150カ国に展開、ダイキンに見る「勝ち条件」

欧州がいまだ「エアコン有望市場」である理由

世界中に100以上の生産拠点を持ち、150を超える国と地域で事業を展開しているダイキン。早くからグローバル化を進め、今や海外事業比率は約77%に達している。同社の主要拠点の中でも、多様なニーズに応える商品展開が特徴的なのが欧州市場だ。進出から50年と同社の成長の歴史にも重なる欧州市場は、それでいながら、まだ成長の余地がある有望市場だという。その理由について、同社取締役 兼 副社長執行役員の三中政次氏に話を聞いた。

欧州各国の代理店を「次々に買収」した狙い

現在、日本、欧州、北米、中国、アジアでバランスよく収益を上げているダイキン。日本企業によるグローバル進出成功の典型例として知られる同社だが、初の海外進出は欧州だったという。

ダイキン工業 取締役 兼 副社長執行役員
ダイキンヨーロッパ社 取締役社長
三中 政次

同社取締役 兼 副社長執行役員で、ダイキンヨーロッパ社の取締役社長も務める三中政次氏はこう振り返る。「当社の海外進出の歴史は、1966年にマルタ共和国で設立した販売会社に始まります」。

実に50年以上前に、海外での事業展開を開始していたわけだ。「その後、英国市場が拡大するにともない、ダイキンヨーロッパ社を1972年、ベルギーに設立しました。ベルギーはドーバー海峡を挟んで英国の対岸にあり、英国市場だけではなく、フランス、イタリア、スペインなどの南欧市場に参入するのにも好都合だったからです」。以降、ダイキンヨーロッパ社はダイキングループの欧州市場戦略を担う、重要拠点となる。

ベルギーにあるオステンド工場。1100人ほどが働いている

三中氏自身は1992年にダイキンヨーロッパ社に異動、2005年に同社社長に就任した。「90年代には、ベルギー・オステンド工場の生産能力を拡大するとともに、欧州全域での販売網を拡充していきました。そこで当社がとったのは、各国の代理店を買収するという戦略でした」。

 90年代にはフランス、ドイツ、オーストリア、2000年代に入るとポーランド、イタリア、英国、ポルトガル、ギリシャ、オランダと、次々にダイキンの販売会社が設立されたが、この多くが買収によるものだったという。「買収に当たっては相当のコストがかかり、苦労もありました」と三中氏は振り返るが、それにもかかわらず自前の販社体制の整備にこだわった理由は、いったいどこにあったのか。

現地に自前の販売網を構築、「市場最寄化」を実現

「一口で言えば、国や地域によって異なる多様なニーズに応える製品を迅速に供給するためです。とくに欧州は気候や生活習慣の違いが大きく、それぞれにきめ細かく対応するには、顧客に直接アプローチできる自前の販社網が不可欠だと考えました」

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例えば気温だ。「実は欧州の中でも、北部と南部では気温はかなり異なります。地中海に面する国ではエアコンの需要も高い。さらにイタリアなどでは、同じ国内でも地域によって売れ筋商品が違います。ローマやナポリなどの南部では価格重視で安い製品が人気ですが、北部のミラノでは環境に対する意識が高く、電気代などのパフォーマンスを重視する人が増えます。フランスでも同様で、パリとマルセイユでは売れる製品は大きく異なります」。

デザイン性に優れた、ダイキンヨーロッパのエアコン『Daikin Emura Ⅱ』。省エネ性能も高い

エアコンの外観についても、デザイン性が高いものが好まれる地域もあれば、目立たないようできるだけ隠そうとするところもあるという。これらのニーズに対応するには、供給する製品も国や地域によって分けていく必要がある。この意思決定を現地で、スピーディーかつ大胆に行える環境こそが、ダイキンの成長の礎となっている。

「当社では『市場最寄化(もよりか)』と呼んでいますが、現地に自前の販売会社や開発・生産拠点をつくり、それぞれの国・地域のニーズに合った製品を、短いリードタイムで供給しています。加えて、施工やメンテナンスまでを一貫して行える体制を構築しています」

もちろん欧州だけでなく、米国や中国、アジアでも「市場最寄化」を進めているという。参入障壁が高いとされる空調機器市場で、ダイキンが強みを発揮できている理由がここにある。

