コロナが早期のがん発見に与える影響とは?

1万5000人調査から見える「受診控え」の背景

左)小谷 真生子氏(経済キャスター)
右)玉井 孝直氏(ジョンソン・エンド・ジョンソン 代表取締役社長 メディカル カンパニー プレジデント)
今、新型コロナウイルスの感染拡大により、間接的に新型コロナ以外の健康リスクが高まりつつある。感染を恐れるあまり健康診断やがん検診を控える、あるいは体調に異常を感じても受診せず我慢する人が増えているのだ。病気の発見や診断が遅れると、本来なら比較的軽い治療で済むはずが、体に負担の重い治療が必要になったり、最悪の場合、助かるはずの命が助からなかったりする。ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーが行った受診状況に関する大規模緊急調査から、そんな好ましくない現実が見えてきた。

懸念される三大疾病患者の増加

小谷 新型コロナの感染拡大により、健康診断などの受診控えが起きていると報じられています。貴社ではこの問題について独自調査を行ったそうですが、その背景についてお聞かせください。

玉井 2020年、各地の病院に足を運ぶ中で、健康診断やがん検診を控えたり、体に何らかの症状が発しているのに我慢して病院に行かず、いよいよ症状が悪くなってから受診したりするケースが生じているという心配の声を医療従事者から伺うことが増えました。病気の発見や診断が遅れると、重大な疾患であれば最悪の場合、手遅れになってしまいます。

新型コロナによって、現時点(20年12月4日取材当時)で国内だけでも2200人以上の方が亡くなっていますが、一方で、日本では年間70万人近くもの方が、がん、心疾患、脳卒中という三大疾病で亡くなっていることをご存じでしょうか。病気を発見する手段として、健康診断やがん検診などの受診がとても重要ですが、それが控えられることで三大疾病をはじめ病気の発見が遅れる人が増えてしまうのではないか。そんな危機感から、まず実態を調査することにしました。

小谷 調査人数も1万5000人と大規模ですね。

玉井 多くの方を対象にして、かつ年代別でも地域別でも幅広くデータを取っています。今回の調査結果によると、健康診断とがん検診を「来年度は控えたい」という人が3割以上になりました。

調査結果は新型コロナ感染状況が落ち着いていた20年10月時点のもの。再び感染者の増加傾向にある12月、「控えたい」傾向は強まっているかもしれない。(ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーの調査結果より)

実際の受診状況は、20年10月の時点で健康診断を受診済みの人は約4割で、今年度中に受診予定の人を含めると6割弱でした。

一方、いずれのがん種の検診を見ても受診済みは2割程度で、今年度受診予定を含めても3割程度にとどまっています。「受診予定はない」「わからない」の回答者割合も、健康診断の約3割に対し、がん検診は6割前後となっています。

「体調不良や体調異常を感じても受診を控えたいか」という質問に対しては、全体で約4割が一時期受診を控える、あるいは現在も延期しているという実態があるうえ、年代別にひもとくと20〜40代は4割以上がそのように回答しており、30代に至っては48.2%と約半数にまで上りました。働く世代では体調不良を感じても受診を控える傾向が見られるのが心配です。

小谷 真生子(経済キャスター)
大阪府生まれ。1986年、日本航空に客室乗務員として入社。 90年日本航空を退社後、NHK総合「モーニングワイド」「おはよう日本」などのメインキャスターを務めた。98年4月~2014年3月までテレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、14年4月~19年3月までBSテレ東「日経プラス10」でメインキャスターとして活躍

小谷 自粛モードになってから、私の周りでは大病院を避けて小さなクリニックに行く方が多くなりました。理由を聞くと、待合室や薬局に大勢の人がいるので新型コロナに感染するのが怖いそうです。やはり感染リスクを気にして行きたくない人が多いのでしょうか。

玉井 当社の調査では、体調不良や体調異常、脳血管障害や心疾患が疑われる症状を自覚しながら、医療機関の受診を控えた人の4割以上は新型コロナの感染リスクを理由にしていました。

(ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーの調査結果より)

確かに新型コロナの感染が広がり始めた当初はどのような環境下において感染リスクが高まるのかなど、わからないことがたくさんありました。しかし現在は皆さんご存じのとおり、クラスター発生のリスクが高くなる3密状況を回避し、マスクの着用や手洗い、消毒など基本的な対策を徹底することが有効だとわかっています。その点、病院は感染予防のプロフェッショナルであり、そこがしっかりしていないと健診や検診、受診をしても別のリスクが発生してしまいますから、きちんと体制が整えられています。しかし、受診を控える人の多さを見ると、この点がまだまだ周知されていないのかもしれません。

