楠木建が解説「ハンコ出社」これほど根強い理由

日本人に多い「書類に押印ないと失礼?」の不安

コロナ禍により、さまざまなニューノーマルが生まれつつある。その1つが「脱ハンコ」だ。政府が率先してその取り組みを進めようとしているが、これまで長い間、ハンコが果たしてきた役割を「電子サイン」が担い、脱ハンコを実現することは可能なのか。一橋ビジネススクール教授の楠木建氏は「『近過去』にさかのぼって振り返ると思いもよらない再発見がある※」というが、その真意とは――。
※『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』(日経BP社)で、米国のシリコンバレーなど「未来」を実現している国や地域から、技術や経営手法を日本に持ってくる「タイムマシン経営」という論理を反転させた『逆・タイムマシン経営論』を提唱。過去を見ることによって初めて得られる視点や知見があるという理論

100年以上続く「ハンコ」習慣のなぜ

そもそもなぜ、ビジネスにおいて「ハンコ」が必要とされてきたか、考えたことはあるだろうか。ハンコの歴史は古く、諸説あるが紀元前5000〜3000年ごろ、メソポタミア文明の時代にすでに原型が誕生していたといわれる。日本では、建武中元二(57)年に漢から送られたとされる金印「漢委奴国王」(福岡県志賀島で出土)が有名だろう。

時は過ぎ、明治時代には、当時男子40〜50%、女子15%ほどという識字率の低さから、証書にサインの代わりとしてハンコを用いるようになった。このころは現在と違って、ハンコが実質的な意味を持っていたのである。さらに、やがてハンコの盗用・偽造リスクを避けるために法令化され、今に至る。

しかし、今では安価なネーム印が市販されており、誰でも気軽に買える時代。文書に押印があっても、本当に本人が押したか正確にはわからないのが実態だ。それでもビジネスの現場で「ハンコ」が続いてきた理由は何か。楠木建氏によれば、ハンコがコミュニケーションにおける「因習」として存在してきたからだという。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授、ボッコーニ大学経営大学院客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授などを経て、2010年より現職。『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)など著書多数

「人間には歴史連続的な本質があります。例えば、電子メールが登場した当初は手紙の因習に合わせて、メールの冒頭に『前略』と入れるのが常識でした。これは、手紙という歴史連続性に基づくものです。一方で、テクノロジーは次々に仕様がアップデートされていく、いわば非連続性が本質です。こうした性質の違いから、人間社会にテクノロジーが浸透するのには、時間とエネルギーがかかります」

例えば、PDF形式などデジタル化された書類のやり取りなら、署名者の同一性を認証でき、作成者、作成日時、編集・改ざんの有無などの記録ができて、セキュリティーが担保される。メリットは明白で、しかも多くの人がそのことを認識しているにもかかわらず、人間は連続的にしか変化できないようだ。

「ただし、漸進的なじわりじわりとした変化でも、振り返ると『そんな時代もあった』と感じるくらい大きな変化になることもあります。例えば最近は、夏場にネクタイをしている人は少なくなりました。みんながネクタイをしていた頃は『そういうもんだ』という因習(社会的な合意)がありましたが、その合理性を説明できる人はいない。『これまでずっとやってきたから』という理由でしかない。『因習に従わないことは相手に失礼になるのではないか?』という不安から、因習が守られてきたんです」

ネクタイの例でいうと、地球温暖化対策をきっかけに、政府が旗振り役となってクールビズを進めてきた。各企業も社員に周知したり「クールビズ実施のため、軽装で業務を行っています」と社内に掲示したりするなど具体的に取り組んできた結果、ようやくノーネクタイが社会に浸透したといえる。

伊藤博文が実際に使っていた花押(かおう)。戦国武将や閣僚らが自らの署名であることを示すために独自のデザインで作っていたとされる。出典:国立公文書館所蔵資料

「ひとたび因習から解き放たれると、もう戻ることはできません。ハンコが電子化され、ただのサインに変わったら少し味気ないと感じる人もいるかもしれないですね。それなら私は、自分の名前を図案にデザインする『花押』を提案したいです。花押を署名と一緒に取り込んで電子化すれば、その人らしい情緒を残しながらも、便利に使えるはず。とにかく電子サインは、ペーパーレスで使え、文書を運ぶ手間やコストを削減できるなど、たくさんのメリットがありますから」

