだが、実際に住んでみることで、そのよさを実感できる街だと思う。京都に拠点を開設する企業が増え、企業間の連携が広がることを期待している」と呼びかけた。

京都市長からのメッセージ

京都市長
門川 大作

京都市長の門川大作氏は「京都は世界中から多くの人が訪れる観光都市、文化都市と評価いただいているが、ビジネス面でもイノベーションに適した環境という強みを指摘いただいた」とこのフォーラムを総括。文化・芸術、学術、哲学の面でも優れている京都は、それらをサイエンス、テクノロジーと融合したイノベーションにつなげることができる。京都に根付く共生の理念、長期視点が優良企業を生み、また経営を支えている。京都が最も大切にしてきた多様性によって、世界の企業のリーダーがビジネスの着想を得ている例も多いと語った。

コロナ禍によって、孤立、格差、地球温暖化、またデジタル化の遅れといった社会的課題が顕在化した今こそ、その解決策を導くイノベーション、スタートアップが求められていると強調した門川氏は「京都は、その可能性と責任を認識し、課題解決に向けた取り組みを大胆に進める」と決意。弱点とされる産業用地やオフィス不足については、景観と両立させながら確保を図るとした。

最後に、待機児童ゼロが続く保育や、教育の環境が整った住みやすい街であることにも言及して「京都に拠点を設け、お越しいただきたい。寄り添い型でご相談に応じたい」と、京都進出を呼びかけた。

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