環境性能も機能も高い、が当たり前の時代 SDGsと競争力を共存させるビジネスの秘訣

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リコーの村上栄作氏(右)とUL Japanの追谷武寿氏(左)の対話から、ものづくりの未来が見えてくる
プラスチックごみの回収義務化や化学物質規制など、サスティナブルな社会をつくるためのルールづくりが加速している。企業にとっては負担になりかねないが、新しい制約をトリガーにしてイノベーションを起こし、競争力につなげているのがリコーだ。日本の製造業は、環境規制強化の流れとどのように向き合うべきか。リコー オフィスプロダクツ事業本部副事業本部長の村上栄作氏と、第三者機関として環境関連の検証・認証サービスなどを提供するUL Japan 環境・サプライチェーン部 部長 兼 UL島津ラボラトリー 代表取締役の追谷武寿氏に最新のトレンドと将来への課題について語り合ってもらった。

廃プラスチックのトレンドが加速している

追谷 脱化石燃料は世界の確固たるトレンドです。その流れの中で、企業も環境指標について高い目標を求められるようになってきました。リコー様も、プラスチックについて環境指標を明確に掲げられていますね。

リコー
オフィスプロダクツ事業本部
副事業本部長
村上栄作氏

村上 リコーは20年以上前から環境経営を提唱し、技術戦略の中に環境系の分科会を置いています。その中でサーキュラーエコノミー(循環型経済)や海洋プラスチックについても議論を重ねていて、プラスチックについては2つの方針を打ち出しました。

1つは、化石由来のバージン(新品)プラスチックを減らすこと。これはシングルユース(使い捨て)を減らして、プラスチックの再利用化を進めることで実践します。定量的な数値目標として、「2030年までに画像製品におけるプラスチック回収材使用率50%以上」「包装材のバージンプラスチック使用量は2030年までに50%以下」を掲げています。もう1つは、プラスチックを再利用しやすいよう、材質を明記したり、単一素材にするといった設計上の取り組みを進めることです。こちらは2025年までに完了させる予定です。

追谷 業界の水準から見ると、かなりストレッチな目標という印象です。

村上 かなりストレッチです。ただ、私たちにはA3複合機(A3レーザーMFP・コピー機)の世界トップシェアメーカーとしての責任がある。高い目標を掲げたことで社内はてんやわんやですが(笑)、目標を掲げて目指さないことには気づけないこともあるので、絶対に達成するつもりで取り組んでいます。

*IDCʼs Worldwide Quarterly Hardcopy Peripherals Tracker, 2020Q3, A3 Laser, MFP/SF DC, Speed Range A4 less than 91ppm, Share by Company CY2019

UL Japan
環境・サプライチェーン部
部長
追谷武寿氏

追谷 高いハードルを設定して、そこに開発部門がコミットすれば、技術的なイノベーションが促進されそうですね。

村上 20年11月には、発泡PLAシート「PLAiR」の市場開発を開始しました。これは植物由来のポリ乳酸(PLA)を活用したしなやかで強い素材で、シングルユースのプラスチック削減に貢献できます。今は試作サンプルを作る設備ができたところで、まずは社内実践をしたうえで市場にも広げていこうと考えています。

植物由来の新素材「PLAiR」はブランドサイトを立ち上げ、多彩な情報提供を展開している

追谷 サーキュラーエコノミーの実現には、資源の循環が欠かせません。自社で製品を回収して再利用するループが最もわかりやすいですが、社会全体でサーキュラーエコノミー実現に取り組むなら、自社完結型のクローズドなループから脱却する必要があるでしょう。リコー様は、プラスチック資源の循環についてどのようにお考えですか。

村上 実は社内で循環を回すのも苦労しています。リコーは世界中でトナーボトルを販売していますが、それを私たち自身ですべて回収するのは難しい。これは業界共通の課題で、将来は循環させたくてもリサイクル材料が足りなくなっていくでしょう。私個人の考えですが、競合を含めて世界中の企業でプラスチック回収の新しい枠組みをつくる必要があると思います。

追谷 1社だけではリサイクル材料の確保が難しく、社外とパートナーシップを組んで対応していくときに重要な役割を果たすのが、第三者機関による認証や検証です。社外からリサイクル材料を調達したときに、この材料は何由来なのか、品質はどうかということが確認できなければ、適切な再利用ができません。また、きちんと認定を受けたリサイクル業者から集めることが要求項目になっている環境認証もあります。第三者機関が客観的な立場から検証することが脱炭素社会を推進する力になるはずです。