ヨーロッパ各拠点で「人材の最寄化」を実践

ダイキンがグローバル戦略の中で、もう1つ大事にしているのが人材だ。じつは、ダイキンがヨーロッパに持つ各拠点はイタリアを除くすべて、現地人材がトップを務めている。この、いわば「人材の最寄化」によって各地域のニーズに合った商品開発ができるうえ、現地スタッフのモチベーションが高まり、企業として求心力を維持できる。

一方、日本の20〜30代に対しても、三中氏は強い期待を寄せる。「グローバルの空調市場は、これだけ大きな可能性を秘めています。若い人たちには、海外に出て大きな仕事をしてみたい、挑戦したい、という意欲を燃やして果敢にチャレンジし、海外人材と切磋琢磨してほしいですね。日本だけではどうしても市場が限られてしまう。1〜2年ではなく長く海外に駐在することで、現地の経営戦略の第一線で活躍できるようになるでしょう。私の肌感覚でいえば、駐在して3年経つころにようやく『自分のやりたいこと』が見えてくると思います」。

一見「成熟市場」の欧州で見つけた大チャンス

ダイキンが欧州に進出して五十余年。一見、今やエアコン市場は成熟しているように思える。それに対して三中氏は「空調機器に関して言えば、欧州はまだまだ成長の余地があります。背景の1つは、平均気温の上昇です」と語る。

2003年の猛暑では、フランスで1万5000人ほどが亡くなったとされ、エアコンへの注目が集まった。ただし、夏でも比較的涼しい欧州では住宅用エアコンの普及率はまだ低く、ドイツでは5%未満ともいわれる。だが近年、その欧州で急激な気候変動が起きている。一部の地域では40℃を超えるような記録的な猛暑に襲われることも珍しくない。

「平均気温が上がっていることから、初めてエアコンを購入する家庭も増えています。当社は、インバーターをはじめとした省エネエアコンや低温暖化冷媒を用いたエアコンの投入に力を入れています。欧州には、これらの環境調和製品の導入にインセンティブ(補助金)制度を設けている国もあり、ますます注目されている商品です」

新型コロナウイルスの感染拡大も、ダイキン製品の存在を際立たせているという。「家庭にエアコンのない地域でも、オフィスや商業施設には空調設備が入っています。欧州でも在宅勤務が広まっており、自宅にも心地いい空気が欲しいというニーズが急増しているようです」。普及率が数%という現状を考えれば、それだけ伸びしろは大きいといえる。

ダイキンは2023年、170億円を投資してベルギーに新たな研究開発拠点を新設予定。ヒートポンプ式暖房のさらなる開発に注力する

さらに、新たな市場も生まれつつある。「新しい『暖房』の市場です。欧州では石油やガスなどをボイラーで燃やして温水を作り、各部屋のパネルヒーターに循環させる暖房が広く使われています。しかし温室効果ガスの削減を目指すため、今後は燃焼式暖房が規制されることになりました。現在欧州では、大気熱など自然界のエネルギーを利用するヒートポンプ式暖房への置き換えが進んでいます」。

エアコンに使われる「ヒートポンプ式暖房」は、空気中の熱を利用して暖める仕組みで、従来の「燃焼式」に比べてCO2排出量を1/2以下に削減できるとされる。ヒートポンプは再生可能エネルギー技術としても認められており、その需要は今後ますます高まると考えられる。

「環境意識の高いヨーロッパだからこそ、ヒートポンプ式暖房には大きな将来性がある。市場のニーズに応えるべく、現地の人材が現地ならではの発想で開発し、2006年にヨーロッパ独自の商品として発売しました。有望な市場ですから、参入企業も増えてくるでしょう。しかし、マイナス15℃の環境下でも高温出湯可能な高度なヒートポンプ技術は当社が最も得意とするところ。今後も高い技術力で差別化を図っていきたい」と、三中氏は胸を張る。

ダイキンが150カ国に進出し次々と成功・成長を遂げている理由は、高い技術力に加え、「市場最寄化」「人材の最寄化」という理念を基に現地のニーズに応え続けてきたことにあるようだ。その可能性は、ヒートポンプ暖房のような新しい分野にも広がる。さまざまな国・地域で心地よい空気を実現するダイキン、その勢いはさらに加速していく。

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