SDGs貢献の切り札「ハイブリッド空調」 クラウド制御でCO2排出量とコストを削減

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昨年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」が宣言されるなど、日本でも脱炭素社会に向けた取り組みが着々と進んでいる。こうした中、東京ガスが展開するガスと電気によるハイブリッド空調「スマートマルチ」が注目を集めている。クラウド制御によって、効率的に稼働させることで、コストやCO2排出量を自動で削減する仕組みも備えている。今回は、東京ガス 執行役員 都市エネルギー事業部長の小西康弘氏とハイブリッド空調を導入した、朝日生命保険 執行役員の小野貴裕氏にサービスの魅力や導入のメリットなどについて聞いた。

――ハイブリッド空調の開発の背景には何があったのでしょうか?

小西 実は、ガスによる個別空調システム(GHP)は、35年前に登場し、現在まで順次、高効率化されてきましたが、さらに飛躍的に進化させるには課題がありました。また、2016年に電気、17年にはガスが全面自由化され、お客様が自由にエネルギーを選択できるようになる中、より高効率化を目指して「ハイブリッド」というコンセプトの下、開発を進めてまいりました。

その結果16年4月に発売されたのがガスと電気を同一冷媒系統に組み合わせた「スマートマルチ」と遠隔のクラウド制御により自動的に最適化する「エネシンフォ」です。この2つによって、まさにガスと電気のいいとこ取りを実現しています。18年度には省エネ大賞も受賞しました。

東京ガス 執行役員 都市エネルギー事業部長 小西 康弘

小野 われわれが採用させていただいた決め手は、まさにそのいいとこ取りという点です。当社は保険会社ですから、お客様からお預かりした資金を有効に運用するための投資用のビルを全国各地に保有しているのですが、近年では、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、省エネやCO2削減に取り組んでまいりました。そんなときにお話をいただいたのが「スマートマルチ」と「エネシンフォ」です。長年、設定温度を最適にしたり節約したりと、さまざまな取り組みをしてきましたが、そういった節約レベルの削減では限界がありました。ですから、この2つのシステムを導入することによって自動で最適化、しかもクラウドで遠隔操作してくれるというのは魅力的でしたね。

CO2排出量を約50%削減。初期費用は5年以内に回収

――開発には非常に苦労されたのではないですか?

小西 そうですね。「エネシンフォ」は、特許を取得しているのですが、最適な制御を実現するロジックを組むのに苦労しました。

電力料金は、ピーク時などに電気の使用が増えると基本料金が高くなりますので、そうした料金体系を考慮しなければなりませんし、負荷が小さいときは電気のほうが効率がよいとか、負荷が大きくなる夏の昼間はガスのほうが効率的といったように、さまざまな機器の特性や使用パターンのデータを加味してロジックを組んでいきました。

結果、この冬のように、寒波などで電力が逼迫し、電気料金が上昇した場合のような変動リスクも踏まえて、最適化を行うことが可能になっています。

――どの程度ランニングコストを抑えることができるのでしょうか?

小野 もともとガスの空調機を導入していた川崎市のビルでは、改修のタイミングでスマートマルチに変更しました。すでに2年ほど稼働していて、空調に関わるランニングコストは従前より約40%、CO2排出量は約50%削減できています

朝日生命保険 執行役員 小野 貴裕

小西 電気空調と比較すると、イニシャルコストが多少割高になります。ただ、基本的にはランニングコストの削減によって5年程度で回収できるため、メリットを実感していただけると思います。稼働時間が長いほどそのメリットを享受できるため、全国の商業施設や病院、工場、今回ご採用いただいたオフィスビルなどから多数、お声がけいただいております。また、スマートマルチは、15年メンテナンスとしているのですが、お客様の要望にお応えするために、20年までメンテナンスを延長し安心してお使いいただけるサービスの準備を進めています。既存の建物の改修でスマートマルチに切り替えていただくと、切り替え前と比較して効果を実感できるため、リピーターとなっていただけるのもこの商品の特徴です。

小野 実際、当社も川崎市のビルに続いて、新潟市と甲府市のビルでもスマートマルチへの切り替えを行っています。甲府市のビルは大半をわれわれのオフィスとして使用していますので、ランニングコスト削減だけではなく、当社のCO2削減の目標達成にも貢献してもらえると期待しています。

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試算条件:朝日生命川崎ビルの2016年度(GHP320馬力/20馬力×16台/1999年稼働)、2019年度(スマートマルチ320馬力/40馬力×8セット/2017年稼働)の空調部分に関わる電気・ガスのCO2排出量比較。CO2排出係数 2.21kg-CO2/m3(東京ガス公表値)、0.441kg-CO2/kWh(東京電力エナジーパートナー公表値/2019年度調整後)を使用。※負荷は年度により同一条件ではないため参考値。また、使用量・採用規模により削減量は異なります。

首都圏以外にも積極展開し、脱炭素社会に向けて進化を

――脱炭素社会を目指す中で、ハイブリッド空調は今後、どのような進化を遂げていくのでしょうか?

小西 すでに省エネモードや省コストモード、省CO2モードがありますが、さらなる細分化や、再生可能エネルギーを最大限に生かすための太陽光発電を優先させるロジックなど、さまざまなことを検討しています。今後、時間帯によってエネルギーの価格が大きく変わるダイナミックプライシングが登場する可能性がありますので、ガスと電気の使用比率を多様化するなど、新たな価値にも柔軟に対応していきたいと考えています。

小野 当社は、「サステイナブル社会の実現」に貢献し、ともに発展していく会社を目指しています。すでに投資の分野では環境や社会などに配慮した「ESG投融資」を進めていますが、今後はエネルギーユーザー企業として、CO2排出量のさらなる高い削減目標を掲げて取り組んでいくことを検討しています。それには、使っているエネルギー自体がカーボンニュートラルなのかどうかといったことも、より注視していくことになるでしょう。こうした観点からも、東京ガスさんにはパートナーとして引き続き、お力添えいただければと思います。

小西 「東京ガス」という名前ですので誤解されがちなのですが、首都圏以外でも積極的に事業展開をしています。また、19年にはエネルギー企業として初めて、「CO2ネット・ゼロ」に取り組む経営ビジョンを公表しました。

さらに、洋上風力発電などの再生可能エネルギーや水素エネルギー事業にも積極的に取り組んでいきますので、脱炭素社会を実現する総合エネルギー企業として、これからもSDGsの達成に貢献できる商品・サービスの提供に努めてまいります。

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