メガバンクの「日本企業を変えるDX革命」 ソリューションプロバイダーへの挑戦

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「レガシー」「保守的」なイメージがある銀行が今、大きく生まれ変わろうとしている。SMBCグループは、電子契約サービス「SMBCクラウドサイン」と、オンライン本人確認サービス「Polarify eKYC」を自行で導入し大きな成果を上げるとともに、外部にもその知見とソリューションの提供を開始。顧客とパートナーとなって「共創」しながら日本企業の「文化」を変えようとしている。

「融資だけではない」銀行の社会課題解決サービス

2020年ほど、「脱ハンコ」が注目された年もなかっただろう。政府の後押しからその流れが一気に加速し、押印が時代遅れの象徴と見なされるようにまでなっている。それを裏付けるのが、電子契約サービスの躍進だ。三井住友フィナンシャルグループ傘下の「SMBCクラウドサイン」の20年2月と12月で実績を比較すると、導入企業数が約17倍、契約書送信数が約130倍にも上るという。SMBCグループ15社が導入しており、年間1.7億円のコスト削減と2.2万時間もの事務効率化に成功したと発表した。保証型ファクタリング契約のオンライン化(サービス名:Amulet)や相続手続きのデジタル化(サービス名:スマート相続口座)など金融商品での利活用も業界に先駆け取り組んでいる。

並行して三井住友銀行では、同じくグループ子会社のポラリファイが提供するオンライン本人確認サービス「Polarify eKYC」を口座開設で採用。これはスマホで撮影した顔写真と本人確認書類で本人確認を可能とするサービスで、従来は申し込みから口座番号の通知まで1~2週間かかっていたが、最短で当日に通知が可能になる革新的なもの。「Polarify eKYC」は金融機関中心に導入されていたが、20年は古物商や通信業者など多様な業界から問い合わせが増えたという。「契約」も「本人確認」もオンライン上で行うことがどの業界でも当たり前になる時代はすぐそこかもしれない。

さて、これらのサービスを生み出すSMBCグループの特徴は、導入と同時に顧客企業にもソリューションを提案し、「共創」していく身軽な姿勢だ。三井住友銀行の杉本秀和氏はこう説明する。

三井住友銀行
本店営業第三部 部長代理
杉本 秀和

「銀行員の仕事は融資だけではありません。社会課題の解決を標榜し、お客様と一緒に新しいソリューションを作り世の中に提供していく『ソリューションプロバイダー』を目指しています。

『SMBCクラウドサイン』や『Polarify eKYC』は自分たちが直面する課題に向き合う中で『こういうサービスがあれば』と考えて生まれてきたもの。お客様と課題を共有し、一緒にカスタマイズしながら作り上げています」

イオン銀行との「共創」で進化し続ける

グループ外で両サービスを導入した企業にイオン銀行がある。07年開業のイオン銀行は窓口で一切現金を扱わず、紙の通帳も発行しないなどコストを削減し顧客に還元する「常識破りな銀行」としてスタートし、現在もその姿勢は変わらない。

三井住友銀行からソリューションの提案を受けたとき、イオン銀行ではどのような課題があったのか。イオン銀行 取締役兼執行役員の黒田隆氏はこう語る。

「われわれは『いつでもどこでもつながる銀行』の実現に向け、新たな非対面サービスの提供など、DX推進に積極的に取り組んでいました。電子契約に関しては、住宅ローン領域では進んでいたものの法人契約では活用しておらず、範囲を広げていくことを考えていたところでした。

一方、オンラインでの本人確認に関しては、収益に直接つながるものではないですが、お客様の利便性を考えれば標準装備として必要だと捉えました。スマホアプリが不要でブラウザから利用できるのはかなり便利ですね。20年10月に導入しましたが、対象サービスの口座開設で7割のお客様が『Polarify eKYC』を活用されており(取材は20年12月上旬)、予想以上に浸透スピードが速いです」

(右)イオン銀行 取締役兼執行役員 経営企画担当 黒田 隆
(左)イオン銀行 総務部 吉田 雄貴

両サービスとも他企業のサービスと比較検討したというが、決め手となったのは「金融グループが開発し、使われている」という信頼性の高さだ。

「契約情報や顔写真というセンシティブな情報を取り扱う以上、信頼できる企業でないと導入は難しい。その点、セキュリティの要求レベルが高いSMBCグループで使われているのは大きな安心材料になりました」(黒田氏)

 イオン銀行では提案を受けて即座に経営企画や総務、システムなどのメンバーでチームを編成し、SMBCグループ側と意見交換と情報共有を行いながら導入を進めていった。その窓口役を担当したイオン銀行の吉田雄貴氏は協業のメリットについてこう説明する。

「社内のごく一部には『ハンコよりデジタルのほうがリスキー』という意見も残っていましたが、これは感覚的なものにすぎず、むしろ経営陣の方が積極的に進めるようにと応援してくれました。そこで『SMBCグループではこうやって社内を説得していった』という事例を参考にしながら社内の審議などを通していき、最終的に『デジタルは安心して使える』というコンセンサスを構築していきました。取締役会で変更しなければソリューションの導入自体ができないような規定もありましたが、同じ金融機関の先行事例を提示することで導入は非常にスムーズに進みました」

「SMBCクラウドサイン」はまず取締役会の議事録作成から導入された。同社の取締役会議事録は出席者の押印を必要としていたが、出社する日が一気に減少して押印が進まないため、議事録の作成に1~2カ月かかっていた。しかし導入後はデジタル上でのサインで済み、スピーディーに議事録を仕上げることが可能になった。次のステップとして、グループ内の契約書や、外部のシステムベンダーとの契約書の電子化を予定している。

枠組みにとらわれない新しい銀行像を描く

イオン銀行の黒田氏は金融機関のDXについてこう語る。

「データの利活用がより一層重要になりますが、自社単独で人材育成を行うことは難しい側面もあります。日常業務の中で、日々進化する最先端のテクノロジーを吸収して使いこなせるようになるには、非常に多くの時間を要します。一方で、SMBCグループとのパートナーシップのように、協力し合いながらノウハウを共有することは可能です。ゆくゆくは、ソリューションに関する交流だけではなく人材交流ができればと考えています」

三井住友銀行の杉本氏は今後の展開に関して、「熱量」と「共感」をキーワードに挙げる。

「先が見えず閉塞感がある今の環境下だからこそ、複雑化する社会課題を解決すべく、熱量高く新たな仕組みやソリューションを作っていくことが必要。その熱量が共感を醸成し、積み重なっていけば金融業界や日本自体がよりよく変わってくるはず。当社はトップからボトムまでカラを破ろうと新たな取り組みが組織横断や有志で様々立ち上がっています。これからもパートナー企業様と共創し、磨き上げていきます。今、すごくワクワクしています」

SMBCグループの「大変身劇」は今始まったばかりだ。

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