日本人に必要なのは危機感と失敗の積み重ね 英語習得は明確な目的意識の有無で決まる

拡大
縮小
プロノイア・グループ代表取締役 TimeLeap取締役
ピョートル・フェリクス・グジバチ
Piotr Feliks Grzywacz
連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。モルガン・スタンレーを経て、Googleで人材開発、組織改革、リーダーシップマネジメントに従事。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。16年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、20年にエグジット。19年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。『NEW ELITE』ほか、『パラダイムシフト』『PLAY WORK』『RELAX ENGLISH』など著書多数。ポーランド出身
コロナ禍でおうち時間が増えたことをきっかけに、英語力を強化しようと頑張っている人も多いのではないだろうか。しかし、なかなか長続きしなかったり、自分に適した学習法がわからなくて迷走したりというのも、また事実。どうすれば英語力を上げることができるのか、20カ国語を習得したという元Googleの人材開発担当者であるピョートル・フェリクス・グジバチ氏に聞いた。

言語は相手をより深く知る大切なツール

──外国語に興味を持ったきっかけは何ですか。

ピョートル いろいろありますが、幼少期の環境が大きかったと思います。子どもの頃、母国のポーランドはまだ共産主義国で、手に入る情報も、人の移動も制限されていました。子どもってダメと言われたことに、ものすごく魅力を感じる生き物なんですよね。だから、ポーランドの外にある世界に憧れ、諸外国の地理や歴史、それに社会学などに熱中し、もっと深く知るためにはその国の言語を学ぶ必要があるという考えに至ったのです。

──多言語を話せることのメリットは?

ピョートル 現実的な話として、EUの中でも経済的弱小国であるポーランドの人間という立場から言えば、職を得られるチャンスが広がるということですね。ポーランドもそうですが、発展途上国では語学習得に対する意欲は並々ならぬものがあります。

個人的な観点では、その国の言語を話すことで、現地の人たちのアイデンティティーをより深く知ることができ、よりよいコミュニケーションが取れる。それが非常に楽しいということになります。

1つ例を挙げましょう。言葉によって訳すのが難しい単語がたくさんあります。本音と建前、根回しといった単語も、訳しにくいといわれていますよね。ポーランドにもżalという単語があります。虚しい、悲しい、懐かしい、後悔など、いろいろな感情が含まれた単語で、使われる文脈によってさまざまな訳し方があります。これって外国人、とくにつねに人生に対してポジティブであれと考えるアメリカ人には伝わりにくい単語なんです。

僕は20年前に来日したとき、多くの日本人がポーランド出身の作曲家、ショパンの音楽を好きだということが不思議でした。でも、よく考えてみるとショパンの音楽はżalがコンセプト。それに気づいたときに「あー、なるほど!日本人はżalに共感できるんだ」と腑に落ちたのです。こういうことがわかると、より深い部分で人とコミュニケーションができる。それが他国の言語を学ぶ醍醐味だと思います。

しかも、話せる言語が増えると、自分のアイデンティティーが広がり、成長していく。ゲーテは「何カ国語を話せるかによって、自分が何人いるかが決まってくる」と言ったそうですが、まさにそのとおりです。

教材が豊富な日本で勉強しない理由はない

──スムーズな意思疎通はビジネスを行ううえでも重要です。それがわかっていても、英語の勉強は三日坊主で終わりがちです。

ピョートル 目的意識の問題です。長続きしないのは、学んでもメリットがないと思っているか、危機感がないということです。日本は本当にすばらしい国です。治安はいいし、電車は時間どおりに運行されているし、その気になれば欲しいものは何でも手に入る。楽をして生きていくことができます。わざわざ環境の異なる国に行って、まったく違う価値観の中で新しい挑戦をしてみようとは思わないですよね。

でも、世界はどんどん変わってきています。海外との取引はますます盛んになり、日本にもダイバーシティーが広がっています。しかも今、世界は村社会に移行しつつあります。日本の村社会とは違う、いわゆるオンライン村という意味です。例えばマーケティングのプロなら、マーケティングのオンラインサロンやSNSで情報交換をしています。日本人同士の情報交換と、海外のいろんな人たちが集まって行う情報交換とでは、その質に大きな差があります。SNSでは海外の著名な経営者が話した内容を日本語で解説したものもありますが、情報伝達のスピードは遅いし、訳者の主観も入るので、情報の質も高いとは言えません。

ビジネスパーソンは、高い語学力と情報収集力、異なる環境への適応力が不可欠です。いつまでも英語なしで暮らせると思っていたら大間違いです。

──効果的な学習方法はありますか。

ピョートル 目から入ってくる情報で学ぶのが得意な人もいれば、耳からの情報のほうがいいという人もいるので、学習方法は人それぞれですね。

自分がやってみて効果的だったのは、日常的によく使うモノや自分のアイデンティティーを表現する語彙から学んでいくこと。文法なら動作を伝えるものから先に学ぶといいと思います。自分の生活からかけ離れた単語はあまり役に立ちませんし、This is a pen. という描写表現よりも、ペンを貸してくれる?とか、このペンを買おう!というシチュエーションのほうが多いからです。

昔と違って今は教材が豊富ですよね。本やCD、DVD、テレビやラジオの番組はもちろん、インターネットにつながれば、英語学習用のアプリはいっぱいあるし、動画コンテンツも見放題。通勤中や寝る前などの隙間時間に手軽に学ぶことができます。これだけ環境が整っているのに、勉強する時間がない、続かないというのは、ただの言い訳です。英語を学ぶ明確な動機やメリットがあれば、続けていくうちに面白くなり、1~2年でかなり上達するはずです。

──挫折を防ぐ方法は?

ピョートル 完璧を目指さないことです。失敗の積み重ねで成長すると考えたほうがいい。実際、僕も語学を勉強して海外へ行き、現地の人と接してみると失敗ばかりです。でも、失敗を前提にしているので、通じなくて四苦八苦していること自体が楽しい。現地の言葉であいさつするだけでもみんな喜ぶし、しだいに心を開いてくれます。そこからつたなくてもいいからどんどん話しかけていくことで、言葉自体が伝わるようになっていきます。

緊張しているボクサーは、いいパンチを繰り出せない。語学もそれと同じです。完璧を求めず、失敗を恐れず、リラックスして英語を話してみてください。

今、この時代は自分のグローバルネットワークを広げるチャンスばかり。適切な学習方法で語学力を伸ばせば、自分のやりたいこと、世界にもたらしたいことを実現できるはずです。

関連ページ
リクルート
「スタディサプリENGLISH」が新プラン提供
NHK出版
NHK出版の「ポケット語学」が“使える”理由