高知県安芸市に見る、「農福連携」という光明

冬春ナスの生産地で、いま起きていること

最近、注目を集めている農福連携。文字どおり「農業」と「福祉」の連携を表す言葉だ。2005年に335万3000人だった農業就業人口は、2015年には209万7000人にまで縮小、毎年約12万人ずつ減少している計算だ※1。そのうえ農業従事者の高齢化も進み、65歳以上が全体の63.5%を占めている。このような厳しい労働力不足の状況に立たされている日本の農業において、障害者などに活躍してもらいたいという試みが農福連携だ。しかし、単に労働力として双方をマッチングするものではない。産業としての農業を守り発展させながら、障害や生きづらさを抱える人々が居場所を見つけ、さらには地域を支える存在となる。そんな農福連携の理念と、それを実践している高知県の安芸市農福連携研究会の取り組みを取材した。
※1 2015年農林業センサス報告書 調査結果の概要(第2巻 農林業経営体調査報告書-総括編-)

人手不足の解消だけではない
農福連携は「五方よし」である

1万6118円。これは日給ではなく、障害の程度が重い障害者の月額平均工賃(2018年度※2)だ。農福連携に詳しいJA共済総研の濱田健司氏はこう説明する。

「障害者は主に、就労継続支援A型事業所(以下、A型)とB型事業所(以下、B型)で働くことができます※3。事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上を受け取れるA型の平均賃金は月額7万6887円。一方、B型で働く人の多くは障害の程度が重く、平均工賃は月額1万6118円です。障害者年金を加えても、経済的自立は難しいのが実情です」

JA共済総研 調査研究部
主席研究員
濱田 健司

国内における障害者は、身体障害者、知的障害者、精神障害者を合わせ約936万人おり、人口の7%強が何らかの障害を持っていることになる。

「高齢者や生活保護受給者、生活困窮者、受刑者なども含めると、この倍以上の人々が、生活するうえで何らかの支援を必要としています。もちろんサポートは重要ですが、その方々にできることをやってもらうことで、やりがいや生きがいを感じながら社会を支えてもらうことができるでしょう」

また、障害者施設の多くは山間部に位置することから、自然と農業分野がその舞台になると考え、農福連携の理念が生まれたという。

「働き手が個人の特性に合った仕事とうまく出合えれば、一定の収入を得られるうえ生活リズムや心身も整います。実際、日常生活の訓練で手いっぱいだった障害者の方がイチゴ栽培に携わり、生活や障害が改善した例もあります」

その例では、ある福祉法人(障害者施設)がビニールハウスを建て、障害者が携わるイチゴ栽培を始めた。すると、それを見た周囲の農家からも次々に障害者に依頼が舞い込み、一定の収穫量を確保したことで、地元のスーパーに販路ができたという。農福連携は着実に広がりつつある。

もちろん障害者の仕事には、周囲によるサポートが必要だ。しかし、彼らと共に働くことで得られる気づきも多いのだという。

「障害者の方一人ひとりに寄り添う姿勢がまず必須。例えば、何か作業に失敗したとき、なぜ失敗したのか、どうすれば防げるかを一緒に考えることで、一生懸命働いてくれるようになります。最短の距離と時間でゴールにたどり着くことがよしとされがちですが、時間をかけたり、寄り道したりすることにも人生の面白さがあるはず。障害者の方と共に働くことは、人間関係や仕事に対する姿勢を考え直すきっかけにもなるでしょう」

それには、農家と障害者を単にマッチングするだけでは足りないという。「農家は労働力を確保でき、障害者は仕事を通じて役割を果たし、また地域に居場所を見つけられる。そしてすべてがよしとなる、近江商人の『三方よし』に未来よし、自然よしを加えた農福連携の『五方よし』。これが理想です」(濱田氏)。

「生きづらさ」を抱えた人々を
支える高知県安芸市のモデル

農福連携は各地で始まっているが、中でも独自の広がりを見せているのが高知県安芸市だ。日本有数の冬春ナス生産地として知られる同市が農福連携に取り組んだきっかけは、なんと自殺対策だったという。高知県安芸福祉保健所の公文一也氏はこう話す。

高知県は、温暖な気候や長い日照時間を生かしたナス栽培が盛ん。一般に夏~秋が旬とされるナスだが、高知県では、10月から6月に出荷される「冬春ナス」が主流だ

農福連携は各地で始まっているが、中でも独自の広がりを見せているのが高知県安芸市だ。日本有数の冬春ナス生産地として知られる同市が農福連携に取り組んだきっかけは、なんと自殺対策だったという。高知県安芸福祉保健所の公文一也氏はこう話す。

「高知県では自殺死亡率の高さが喫緊の課題となっていました。そんな中、安芸管内で発足した自殺対策ネットワーク会議の場で挙がった課題が、生きづらさを抱えた人、障害者、引きこもりの人の就労でした」

