「投資対効果を測れる」テレビCM新時代 “広告費の半分は無駄?”をどう乗り越えるのか

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多くの人に強いメッセージを届けられるテレビCMと、ターゲティングや効果測定が可能なインターネット広告。広告主は、投資対効果が明示できるインターネット広告のほうが予算を投資しやすい、と考えてきた。しかし、テクノロジーを使ってテレビCMの効果測定を実現するサービスが登場したり、各テレビ局が15秒CMの枠を1本単位で購入できるSAS(スマートアドセールス)を導入したりと、テレビCM領域で大きな変化の胎動が感じられる。今、テレビCM市場に何が起きているのか。

テレビCMはなぜ広告主から再評価されているのか

――電通の「日本の広告費」によると、インターネット広告の市場は年々拡大し、2019年にはテレビメディア広告費を上回りました。しかし、最近はテレビCMの出稿代理や効果測定の新規参入プレーヤーが増加するなど、テレビCM領域の動きが活発です。その背景には何があるのでしょうか。

サイカ 執行役員CFO
杉山 賢
早稲田大学国際教養学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。投資調査部ヴァイス・プレジデントとして、主にメディア・インターネット・ゲームセクターのアナリスト業務に従事。2020年6月よりサイカに参画

杉山 広告主の企業からテレビCMの価値が再評価されている、という背景はあると思います。電通の調査によれば、テレビCMはデジタル広告に比べ、商品に対する関心の低い人に約3.7倍注目してもらいやすいことがわかっています

つまり、テレビCMだとブランド発見につながりやすい。また、各社媒体資料に基づくわれわれの試算では、広告の費用対効果を示す指標の1つであるCPM(インプレッション単価)で比較すると、テレビCM(在京キー局のスポット平均)はオンラインの動画広告に比べて5倍以上も効率がよい。

消費者のPCやモバイルの接触時間が延びるにつれ、企業の広告投資でもオフライン広告からインターネット広告へシフトする潮流が生じましたが、結果として「情報の拡散」や「信頼の獲得」などの面でテレビCMが果たす役割や優位性はやはり大きく、ほかの媒体では代替が難しいと再認識されています。

しかし、テレビCMの必要性を認識しても、やはり投資対効果が測れないものに多額の投資を行うことはハードルが高い。そのため、これまで不透明だった投資対効果を数字で把握したい、という広告主の要求が生まれ、昨今のテレビCM領域におけるイノベーションの活発化につながっているのだと思います。

電通報「テレビの持つ『3UP効果とは?』」より

早稲田大学 商学学術院 教授
恩藏 直人
日本のマーケティング研究の第一人者として知られる。早稲田大学商学学術院長、商学部長などを歴任し、現在は早稲田大学商学学術院教授、同大学の常任理事

恩藏 広告というよりは媒体そのもの、という文脈になるのですが、テレビとインターネットのトピックスで想起されるのは、1950年代~60年代の米国における映画産業とテレビ産業の話です。

米国では鉄道産業が完全に自動車産業に取って代わられましたが、ほぼ同時期に映画産業とテレビ産業でも同様の事態が生じ、テレビが一気に発展して一時的に映画産業は衰退しました。しかし今、映画館や映画コンテンツは依然として残っていますよね。人々の「輸送や移動」に対するニーズの充足では鉄道から自動車に代わりましたが、「娯楽」に対するニーズの充足は、テレビだけでは不十分。従来の“映画”も引き続き求められました。

つまり、存続し続ける製品やサービスには背後にあるニーズの本質があります。日本におけるテレビも生活者にとっては「一家だんらん」の真ん中にある同時性の高いエンタメの中心で残り続け、インターネットに完全に取って代わられる、ということはないでしょう。

――サイカは、テレビCMの「投資対効果」を明らかにするサービスを展開しています。

杉山 インターネット広告では、「どこでユーザーが離脱したのか」「どのクリエイティブの反応が最もよかったのか」など、効果測定がとても重要視され、精緻な検証を行うことが可能です。

一方で、テレビではそのような検証はできなかった。そのような事業成果への貢献が見えにくかった広告の効果を可視化できないか、と考えて生まれたのが広告効果分析ツール「ADVA MAGELLAN(アドバ マゼラン)」です。

恩藏 それができるようになれば、広告主としてはかなり楽ですよね。以前は、こういうジョークがありました。「広告費の半分が無駄なことはわかっている。わからないのはどちらの半分が無駄なのかだ」。「広告費のすべてが無駄とは誰も思っていないが、かなりの無駄がある、とは思っている」というのがその意味で、担当者は前任者と同水準の予算をつぎ込まないと不安なのです。本当に広告効果を見える化できるのならインパクトは大きいですが、どのようにしてそれが可能になっているのですか。

杉山 一言でいえば統計の力で実現しています。複雑な関係性や相関をうまく可視化できる手法によって、テレビCMやインターネット広告も含め、あらゆる広告施策を統合的に分析して事業への貢献を可視化することを可能にしています。

広告費用の必要性を科学的に説明できるようになる?

――テレビCMでもネット広告のように効果測定ができるサービスの登場は、どのような変化を生み出すのでしょうか。

杉山 最終的には、テレビCM市場の成長につながっていくと思います。これまでテレビCMのポテンシャルが過小評価されてきたのは、テレビCMの効果が不透明なことと、アナログな取引手法をしていることに起因しています。

こうした課題を根本的に解消するために、サイカでは広告の効果分析を行う「ADVA MAGELLAN」に加え、20年9月に「ADVA PLANNER」「ADVA BUYER」をリリースしました。これらは、従来は感覚的に行われていたテレビCM出稿プロセスの意思決定を、データサイエンスに基づき定量的に判断できるようにするとともに、成果報酬型のビジネスモデルで提供することで、広告主が投資対効果の面で確実性をもってテレビCMを出稿できるのが特徴です。

恩藏 これまで見えなかったCM効果を実際に数値にできるのは、広告に関わる人たちにとって喜ばしいですね。媒体を問わず、同じ尺度でオンラインとテレビの比較が可能になると、どこに資源配分をしたらよいかという意思決定がスムーズになりそうです。

テレビでざっくり認知を取り、後はパーソナライズしたデジタルで攻めるといったメディアミックスの精度も上がり、理性的な判断を基にROIを意識した出稿ができるようになるでしょう。もちろん、近年注目されているカスタマージャーニーを意識した効率のよいコミュニケーションも推し進められそうです。

杉山 金融危機後、最も削られた費用の1つが広告費だと思いますが、これからは売り上げを作るにはこれだけの広告費が必要と、きちんと数字で合理的に説明できるようになっていくのではないでしょうか。

恩藏 過去、景気後退期において多くの企業が広告費を削減しました。しかしその後の経過を分析すると、あまり広告費を大幅に削減していない企業のほうが結果的に回復は早いという研究結果があります。ただし、これは結果論。「マゼラン」などにより広告の効果が科学的に説明されるようになると、広告主は自信を持って意思決定ができるようになるはずです。

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