では、企業がハンコの因習から脱し、電子サインをスムーズに導入するにはどうすればいいのか。

因習を捨てオンライン取引可能にする「Adobe Sign」

楠木氏の話からわかるのは、社会全体で古い習慣を捨て去るというコンセンサスが取れて初めて因習がなくなるということ。そして、ハンコのそれがなくなるのは、まさに今だろう。政府が2020年10月に開いた規制改革推進会議で、行政手続きにおける書面や押印の見直しを始めるとしているからだ。国全体の動きが活発な今こそ、ハンコの因習を捨て、電子サインを導入するタイミングだ。

電子サインにはいくつかの選択肢があるが、テキストによる登録はもちろん、署名を画像データとして取り込み、「花押」も登録できる「Adobe Sign」が有力な候補だろう。Adobe は、PDFという形式を開発し社会に浸透させた企業で、「Adobe Sign」は今年ですでに10周年を迎える。国内の法的拘束力を保有していることも、日本企業に受け入れられているポイントだ。

Adobe Signの実際の画面。上部にサイン登録画面、下部に実際のサイン箇所が見えるようになっており、シンプルでわかりやすいUIも魅力だ

業務フローやコスト面での貢献も大きい。「Adobe Sign」の導入で、印紙代や郵送費など1つの契約にかかる費用を、平均して約1600円(※)節約、契約締結にかかる時間(書類の郵送期間など)を約83%(※)短縮できる。「Adobe Sign」の導入がほかの業務に影響を与えては本末転倒だが、他社提供のビジネスサービスともスムーズに連携できるので、すでに使用しているシステムやプロセスに簡単に追加できる。最近ではリモートワーク推進などの追い風もあり、「Adobe Sign」への無料体験の申し込み数が、以前に比べて約3倍(※)に伸びているという。

※すべてアドビ調べ、調査対象:「Adobe Sign」への無料体験申し込み者数 調査期間:2020年3月

むろん、アドビは契約書のみならず、業務に必要なさまざまな文書のデジタル化について豊富な実績がある。PDFの機能も豊富で、数十年先など長期間にわたる文書の管理についてもさまざまな手法を提案してくれるので、相談しがいがあるだろう。

その典型的な事例が、ソニー銀行だ。同行は、主力商品の1つである住宅ローンの契約業務に「Adobe Sign」を導入した。非対面でローン審査を行う際、以前はローン審査を完了した顧客に紙の契約書類を郵送し、押印と印鑑登録証明書の準備を依頼していたため、完了まで数週間かかっていた。「Adobe Sign」導入により工数が大幅に減ることでリードタイムを短縮し、最短で即日契約が可能になった。契約関連コストは、1件につき最大10万円削減できたという。

「Adobe Sign」が評価されたポイントは、住宅ローンにも活用できるほどの高い信頼性と、ソニー銀行が利用している顧客管理システムとの連携性の高さだ。この取り組みにより同行は、インターネット専業銀行に期待される本質的な「オンライン」取引の価値を発揮できるようになった。

楠木流「ビジネスの本質を見極める方法」

コロナ禍でビジネスの現場が様変わりする今、ビジネスの本質を見極める視点が大切だ。業務効率化を狙うなら、業務コストの削減だけを追求するのではなく、自社の業務フローや文書の承認規定そのものを見直すことが必要となる。そのためのツールとして「Adobe Sign」は有効だろう。

「もちろんハンコならではのよさもありますが、それはビジネスで生きる価値とは異なる。ビジネスの世界ではいずれハンコの習慣はなくなると私は予想しています。興味深いことに、近過去にさかのぼると、人々はいつの時代も『今こそ激動期!』と言っているんです。『100年に一度の』という言葉も何度も聞きます。『これまでの常識は通用しない』『時代の変化に適応できない者は淘汰される』といった危機感にあおられるのではなく、いったん人と世の思考と行動のありようを冷静に見極め、そこから未来についての洞察を引き出してほしいと願っています」

「ハンコ」の歴史を学びながら、電子サインの正しい価値を見極め、ツール導入を検討したいところだ。

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