安芸福祉保健所
公文 一也

安芸市では、農家と働き手のマッチングを具体的に検討するべく、2018年にJA高知県安芸地区や安芸市、県、福祉機関などが安芸市農福連携研究会(以下、研究会)を立ち上げた。同会の会長を務めるJA高知県の小松淳氏はこう話す。

「農家と働き手のマッチングには、もともとJAにあった職業紹介事業の仕組みを活用しています。障害者などの就労支援窓口として、彼らと地域をつなぐセーフティーネットとなっています」

農福連携が本格的に始まると、すぐに11の農家で16人の働き手が雇用された。スタート時から順調に進んだ理由について、公文氏はこう振り返る。

「以前、引きこもりの方を農家に紹介したことがありました。コミュニケーションが苦手というこの方の特性に合った石拾いの仕事を依頼したところ、毎日コツコツ取り組む姿が評判となり、ほかの農家から『うちにも来てほしい』という声が上がるほどでした。このモデルケースがあったので、スムーズに受け入れ先を確保できたんです。ナス栽培には、余分な葉や花を摘み取る作業から、収穫作業、箱詰めまでさまざまな仕事がありますので、働き手の個性に合わせて仕事を紹介することができます」

農業就労サポーターが
一人ひとりをじかに見て継続的に支援する

研究会は毎月定例会を開催し、メンバーが気になった働き手の職場での様子などを共有し、連携を密に行っている。地域で農福連携の理解をさらに深めるため、農福連携サミットや各種講演会を開催し、農家や研究会メンバーの体験談を発信している。また、JAでは職員向けに障害者などの雇用や福祉にかかる研修会を行っているほか、市も積極的に農福連携の広報活動を行っており、現在は27カ所で77人が就労するまでになった。重要なのは、働き手の特性を把握し、彼らと農家双方に寄り添うことなのだと、公文氏は語る。

「本人の同意を得たうえで、働き手の経歴や得意・不得意、声かけの仕方など特性の情報を農家に伝えます。何か困ったことがあれば、保健所職員が駆けつけてサポートします」

また、働き手の増加に対応するべく、JAは専任の農業就労サポーター制度を創設し、支援体制を強化した。

JA高知県
安芸営農経済センター
営農企画課 課長
小松 淳

「初めの1~2週間は、JAのサポーターが働き手と一緒に働き、一から仕事を教えます。農家の負担が減りますし、働き手も自分のペースで仕事を身に付けることができます」(小松氏)

その後も、サポーターが職場を定期的に訪問し、安心して働き続けられる環境づくりを目指す。農家からの相談にも応じ、サポーターの存在は頼りにされている。

しかし、課題もあった。夏は農閑期で仕事がなくなるのだ。「夏期は収入が絶たれるうえ、生活リズムが崩れてしまいます。そこでナスの栽培時期を夏場にずらしたり、ほかの農作物も作ったりすることで1年を通じて働ける場を確保する農家も現れました。まさに地域ぐるみで周年雇用を実現できたと認識しています」(小松氏)

「取り残される人がいないように」
セーフティーネットの目を細かく

研究会メンバーがしきりに口にするのが、「取り残される人がいないように」という言葉だ。障害の特性や程度、生きづらさは人それぞれ異なるため、既存の制度ではすくい上げられない人もいる。しかし、そこで諦めずに次の一手を考える。その繰り返しでセーフティーネットの目を細かくしてきた。

その取り組みは、今確実に実を結びつつある。農業に携わることで居場所ができた人、生活リズムが改善された人、賃金を得て自信がついた人、引きこもりから正社員になった人もいる。また、「今度は自分が助ける側に回りたい」と、自身の体験を講演会などで語る働き手までいるという。

ナスの大きさや枝の大きさ、作業の仕方は農家により異なる。JAは、農家と働き手の双方を、サポーター制度などで手厚く支援している。こうした緊密な連携があるからこそ、農家側も安心して作業を任せることができる

最近では市外や県外からも就労希望者が集まっており、働く場も農業のほか林業や水産業に拡大中だ。「この取り組みを近隣市町村や県全体にも広げていきたいです。障害者などを線引きするのではなく、地域で共に生き、互いに助け合える社会をつくっていければ」と、小松氏は大きな期待を寄せる。

地域の実態に応じて、さまざまな広がりを見せる農福連携。農業だけでなく地域社会全体を変えるカギとして、今後も大きな役割を果たしていく。

>JA共済総合研究所「農福連携」について

JAグループは、「よい食」を考えてもらうことを通じて、日本の農業のファンになっていただくという思いのもと「みんなのよい食プロジェクト」を展開している

参考資料
※2 厚生労働省 障害者の就労支援対策の状況 平成30年度平均賃金・工賃
※3 厚生労働省 障害福祉サービスについて

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