沢井製薬が他領域に挑戦「真の狙い」とは? ジェネリック大手「新規事業が加速」の背景

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人口減少と高齢化が加速し、医療費高騰が避けられない日本において、安価で高品質なジェネリック医薬品へのニーズは年々高まっている。実際、使用割合を80%とする政府目標がほぼ達成され、今やジェネリック医薬品は社会のインフラといっても過言ではない状況だ。一方で、国内市場の大幅な拡大は期待できないうえ、新型コロナウイルスや市場環境の変化などの影響で、業界全体が苦しい舵取りを強いられている。こうした中、海外展開やヘルスケア領域への進出など、新たな市場開拓に挑戦するジェネリック医薬品メーカーの沢井製薬代表取締役社長の澤井健造氏に、その狙いや今後の展望を聞いた。
沢井製薬
代表取締役社長
澤井健造
京都大学大学院薬学研究科修了。住友製薬(現・大日本住友製薬)を経て、2001年に沢井製薬入社。20年6月より現職

――新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響で世界経済が減速する中での社長就任でしたが、約1年が経過しました。

澤井 コロナ禍で各方面へのごあいさつもままならない状況です。社内も工場と研究所以外は在宅勤務が進み、社員とのコミュニケーションが不足しがちになっていました。そのため、従来は一方的に情報を流すだけだった社内イントラを双方向のコミュニケーションができるよう改善しました。プライベートでは、今まで以上に家族と一緒に過ごす時間が増えたことが思わぬ収穫でした。

業績面では、医療機関への受診の抑制で、呼吸器官用薬や抗生物質といった比較的価格の低い薬の売り上げは減りましたが、利益率の高い新製品が伸びたため、コロナ禍によるマイナスをカバーできています。

――ジェネリック医薬品市場を取り巻く環境も大きく変化しています。

澤井 2年に1回だった薬価改定が実質的に毎年改定になるので、その影響を受ける可能性があります。また、ジェネリック医薬品の使用割合を80%とする政府目標がほぼ達成され、従来のような大きな伸びしろはないかもしれません。

ただ、毎年特許切れの製品は出てきますし、当社は同業他社と比較しても、上市している新製品は多く、かつ当社しか発売していないものが何品目もあります。それらは価格競争がなく、売り上げに大きく貢献しているので、今後も他社が出せないような新製品を数多く上市することで、薬価改定の影響を吸収していきたいと考えています。

――ジェネリック医薬品業界のリーディングカンパニーとしての強みは?

澤井 安定供給力と研究開発力です。

国内6工場体制で年間約155億錠の生産能力があり、2020年の販売ベースは約124億錠ですので、まだ余裕があります。大きな錠剤の小型化や、水なしでも飲める口腔内崩壊錠(OD錠)、コーティングなどを施して苦みを少なくするといった製剤技術力は当社の強みだと自負しています。加えて、当社独自の技術であるオリジナルのプレミックス添加剤※1やオリジナルの核粒子技術※2を生かした製品も出てきています。

また、製品が高品質であることはもちろん、患者さんにとって飲みやすい形や取り出しやすい包装、品名を刻印ではなく印刷を用いて視認しやすくするといった工夫を行っています。

そして、ジェネリックメーカーの場合、特許にチャレンジしてできるだけ早くジェネリック医薬品を世の中に出すという特許戦略も非常に重要です。ビジネスの観点だけではなく、患者さんのためにも、知財力をよりいっそう高めていきたいと考えています。

※1 錠剤、とくにOD錠を製造するに当たり、錠剤としての高い硬度、速崩壊性、耐湿性など相反する特性を兼ね備えさせるために開発した特定の添加剤の組み合わせ

※2 原薬(有効成分)の苦味を抑えるためのコーティングをする際、コーティング剤を少量で均一に被覆することができ、効率的に原薬の苦味を抑制できる技術。従来よりもコーティング顆粒を小さくできるため、錠剤サイズも小型化できるとともに服用感の向上にも効果を発揮した

