ニューノーマルで脚光、DXと「両利きの経営」

DXによる「知の深化」と「知の探索」の融合

新型コロナウイルスが社会に巨大なインパクトを与え、その影響はまだまだ読み切れない。だが、人々の生活様式はすでに変わり始め、企業はこの大きな変化を前提に適切な対応をしなければならない。ニューノーマルに対して企業が求められる考え方や行動について、早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏と、日立ソリューションズ常務・紅林徹也氏に聞いた。

ニューノーマルに企業はどう対応すべきか

紅林 新型コロナウイルスは収束の出口がまだ見えない中、すでに世の中は大きく変わってきています。その中で私たち日立ソリューションズは、ニューノーマル(新常態)を自分たちなりに理解する取り組みを始めました。

実は、私自身が5年前に日立製作所から内閣府に出向し、AI(人工知能)などを活用したスマート社会「ソサエティ5.0※1」づくりに携わった経験があります。そのときに、望ましい社会の未来像から逆算して、今何が必要かを考えるバックキャストを徹底的に行いました。マクロ的に見れば、狩猟、農耕、工業、情報と人間社会の変化のスピードがどんどん上がってきていますが、それがコロナによってどう変わったのかといえば、その変化の速度がさらに上がったということだと捉えています。このスピードに合わせて、企業は変化しなければなりません。それにはやはりDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠です。

コロナ以前のDXは企業の優位性を築くためのものでしたが、ニューノーマルでは企業が生き残りを懸けて変化のスピードに対応するために必要不可欠なものと捉えられるようになり、企業にとってのプライオリティー(優先順位)が明らかに上がってきています。

入山 コロナが発生して以降、その影響について企業やメディアの方から多くの問い合わせをいただくようになりました。そのときに私が話しているのは、基本的にコロナの前と後で、企業の目指すべき方向は変わっていないということです。というのも、もともとコロナ前から不確実性は高かったわけで、やるべきことは一緒なんです。私も紅林さんと同意見で、コロナの影響とは、不確実性の加速度が増したということだけだと考えています。コロナがあってもなくても、企業はイノベーションを通じて、新しい価値をどんどん生み出していかなければなりません。変化が激しい現代に現状維持はありえません。変わっていくしかないんです。

早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール
教授
入山章栄
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年から現職。監訳書に『両利きの経営』(東洋経済新報社)など

もう1つ重要なポイントは、「経路依存性」です。社会の構成要素は多種多様なものがあって、それらがある意味、合理的に依存しかみ合っています。ですから、1つを取り上げてそれだけを変えようとしてもできないんです。

例えばダイバーシティー(多様化)なんて最たるものです。コロナ前からダイバーシティーが大事だと言われていますが、日本ではあまり進んでいません。理由は簡単で、ダイバーシティーだけを求めているからです。多様な人材を活用したいというのであれば、新卒・中途の採用方法、評価制度、働き方などすべてを変える必要がありますが、そこを変えずにダイバーシティーと言っても無理があります。ですから、さまざまなものをスピード感を持って変えていかなければなりません。

ニューノーマルは、企業にとって経路依存性から脱却し、ダイナミック・ケイパビリティー※2を高めるチャンスになると思っています。

※1 Society 5.0:ソサエティ5.0。内閣府が提唱する未来社会像。AIやIoT(モノのインターネット)、ロボット、ビッグデータなどを活用する豊かな社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くもので、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する

※2 ダイナミック・ケイパビリティー:環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力

DXはあくまで手段

紅林 DXはダイナミック・ケイパビリティーを高めるために欠かせない手段です。システムを刷新すればDXを実現できるということではありません。むしろ、手段を目的化しないということを、DXに関するサービスを提供する私たち自身が意識していないと、お客様に対して成果を提供できません。

日立ソリューションズ
取締役 常務執行役員
紅林徹也
1984年に日立製作所に入社後、情報・通信グループに30年勤め、公共システム事業や公共ビジネス企画に従事。途中内閣府に出向。2016年から日立ソリューションズの執行役員に就任。同社の経営戦略を統括する

入山 その考え方はいいですね。結局はコンサルティングがないと、効果的なDXは実現しないですよね。本来的には、この企業は何を望んでいるのかといったところを追求したうえで、手段としてこういうDXをやるべきだと提案するべきなんでしょうね。

紅林 お客様のDXを支援するためには、私たち自身もDXを実践しなければなりません。それは、ITシステムという意味ではなく、自分たちのビジネスをもっと新しいスタイルに変えるということです。「お客様との協創」とよく言いますが、その協創についても、お客様との一対一だけではなく、当社の価値を世の中に提供するためのエコシステムを積極的に構築することだと感じています。その中でIT活用も取り込んでいくことが私たちのDXだと考えて推進しています。

入山 これからはライバルと競争する時代ではなくなります。ある経営者は「自分たちのビジョンと競争する」と話しています。自分のつくりたい世界があって、そこに少しでも早く追いつきたいと思って事業をやっているんです。

紅林 自分たちが追いかけたい価値は何なのかということが大事ですよね。入山先生が解説された『両利きの経営』で表現すれば「知の深化」と「知の探索」のバランスをとることも重要です。私たちメーカー系の人間は、よくも悪くも深化にこだわる傾向がありますが、今の時代は、そうではなく新しいバリューチェーン上で、データを共有しながらリアルな価値を追いかけるほうが、正解に近い場合もあります。深掘りに時間と労力をかけるだけでなく、物事を俯瞰して見ることで価値を生み出せるはずです。

入山 確かに、俯瞰力は重要です。日本の組織にいると、狭いところはとても強いですけれど、俯瞰する経験があまりなく、上手ではない。ただし、リーダーになると俯瞰しなければならなくなるんですが、俯瞰した経験が少ないから、どうしても自分がやってきた経験に引きずられやすいというワナがありますね。

大切なのは企業の意思

紅林 DXの最初の入り口は、既存の情報システムのコストをいかに下げるかという点です。むやみにIT投資を増やすことはできませんので、既存の情報システムのコストを圧縮し、その分をさらなるデジタル化に回し、つなげて、DXを完成させるようなイメージを私は持っています。私たちはシステムのモダナイズを通じてこれに貢献したいと思っています。

日立ソリューションズは、大規模なアプリケーション開発もスピーディーなアジャイル開発も両方できるという特長を生かしてビジネス展開ができるという点では、アドバンテージがあると自負しています。

入山 DXがもたらす価値にはいくつかあります。1つは今、紅林さんが指摘されたコストですね。さらにDXの「知の深化」もあります。紅林さんのお話にもありましたが、実はデジタルは「知の深化」が得意なんです。ですから、「知の深化」はデジタルに任せて、人間は人間らしい仕事をするということが大事です。

紅林 私たちも、DXにおいて人間中心の考え方の維持ということは大事にしています。ワークスタイルイノベーションなどを考えていくうえで、やはり人間自身を洞察することがなくては、価値が生まれません。DXにおいては、ITシステムと人間との組み合わせで最大の価値を創ることが重要であり、やはり人間を抜きには価値を提供できないと考えています。

入山 大事なのは企業の意思ですよね。企業がどういう未来を目指しているかという意思、DXはその手段にすぎません。日本の企業には、変化の激しいときこそ、自分たちの方向を見失わずに、強い意思を持ってほしいと思います。

紅林 変化のスピードに対応するためにITを最大限活用することは、戦略としては外れのないものです。手段を目的化させることなくやり遂げることが、最重要になってきています。意思を強く持って変わろうとする企業をお手伝いするとともに、DXをどう活用するかを企業の皆さんと一緒に考えていきたいですね。

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