急速に広がるオンライン学習の動き
15億7177万222人。2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって影響を受けた児童生徒の数だ。2020年4月の時点で、全国的な休校措置を講じた国は192カ国に上った(出典:文科省)。こうした中、世界の学校教育はどう変化したのか。関数電卓で国内トップ、電子辞書で世界トップの販売台数を誇るカシオの事業戦略本部 教育BU 事業部長 太田伸司氏は、世界100カ国でカシオが築いた教育ネットワークの情報を基に、コロナ禍における世界の学校教育の状況をこう分析する。
「世界的に学校が休校になる一方、欧米を中心に多くの国でリモート授業が導入されました。日本を含むアジアの国々は状況に応じて対面授業が再開されましたが、アメリカなどでは今でもリモート授業が継続しています。コロナ禍が収束しても、このスタイルは続く可能性があります」(太田氏)
実は、アメリカの学校教育では新型コロナウイルスの感染拡大前から、ICTやデジタルツールが浸透しているという。
同社の教育BU 関数戦略部 ICTビジネス開発室 室長の上嶋宏氏はアメリカにおける昨今の教育のデジタル化の状況をこう説明する。
「2018年の時点でアメリカの学校教育では、2人に1台くらいの割合でデバイスが配置され、電子教科書も普及していました。そのため、弊社でも『こうした環境に合わせた教育ツールを提供しなければ』と考えるようになったのです」(以下、上嶋氏)
アメリカでWeb型ツールが登場した理由
日本の学校教育ではあまりなじみがないが、世界では20年以上前から、欧米を中心に関数電卓を使った数学教育が主流になっている。その関数電卓の販売台数において、カシオは世界トップを誇っている(同社調べ)。しかし、教育のICT化が進んでいるアメリカの教育環境には、ハードの関数電卓に加えソフトやWebツールのニーズが高まっていることに気づいたという。
「私たちの調査では、アメリカの学校教育で使われているデバイスの約半分をChromebookが占めていることがわかりました。Chromebookはクラウド保存が基本。そこで、アメリカでWebブラウザ上で使用できるクラウド型の数学学習ツールをリリースしました」
この数学教育ツールにいち早く反応したのは、アメリカの試験会社だったという。
「私たちの強みは、様々な書き方がある数式を正確に把握し、複雑な計算ができる技術を持っていること。関数電卓で培ったこの技術を活用し、電子試験や電子教科書向けのWebツールも開発しました。このツールを電子試験で使用すれば自動採点が可能になります。アメリカではすでにこのツールを使った電子試験の実施が予定されています」
オンライン学習の効果を最大限に生かす
一方、日本国内でもGIGAスクール構想や新学習指導要領など、ICT教育の施策が進められてきた。その動きを後押ししたのが、コロナ禍による休校措置だ。とくに私立学校ではいち早くオンライン授業が行われるなど、デジタルツールを使った学びへの転換が加速している。
「興味があることをインターネットで調べる」「デジタルカメラで記録を撮る」「動画を作成する」などはオンライン学習ならでは。こうした新しい学びには、その効果を最大限に生かすためのツールが必要だ。そこで、オンライン学習に最適なツールとしてカシオが新たに開発したのがClassPad.netだ。
「ClassPad.netは高校の6教科に対応した総合学習プラットフォームです。その最も大きな特徴は、オンライン辞書などのデジタルコンテンツとデジタルノートが一体化していること。通常の学習ソフトではその2つがバラバラになっているため、パソコンやタブレット上でアプリをいくつも開かなければなりません。しかし、ClassPad.netの場合はブラウザにアクセスすることで、オンライン辞書とデジタルノートを同時に開くことができるのです」
カシオの電子辞書は、すでに日本の多くの高校で使われている。こうしたコンテンツをデジタル化してプラットフォームに載せられる点も、同社がハード製品で培ってきた強みだ。ClassPad.netでは今後、辞書だけでなく参考書や問題集など、幅広いデジタルコンテンツへと広げていく予定だという。
デジタルだから図もグラフも自在に動く
ClassPad.netのオリジナリティーは、デジタルノートでも光っている。テキストを書き込めるだけでなく、動画や検索したURLなどを付箋のように自由に貼り付けることができるのだ。このスタイルを採用した理由を上嶋氏はこう話す。
「アイデア会議で模造紙に付箋でアイデアをどんどん貼っていくようなイメージです。というのも、今の教育で求められるのはディスカッションスキルや情報をまとめるなどの情報活用能力。そのため、単にテキストを書き込めるだけでなく、さまざまなデジタルコンテンツを呼び出し、付箋として挿入できるようにしました」
問題に対する解答を教員と生徒が互いに共有できるため、教員からフィードバックを送ったり、生徒同士が意見を出し合って議論するなど、学び方の幅が広がる。
またClassPad.netが理数系の教員から高い評価を受けている点は、デジタルノートで数式やグラフを呼び出せること。
「ClassPad.netを使うと図形やグラフもさっと書くことができますし、授業で先生が図形やグラフを動かしながら説明することも可能です。さらに統計などの授業で扱う数値も、手計算では不可能な大きな数字を扱うことができます。これは紙のノートや黒板にはない、オンライン学習ならではの機能といえるでしょう。
すでに2020年6月にリリースした数学版ClassPad.netを導入された学校から、感染症をテーマにした統計の授業に活用したというレポートをいただきました。実際の数字や事象を使って生徒さん自身が試行錯誤しながら感染の可能性などを試算しており、生徒さんからは『教科書の問題を解くだけではわからない実際の生活の中で使われる数学に触れることができて、数学の勉強をがんばるともっと面白くなるのだろうなと思い、やる気がでました』というコメントをいただいています。
紙のノートと鉛筆を使うのと同じくらい自然に、このデジタルノートとデジタルコンテンツを使いこなしてもらえたらうれしいですね」
スムーズな導入を支えるサポート体制
このClassPad.netをオンライン学習の最適ツールとして使いこなしてもらえるよう、カシオでは万全のサポート体制を整えている。
「弊社には、学校を訪問している営業マンが全国におり、学校からの問い合わせや困り事にすぐに対応できる体制がすでに整っています。これは電子辞書からの資産ですね。加えて、ClassPad.netの開発には、弊社で法人部門を担当していたシステムサポートのプロフェッショナルが参加しています。そのため、使い方はもちろん、システムに関するお問い合わせにも対応できるようになっています」
これまで国内外の教育現場とともに時代に合わせた教育ツールを開発してきたカシオ。2021年度は200校でのClassPad.netの導入を目指している。
「まずは高校でその価値を認めていただき、さらに精度を上げていきたいと考えています。そして、今後は小中学校、そして大学にも広げていき、オンライン学習の拡大と充実に貢献していけたらうれしいですね」
今後、国内でもさらに広がっていくと見られるオンライン学習。その学習効果を広げる教育ツールの役割は、ますます大きくなっていくことだろう。
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