セールスフォース

人手不足の地方企業が売上高を4倍にした理由

「全文公開」「中小企業こそITに頼るべき」

福岡でいちばん女性が働きやすい会社を目指して

テレマーケティングやテレアポを行いたいもののリソースやノウハウがない企業にかわって、自社コールセンターで代行業務を請け負っているsoraプロジェクト。その内容はアポイント取り付けに始まり、より高価格な商品をうながすアップセル、休眠顧客の掘り起こし、見込客を顧客に育てるナーチャリングなど多岐に渡る。コールセンター業務を外注することにより、クライアントは訪問や提案活動といったコア業務にリソースを集中させられる。

また近年、電話やメール、ビデオ会議ツールをベースにした営業手法の「インサイドセールス」の流行もあり、同社は過去5年で10倍に成長。コールセンターも筑紫野市をはじめ、福岡市、久留米市と計3カ所、総勢100名ものスタッフを構えているという。

とはいえ、他社同様に人手不足に悩んでいるのは同社も同じ。とりわけ有能なスタッフが集まりにくい地方ならではの悩みを抱えている。

「福岡にはコールセンターを代行する競合他社も多く時給も高止まりしているため、人材確保は常に大変です。そこで弊社では私の母でもある社長の意向もあり、新米ママやシングルマザー、また親の介護が必要といった、働きたいけど地元から離れられない、または突然休まざるを得ない事情を持つ女性を積極的に雇用しています。母も私が子どもの頃に、子育てと事業で相当苦労したようで、今では地域貢献の意味も込めて『福岡でいちばん女性が働きやすい会社』を目指しているんです。他にも他社コールセンターにある残業をなくす等、長く働いてもらいやすい環境を心がけています」

朝、突然子どもが熱を出した。仕事中に保育所や学校から呼び出されて早退した。といった突発的なイベントが発生しがちな子育て中の女性。そんなときには出勤日を振りかえる等して柔軟に対応しているという。残業の撤廃など働きやすい環境を整えることで離職率が下がるのはもちろん、ママ友同士に口コミで紹介が広まるといった効果もあったとか。

話し合いだけで終わる営業会議を打破したかった

順調に業務と事業規模が拡大するなかで、soraプロジェクトが抱えている問題も浮かび上がってきた。

「私は2012年に入社したんですが、そこから5年、2017年まで営業は自分ともう1人いたりいなかったりだったんですね。営業スタイルも問い合わせに応えるかたちだったので何とかなっていたんですが、2017年頃にはインサイドセールスという言葉自体流行ってきていましたし、法人向けのテレマーケティング業界も市場が伸びてきていましたので、ここでひとつ広告予算をかけてsoraプロジェクトの知名度をあげようと考えたんですが、なにぶんマンパワーが足りない」

そこで2018年春には新規開拓の新人営業を雇用。と同時に「営業の成長を早めたい」「対応の抜けもれをなくしたい」「見込み客の優先順位をつけたい」というねらいから営業支援ツール(SFA)とマーケティング自動化ツール(MAツール)の導入を決めた。

「それまでの営業会議――といっても営業は2人しかいないんですけど――は、お互いの売上を見て『この案件はどんな提案したの?』と口頭で聞いたり、『先週の売上いくらだっけ?』とか『今月売上足りないからもっと頑張らないとね』とか、結局議論が空中戦で終わってまったく履歴が残っていなかったんです。まずはそれを打破したかった」

そこで多くのSFAツールやMAツールを試したという樋口さん。さまざまな機能を備えながらお手頃価格のツールも多々あったが、最終的にSalesforceを選んだ。決め手となったのは、コミュニケーション能力も含めた営業力と手厚いサポート体制。そして会社規模が大きくなっても使い続けられる拡張性だったという。

「他社は『このツールはこんなに便利だからぜひ使うべきです!』みたいな売り込み方をされるんですけど、Salesforceは違いました。まずは現状、業務がどうなっているかのヒアリングから始まるんです。でも、理想像はどうなんですか?と。それを実現するなら弊社はこういう機能が提供できますよと。その姿勢に感動して、Salesforceさんとなら一緒に成長できるんじゃないかなと思ったんです。ここだけの話、提案型の営業スタイルも真似ました(笑)」

本契約が2018年9月。しかし楽観的に描いた未来とは裏腹に、樋口さんに大きな試練が降りかかった。

大炎上のSalesforce導入。そして救世主あらわる

結果からいうと導入は大炎上した。

「今回ベンダーさんに構築をお願いしたんですが、新人営業の教育をしながら、自分も営業をして、Salesforceの仕様を決めていくのって、どう考えても時間が足りない。また、営業手法の現状把握と理想像の具体化ができていなかったので、ベンダーさんとの打ち合わせのたびに仕様がコロコロ変わっていきました。とどめは、本当に申し訳なかったんですけどフォローが手薄になった新人営業の退社です。ここも再び募集をかけて、採用選考をして、教育をおこなって…とさらに時間が取られる結果になりました」

