エベレスト山頂近くで「二度見される」ダウン ビジネス現場で「機能性」が求められる理由

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ビジネスシーンにおける服装の自由化など、ビジネススタイルのカジュアル化が進み、「防寒着」の定番だったダウンジャケットをスーツに合わせるスタイルも一般的になってきた。とはいえ、防寒性を備えつつ、スーツにも問題なく合わせられるものとなると、意外と多くない。そこで、リノベーションに関わるサービスをワンストップで提供する「リノベる」の代表取締役、山下智弘氏と、国際山岳ガイドとして七大陸最高峰登頂を達成した世界的な登山家、近藤謙司氏の対談を実施。ダウンジャケットの機能性とデザイン性について語ってもらった。

──リノベーションに特化したサービス展開をされているところから、山下さんの“モノ”へのこだわりを感じます。ファッションにも何かこだわりがあるのでしょうか。

山下 以前は「オシャレは我慢」と考えて、機能性よりもファッション性を重視していたのですが、最近は、機能性を重視するようになりました。働き方が多様化する中で、オンとオフが入り交じるようになってきていて、例えば、仕事の前にランニングしたり、退社後に習い事をしたりする人が増加している。そういった場面では、必然的に脱ぎ着を繰り返すので、軽さや扱いやすさ、着回しが利くかどうかは服を選ぶうえで重要なんです。登山ほどではありませんが、ビジネスシーンでも機能性は重要になってきています。

山下智弘氏
リノベる代表取締役。タッチラグビーの40歳以上の日本代表。

──ビジネススタイルがカジュアル化している影響もあるのでしょうか?

山下 そうですね。ここ5~6年くらいで、ビジネスシーンの服装が急激に変わってきました。われわれは、不動産や建築、金融に関わる仕事をしているので、もともとスーツをかっちり着ることが多かったんです。もちろん相手や場所に合わせるので今でもスーツを着ることはありますが、ジャケットに白Tシャツ、スニーカーといった、カジュアルなスタイルでもOKな場面が増えてきています。TPOによってスーツやネクタイの色を変える程度だったのが、服装そのものを変えるようになっている。TPOの幅が広がってきているんでしょうね。そんな中で、私自身の服に対する考え方も変わってきていて、見た目だけではなく、機能性にも目がいくようになっています。

──近藤さんは山のプロフェッショナルですから、ダウンジャケットの機能性にはこだわりがありそうですね。

近藤謙司氏
国際山岳ガイド。世界の山々を案内する旅行会社やクライミングジムを運営。

近藤 第1条件は保温性です。エベレストの山頂付近なんかはマイナス20度とかマイナス30度の世界なので、まずは体温をしっかり保つ必要があります。ただ、それを追求するだけでは宇宙服のように着膨れしてしまい、動きづらいものになってしまうだけでなく、視界が遮られる可能性もある。エベレストのような過酷な状況においては、命取りになりかねない。ですから、保温性はありながらも軽くて動きやすく、手元や足元の視界がなるべく妨げられないものが理想なんです。

──ファッション性よりも機能性ということでしょうか?

近藤 山登りというと機能性ばかりが注目されがちなんですが、私は見た目も大切だと思っています。エベレストの山頂アタックの際に着ていたコロンビアさんのダウンがまさにそうで、私の意見を伝えて新たに開発していただいたのですが、本当に軽くて暖かくて、動きやすかったんです。現地ではモコモコのウェアを着ている人ばかりだったので、何度もすれ違いざまに二度見されて、「そんなに薄いウェアで大丈夫なのか?」と心配されました(笑)。

熱反射保温テクノロジー「オムニヒート」とは?

──エベレストで二度見されるほど「暖かくて薄い」ダウンが実現した理由は何でしょう?

近藤 いちばんの要因は、熱反射保温テクノロジー「オムニヒート」を採用していただいたことです。裏地にアルミニウムのドットを無数に配していて、それが体温をはね返して熱を保ちます。そのぶん羽毛の量を減らせるので、暖かさと薄さを両立した1着ができるんです。

──そのオムニヒートを搭載した一般向けのダウンジャケット「ロックフォールダウンジャケット」がリリースされました。

山下 着た瞬間に暖かさを感じたことに驚きました。本当に自分の熱がはね返ってくる感じです。それと軽くて着ている感覚が薄いというか、体の動きが妨げられません。このままラグビーができそうです(笑)。

近藤 体の熱量が多い人は、とくに暖かさを感じやすいかもしれません。ちなみにもしオムニヒートを使わずに同程度の暖かさにしようとすると、羽毛の量をこの1.5倍くらいに増やす必要があるそうです。

山下 アウターを着て電車に乗ると、本当に暑いですよね。でもこれくらい薄くて軽ければ、電車に乗るときに脱ぎやすいし、降りたときにはまたサッと着られます。手で持っていてもシワになりにくいし、バッグに詰め込んである程度雑に扱っても大丈夫そうですね。フードも取り外しできて非常に使い回しやすそうですし、ビジネスパーソンにとってはありがたいんじゃないでしょうか。

シーンを選ばないダウンジャケット

──デザイン面はいかがでしょう。

近藤 クセがないので、オンでもオフでも、シーンを選ばないんじゃないでしょうか。

山下 シーンを選ばないということは、さまざまなスタイリングを楽しめるということです。私なら細身のパンツに少し高さのあるスニーカーを合わせますかね。光沢のないマットタイプの黒であれば、仕事でも使いやすそうですし。先ほども少し触れましたが、リモートワークやオンライン会議が増えたこともあって、以前より仕事とプライベートが入り交じるようになってきています。仕事の合間にジムに行くことがあるんですが、着回しの利く服じゃないと、家に着替えに戻る必要があったりして、なかなか面倒なんです。でもこれならスーツの上にダウンを着て出社した後、Tシャツに着替えてダウンを羽織ってジム、そしてジムから直接会議に向かうといったこともできますね。

──光沢のある裏地は、気になりませんか?

山下 機能に寄っちゃうとデザインがちょっと……っていうことがよくあったんですけど、そうじゃないんですよね。これが表だったら着こなすのが難しいでしょうけど、裏地であれば問題ない。建築の部材なんかもそうなんですけど、それがそれであることにはすべて理由があって、むしろ、裏地がチラッと見えることで、話の種になるといいますか、テクノロジーを説明する機会が生まれそうで楽しいですよね。

近藤 「それ何?」と言われたら、「よしきた!」と。

山下 着ているときは、さりげなく裏地を見せていきたいです(笑)。

オムニヒートは、アウトドアブランド「コロンビア」が開発・実用化した保温技術で、2020年にデビュー10周年を迎えた。裏地にアルミニウムをドット状に配することで、身体の熱を反射しながら高い保温性を実現したほか、生地本来の透湿性を備えつつ、静電気の発生も抑えている。

2013年には、国際山岳ガイドの近藤謙司氏率いる登山隊のエベレスト登頂をサポート。山頂アタック時に登山隊が着用していたジャケットには、「オムニヒート」が搭載されていた。オムニヒートを採用することでダウン量を減らし、高所でも動きやすい仕様にしたウェアを着用した登山隊は、登頂に成功。コロンビアのウェアが初めてエベレストの山頂に立つ記念すべき瞬間となった。
(左から順に)010 Black、242 Dark Amber,Canvas、316 Cypress Traditional Camo Canvas、043 Nimbus Grey、613 Mountain Red
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