「合わない」時は、変わればいい 第7回 地域密着を超えた存在のスポーツ

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「密着」というよりも「一部分」

舞踏会に議員が来るという話を書いたが、さらに詳細を書けば、市にはスポーツ大臣に相当するポストがあり、スポーツクラブのボードメンバーの中には市議になっている人物もいる。つまり市の政治の中にがっちりとスポーツが含まれているのだ。

社交ダンスで盛り上がる「スポーツマン舞踏会」

このように書くとスポーツクラブと政治によからぬ関係があるのではと勘ぐる人もいるかもしれない。しかし、ドイツの市議は一部を除いて無報酬が基本。仕事を持ちながらスポーツクラブのボードメンバーや市議をしているため、構造的にいえば職業政治家にまつわるマイナス面が生まれにくい。これも職住近接で個人の可処分時間が多いことが前提条件になっているといえる。

 以上のように、ドイツの10万人都市エアランゲン市の様子をみると、

(1)スポーツクラブは人々の生活の質、多様な社交を支えるインフラであり、
(2)都市のなかで経済、政治、行政、学術などあらゆる分野と結び付いている。

 ということがわかる。「地域に密着している」というよりも、むしろスポーツそのものが「地域のひとつの重要な部分」になっているのがうかがえる。

 日本でも地域に密着したスポーツのあり方に対する議論は近年盛んになってきている。確かに「密着」という方針を進めることで、勝利至上主義の狭量なスポーツ像から脱し、スポーツが老若男女の社交の場となる可能性は十分ある。そうなることで、いじめ・体罰が発生しにくい構造に変化するかもしれない。が、「密着」から一歩進めて「地域を構成する一部」となるようなビジョンを考えるべきかもしれない。「スポーツ・フォー・オール(万人のためのスポーツ)」を実現してきた10万人の町を見るとそんなふうに思う。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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