小谷 先日、私も知人の付き添いで病院に行ったのですが、お医者様も私たちもマスクの上にフェイスシールドを着用していました。そのときに声がこもり、話が聞こえにくかったため知人がマスクを取ろうとしたら、「取らないでください」と言われました。お互いがマスクとフェイスシールドを着用することで、新型コロナの感染は防げるのです、と。確かにしっかり感染予防に取り組まれていると思いました。

正しく恐れる「情報」の重要性

小谷 病気かもしれないと思ったときに、新型コロナに感染したくないから受診を控えようと考える必要はないと言ってよいでしょうか。

玉井 がんで言えば日本では1年間に何らかのがんで亡くなる人は約37万人おり、国民の2人に1人は一生のどこかでがんにかかるというデータもあります。その確率を考えれば、定期的に健康診断やがん検診を受けることがとても重要ですし、まして何らかの症状があったときはできるだけ早く受診するのがよいと考えます。それががんではなかったとしても、早期受診することで病気が発見され、適切な治療が行われ、命が救われて健康を取り戻せる可能性は間違いなく高くなると医療従事者の方からも聞いています。

小谷 今回の調査結果を受けて、どのような取り組みを行っていくお考えですか。

玉井調査結果を当社ホームページから自由にダウンロードできるようにするほか、受診を控えるリスクについて医師に語っていただく動画を作成し、発信していきます。また、受診に関するヒントを発信することで正しい情報をお届けし、生活者の安心につながるよう取り組んでいきます。

玉井 孝直 (ジョンソン・エンド・ジョンソン 代表取締役社長 メディカル カンパニー プレジデント)
神奈川県生まれ。日系機械メーカーを経て2000年にジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニーに入社。米国勤務、経営企画部長、日本やアジア太平洋地域のバイスプレジデント兼CFO、エチコン事業部長バイスプレジデントなどを務め、2018年9月より現職

小谷 調査結果以外にどのような情報を提供するのでしょうか。

玉井 新型コロナの終息が見えない中で、今後どのような医療情報を得たいと考えているかについても調査を行いました。そこでは「新型コロナに関する正しい基本情報」や、「新型コロナの感染リスクがある中、受診・治療すべきかどうかを判断できる情報」などの選択肢が上位に挙がったのです。こうした生活者の声を踏まえてお役に立てるような関連情報を積極的に発信して、「医療現場と生活者の橋渡し」のような存在になれればと思います。

対象者の回答のうち、上位7項目が挙がった割合(ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーの調査結果より)

小谷 新型コロナとともに生きていくことが新しい日常になりつつあるからこそ、正しく恐れ、信頼できる情報に基づいて生活していきたいものです。

玉井 当社では80年近くにわたり、「我が信条(Our Credo)」をすべての活動の基盤としてきました。顧客や患者さん、従業員、地域社会に対する責任をしっかりと果たし、そうすることでおのずと株主にも貢献できるという内容の価値観であり、われわれの羅針盤になっています。この考え方に基づいて、多くの人々が新型コロナ感染の不安によって検診や受診の機会を先送りしている状況に対し、早期発見、早期治療の重要性について、医療従事者の皆さんとともに生活者へ呼びかけていきます。

小谷 最後に、読者へ向けて健診や受診への考え方と日本の医療の未来についてメッセージをお願いします。

玉井 先日、ある著名な外科医の先生より、治療できると思って手術を検討したものの、ステージが進んでしまっていたため断念せざるをえないケースが最近、連続して起こっているという話を伺う機会がありました。症状がひどくなってから初めて受診し、結果として最適な医療を受けられなかった可能性が考えられます。こうした事態を避けるためにも、新型コロナを正しく恐れ、定期的に健診、検診に行き、何らかの症状があれば正しく受診することをお勧めします。

グローバルヘルスケアカンパニーとして世界の医療状況に触れているわれわれから見ると、医療従事者のスキルや情熱、人格まで含め、日本の医療は非常に優れていると思います。しかし今回の新型コロナ禍では、医療従事者だけでなく医療機関の経営にも大きな負担がのしかかっています。新型コロナ対策にリソースをつぎ込み、細心の注意を払い献身的に患者さんを診る一方で、受診者そのものが減少すれば経営の観点では課題にもなります。病院の経営がうまくいかなければ、いずれは適切な医療が届けられなくなり、地域の生活者はさらなる危機にさらされます。日本の素晴らしい医療を私たちは守りたい。超高齢社会・日本において、何よりも生活者や患者さんが健康に、そして幸せに長い人生を過ごせるように、という思いを強く持っています。そのためにも、受診を控える傾向に歯止めをかけ、必要な人が適切な医療を受けられるよう、これからも医療従事者の皆さんと連携しながら取り組んでいきたいと考えています。

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