そもそもsoraプロジェクトの事業規模としてSalesforceの導入はかなり思い切った投資額。費用対効果を考慮すると「なんとしても成功させないといけないプロジェクトだ」というプレッシャーも大きかったという。今でも新人営業の退社はトラウマという樋口さん。「今にして思えば、せめて新人営業を雇用する前にSalesforceを導入しておけば良かった」と振り返る。

そんななか2019年2月にはベンダーによる構築が完了。新たに採用した新人営業にはSalesforce修正担当になってもらい、まずはマーケティング自動化ツールのPardotを運用しつつ、同時に顧客管理ツールのSales Cloudの修正も開始した。こうしておそるおそるの導入が始まったSalesforce。その大きなターニングポイントをもたらしたのが同年秋に採用した2人目の営業スタッフだったという。

「彼が前職でSalesforceを使っていたんです。いわく『めちゃくちゃ便利だし、もっと活用すべきですよ』と。入力も慣れたら全然面倒くさくないのでみんなでちゃんと運用しましょう、と音頭を取ってくれたんです」

それと同時に拍車をかけたのが、Salesforceのユーザー会への参加だ。大企業からスタートアップまで、さまざまな企業による使い方が参考になっただけではなく、営業スタッフがSalesforceに対して愛着と尊敬の念を抱くきっかけにもなったという。

「特に我々みたいな地方の中小企業ですと、第一線で活躍している企業やビジネスマンとの接点が少ないので、なかなか成長するモチベーションをキープしにくいんです。その点、ユーザー会はSalesforceの使い方以上に、感情面で強く影響を受けるといいますか、良い刺激になったと思います」

顧客管理ツールで、営業日報が消えた

契約から1年半。ようやく2020年3月より完全運用が始まったSales Cloud。その結果コロナ禍にもかかわらず売上見込みは前年比で150%アップしたことをはじめ、社内では大きく変わったことがあると樋口さんは言う。

「営業日報が必要なくなりました。そもそも1カ月前の日報って誰も読まないじゃないですか。売上や予算はすべてSales Cloudに書き込まれるので、それを見ながら営業会議をすればいい。営業マンはけっこう秘密主義で、月の予算をクリアするための隠し玉を持っていたりするんですけど、そういうのいいから全部書けと。1カ所にすべての情報を集めていることで、本人がいなくてもSales Cloudさえ見ればわかる。部署間での情報共有がめちゃくちゃスムーズになりました」

またSales Cloud上のダッシュボードには過去90日間の失注客や、受注予定日を過ぎた商談の一覧を表示。加えて問い合わせ件数から、見込客数、商談件数、契約数を順に表示することで、契約までの流れの中でどこに取りこぼしがあるかも可視化した。これにより問題点を洗い出し、具体的な対策を講ずることができるようになったという。

「特に弊社では有効リードから商談までの取りこぼしが多かったので、ここはリピート営業や新規営業といった担当の垣根を越えて全員で対応しようという決まりになりました。また、新規で問い合わせ電話が入ったら5分以内に営業の誰かがかけなおそうというルールにしました」

一方でいち早く運用が始まっていたマーケティング自動化ツールのPardot 。メールでの問い合わせ対応はもちろん、問い合わせの際にどのページを見たか、また定期的に送っているメルマガへの反応などをチェックすることで、見込客の関心度に応じたより確度の高い営業活動に結びつけられているという。

「例えば2019年5月に問い合わせメールをいただいた新規リードのお客さん。その後週1回のペースでメルマガを送り、最初の6月頃こそ開いていたんですが、だんだん読まれなくなってきた。でも10月に、突然またメルマガ経由で弊社のホームページに訪問されたんです。そこで電話をかけてみますと『内部の事情が変わってまた検討したい』とのことで、今年3月におよそ1年越しに契約に結びついたという事例もあります」

ときには電話口で「昨日社内で御社のことを話していたのにどうしてわかったの?」と驚かれることもあるというPardotの活用。Sales Cloudとの相乗効果で少人数の営業スタッフでも、リソースを適切に配分した営業活動が行えているという。

今後は、全国5000社におよぶ顧客のデータベースを活用し、まったく新しい新規ビジネスの展開も考えているという樋口さん。

「決して安いコストではありませんが、我々みたいな中小企業ほどSalesforceを導入すべきだと感じました。スタッフが少ないので専任の担当を設けられないからこそ、サポート体制が手厚い方がいい。そこはテレマーケティング代行でマンパワーの足りない企業さまの成長をお手伝いしている弊社とも重なり、参考にできる部分もある。導入による売上アップだけではない価値を感じています」

<プロフィール>
取締役:
樋口 裕貴(ひぐち・ゆうき)

1985年福岡県筑紫野市生まれ。2012年に母親が代表を務めるsoraプロジェクトに入社。営業マン、営業部長、取締役となり後継者の道を歩む。現在は二児のパパ。早寝早起きと筋トレが趣味の健康オタクでもある