村上 おっしゃるとおりで、UL Japanさんのような第三者機関がトレーサビリティーを取っていることはとても心強い。今後それがさらに簡便にできればいいなと。

追谷 海外では、認定されたリサイクル業者のリストを作成して、その中から選べば品質や管理プロセスが担保されるという仕組みを整えているところもあります。より多くの事業者に第三者機関を活用していただく事により、より参加のしやすい仕組みが広がっていくと思います。

増え続ける化学物質規制にどのように対応するか

追谷 欧州では化学物質の規制が強まる一方です。ある物質が規制されると新たな代替物質が生まれて、またその代替物質も規制対象になるという流れで、指定物質が毎年積み重なっています。

村上 リコーの製品を使っていただいているお客様はもちろん、サプライチェーンに携わっている皆さんの安心安全も守ることが私たちの義務です。そういう意味で、ドイツのブルーエンジェルに代表される欧州の環境規制には追従しなければいけないし、さらにもう一歩先を行くことが使命だと考えています。

追谷 ただ、どこまで工数をかけて管理するのかは難しい問題です。メーカーの方からよくご相談いただくのは、「何百とある規制物質をすべてチェックするのは不可能」というお話です。もし膨大な規制物質を確認するとすれば経済性と両立できなくなるというわけです。また、その継続には、何を自分たちでチェックして、何のチェックをサプライヤーに任せるのか、あるいはどの物質はリスクが高くて重点的に確認すべきなのかを明らかにして、バランスの良い管理プロセスを構築する必要があります。

村上 経済性とのバランスは、せめぎ合いですね。競争に勝たないと事業を継続できないですから。解の1つは、やはり技術開発です。リコーは一歩先の発想で、フェノールフリーの感熱紙を開発しました。感熱紙の主原材料であるフェノール系化合物は、「ビスフェノールA(BPA)」が規制対象で、代替材料の「ビスフェノールS(BPS)」も人体への影響が欧州で指摘されています。そこで2021年春以降に国内で発売する感熱紙を順次、フェノールフリー化します。これは安心安全の実現と同時に、リコーの競争力につながります。

追谷 バランスという意味では、化学物質の規制はリサイクル材料の普及とも相反する関係にあります。化学物質をチェックするコストや時間を考えると、回収するプラスチックはトレーサビリティーの確保がされたものに限定したいところですが、そうすると材料が集まらない。逆に何でもかんでも集めると、チェックのコストと時間が膨大になってしまう。私たちはリサイクル業者さんを巻き込んで、回収時のスクリーニングでチェックを行うソリューションを進めていますが、リコー様はどのような取り組みをされていますか。

村上 おっしゃる通りそこは課題で、弊社も品質を落とさずにスクリーニングチェックの工数が短くなるよう樹脂メーカーさんと協働しています。また、製造段階で廃棄になるプレコンシューマ材を再生プラスチックに有効活用したいですね。実はプレコンシューマ材の再利用化はISOで認められているものの、ブルーエンジェルでは承認されていません。サーキュラーエコノミーに大きく貢献できる話なので、ここはUL Japanさんにもご協力いただき、世界にアピールしていきたいと考えています。

日本発で世界の環境トレンドをつくっていく

追谷 世界の化学物質規制は、「私たちは基準を守っています」という自己宣言型から、第三者の検証を入れる認証型にシフトしつつあります。実際、第三者機関である私たちの出番も増えていますが、一方で、第三者機関を入れることで企業の製品開発や上市のスピードを落としたり、コスト面で負担にならないかという懸念も指摘されています。メーカーのお立場から、第三者機関の活用をどのようにお考えですか。

村上 一般的に、大企業の場合は固定費が重く、これ以上の機能を抱えられないという事情があります。ゆえに第三者機関の活用は必須ではないでしょうか。ただ、バランスは要注意です。すべてを外部におあずけすると、社内で環境や安心安全に対する意識が薄れていくおそれがあります。お客様のお役立ちができる状態を継続させるのに最もいいバランスで、第三者機関とのパートナーシップを模索していかなくてはなりません。世界で高いシェアを獲得しているからこそ、まず私たち自身が先頭に立って挑戦を続けていきたいと考えています。

追谷 おっしゃっていただいたように、脱化石燃料という環境トレンドの推進ならびに化学物質規制といった課題解決と品質安全面の確保を両立させて取り組む必要があります。双方どの水準まで取り組むべきかという基準作りや評価方法の策定などの面で、第三者機関として貢献出来ると考えています。また、私どもは環境への取り組みを指標化して管理するといった支援を通じて、事業者を後押ししています。こういった取り組みが環境への機運を高め、それが世界のトレンドにつながるようお手伝いをさせていただきたいと思います。