持続的な成長のため、主軸事業以外の分野に進出

――2017年には、Upsher-Smith Laboratories, LLC(以下、USL社)を買収して米国にも進出しました。

澤井 USL社は19年に100周年を迎えた老舗ですが、米国の製薬会社の中では小規模なほうです。また、日本と異なり米国の薬価制度は自由価格制ですので、価格競争が激しく市場の変化を非常に受けやすい。そのため、競合が多い品目ではなく、他社がなかなか入ってこられないような付加価値の高い品目の開発に注力しています。将来的にはそういったラインナップを拡充し、価格競争に巻き込まれにくい品目の割合を増やす方向で動いています。

――他企業との業務提携が続いていますが、その狙いは何でしょうか。

澤井 安価にお薬を供給するのが、われわれジェネリックメーカーの使命ですので、ある程度価格が安くなるのは仕方がない面があります。先ほどお話ししたとおり薬価改定の影響も避けられない。何より、新型コロナの影響でライフスタイルが変わり、医療体制もよりデジタル化され、一部オンライン化や在宅医療が普及していくことが予想されます。

こうした中で持続的に成長していくためには、ジェネリック以外で人々の健康に貢献できる分野にも挑戦していかなければなりません。

20年9月に資本業務提携を発表したサスメド社は、不眠症治療用アプリを開発しているほか、臨床開発試験の効率化につながるブロックチェーン技術や、データ分析の効率化やコスト低減が期待されるAI自動解析技術などの特許技術を保有しています。こうしたデジタルヘルスケア領域でのノウハウと当社の知識や経験を融合させた事業展開の検討を進めているところです。

21年1月にはイスラエルのニューロリーフ社と、片頭痛およびうつ病向けのデジタル医療機器の日本における独占開発販売契約を締結しました。これは外科手術を伴わない非侵襲型のニューロモデュレーション※3機器で、日本ではあまり普及していませんが、薬物治療以外の選択肢として片頭痛やうつ病に対する治療の幅を広げられる可能性があります。

※3 デバイスを用いて電気・磁気刺激や薬物の投与を行い、神経活動を調整する治療法

――ニュージェン・ファーマ社と筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬の共同開発もスタートしていますが、なぜ新薬開発に挑戦するのでしょう。

澤井 ジェネリック事業が主軸ではありますが、新薬開発への挑戦を否定するものではありません。オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の中でも、ALSのような特殊な病気で苦しんでいる方たちの治療満足度が十分ではないという点からも、チャレンジする価値はあると考えました。まずは、罹患りかん者数の多い米国で臨床を進めていきます。

4月にHD化、グループ一丸となってチャレンジを

――ジェネリック医薬品業界では、他社製品で健康被害が発生するなど、業界を揺るがす問題が相次ぎました。

澤井 当社が所属している日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)では、会員各社が定期的に集まり再発防止策を検討していく予定です。こうした事態が二度と起こらないよう、われわれが先頭に立って旗を振っていきます。

医薬品を製造する工場は、法令で定められた基準に基づき、製造管理と品質管理を行っています。当社では、工場が法令に基づいた基準に適合した製造管理と品質管理の下で製造を行っていることを品質保証部門が現地等で確認しています。

また、こうした事態で製品の供給が止まるといちばん困るのは患者さんです。沢井製薬個社としては、代替製品の供給体制をできる限り整えて供給を支えるようにしていきます。

――4月からは持ち株会社体制に移行しますが、今後はどのような事業展開を考えていますか。

澤井 さまざまな新規事業に挑戦していくためには、ホールディングスという形態をとってグループ全体の方針を考えたほうがスピーディーかつ適切な判断が下せます。そして、人材育成においても、持ち株会社傘下の事業会社で経験を積むことで、次世代の経営人材の早期育成を図ることができます。

日本の人口は、減少傾向にもかかわらず65歳以上は42年まで増加すると予測されていて、医療財政的には厳しい状況が続きますので、ジェネリック医薬品は重大な役割を担っています。日本の患者さんが最も使用している薬という点では、社会のインフラといっても過言ではありません。その仕事をしっかりやりながら、ジェネリック以外でも患者さん、ひいては社会全体のお役に立てることであれば、グループで一丸となってどんどんチャレンジし、総合的なヘルスケアカンパニーへと成長していきたいと考えています。

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