「環境DNA分析」で水環境・資源の保全に貢献 龍谷大学先端理工学部で実践する研究と教育

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魚の成長段階や健康状態を「水」から読み解く新技術

開発から10年、環境DNA分析技術は、今、目覚ましい進展を見せている。2020年、山中准教授らの研究グループは、魚類など脊椎動物由来のメッセンジャーRNA(mRNA)を水試料から検出できることを世界でも早い段階で実証した。水中に含まれているmRNA量は、DNAに比べて非常に希少なうえに分解が速いため、検出は難しいとされてきたが、それを見事に成功させたのだ。

分析の流れ(一例)

mRNAを検出できると、どういうメリットがあるのだろうか。「種が同じなら、若い個体も年老いた個体もDNAは同じです。一方mRNAは、特定の時期やイベントに必要なタンパク質が合成される際に一時的に作られる核酸物質であり、個体の状態によって体内で作られているmRNAは異なります。それを読み解くことで年齢や病気の感染履歴、空腹かどうかなど、個体の状態を推定できると考えています。解析技術が確立すれば、例えば性成熟期や産卵期の魚が多い生息域を特定して捕獲を控えたり、養殖場をモニタリングして感染症の発生を抑えたり、餌の量を適切にコントロールしたりすることも不可能ではなくなります」と展望する。

すでに環境DNA分析の社会実装が進みつつあり、この技術を使ったアセスメントを事業とする企業も登場している。「今後は最適な分析方法を確立し、分析品質の維持や指標の統一に寄与することも私たちの務め」として、山中准教授は標準プロトコルの構築と継続的な改良を進めている。さらには「環境DNA、RNAを解析する新規技術の開発に挑みたい。今以上に解析精度を高め、それまで検出できなかったものを検出できるようにするのが、研究の醍醐味です」と目を輝かせる。

新しい分析技術を身に付けた人材を育成する先端理工学部

こうした先端領域の研究に触れられるのが、龍谷大学先端理工学部だ。同学部では、国内理工学部の中でも早い段階に「課程制」を導入。25のプログラムから自由に選択し、分野を横断して学べるカリキュラムを整えている。その中の1つ「先端環境モニタリング」では、環境DNAのほか、安定同位体分析など、環境や生物をモニタリングするさまざまな手法を習得する。「生態学に関わる分析技術だけでなく、工学や情報科学など分野を超えて幅広い技術を身に付けられるのが、このプログラムの魅力です」と山中准教授。もちろん山中准教授をはじめとする多様な研究者から直接指導を受けることが、かけがえのない学びになる。

今後、水産資源管理や環境アセスメントの分野に環境DNA分析の導入が進めば、それを実践できる人材も必要になる。「先端理工学部からそうした分野に先端の技術と知識を持った人材を輩出していきます。分野横断型の学びや調査研究といった実践的な学びを通じて専門分野や価値観の異なる人々をまとめ、物事を前に推し進められる、あるいは問題を論理的に考え、適切な方法や手段を導き出し、解決までたどり着ける。そんな力を備え、社会の広い分野で活躍できる人材の育成に尽力していきます」と山中准教授。龍谷大学先端理工学部の研究と教育に期待が高まる。

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