現場を変えた「数字とタスクの見える化」 「全文公開」町工場がデータと自動化で大変革

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数字での見える化は現場の意識を変える

「iXacsの導入により、仕事のやり方がまったく変わりました」と木村さん。「これまでなんとなくで進めてきたカイゼン活動に、数値ベースのファクトによる根拠ができました。例えば私がやってきた頃、バルブガイドは1個4.5秒で作っていたんですが、もっと速くしたいと言ったら現場は『昔やってダメだった』『これ以上早めると品質が落ちる』と言うんです。でもiXacsで数字が見えるようになると、4.2秒、そして3.9秒になる。従業員も面白くなってきて、今やラインによっては2秒台もある。みんながラインの稼働率、サイクルタイム、原価といった数字を意識するようになった結果が利益率のアップでした」

そのiXacsと「カイゼン」による製造業コンサルティングを他社にも展開すべく、立ち上がったのがiTSCだ。とはいえ旭鉄工からスピンオフしたスタートアップゆえ、スタッフは15名と少人数。営業や顧客管理にもおのずと限界がある。そこに再び投げかけられたのが木村社長による「無茶ぶり」だったという。

「Salesforce入れよう、と」そう話すのは2019年9月入社ながらSalesforce(セールスフォース)担当に任命された、現CSOの木野竜之介さん。レーシングコンストラクターの童夢を経て、フリーランスのメカ・ダイナミクスエンジニアとして活動してきた異色の経歴の持ち主だ。

「採用面接時より自ら志願した部分はあります。弊社はIoTを扱うわりに営業や顧客管理はアナログで、かなりいい加減でした。それは社長も感じていて『データを扱う会社なんだからデータ営業しよう』『社員みんなで情報を一元管理しよう』『頭を使って楽しく営業しよう』と。ただ、私の前任者は無茶ぶりされただけで、Salesforceで何をすればよいか、何ができるかわからず苦労したようです。中小企業にありがちですが、みんな日々の業務に追われているし、そもそも担当業務がはっきりしていなかった。そこで、もともとモノ作りやレースの現場で、全体最適や仕組み作り、運用全般に興味があり、かつITもかじっている私が立候補したんです」

入社間もない担当者が1人で試行錯誤することからスタート

入社早々、木野さんがまず着手したのが営業フローのヒアリングと見直しだ。いったんフローが完成すると「この業務は誰が担当するのか」「どのタイミングでToDoを出してほしいか」「商談時の入力項目は何がほしいか」など要望が集まってきたという。それと同時に重要なのは、従業員が実際に使えるところまでとりあえずたたき台を作ってしまうことだとにらんだ木野さん。当初は1人でSalesforceを触り倒して仕組みを覚えたそう。

「やっぱりかたちがない状態で社員にヒアリングしても具体的な意見は出てこないですからね。もちろん私もSalesforceは素人なので、わからないことは担当の営業さんに聞きまくりました。そのへん営業さんもお上手で『業務で何に困っていますか?』『何ができるようになったら良いですか?』と聞き込みされて、そのニーズとSalesforceの機能をマッチングさせて提案されるんですよね。この姿勢は、社員に対する業務フローのヒアリングの仕方はもちろん、ただシステムを売るだけではなく『カスタマーサクセス』を掲げる我々のコンサル業務にも通じるなと感じました」

慣れないSalesforceと悪戦苦闘すること4カ月。2020年1月にいったんの完成を見たシステムの運用を開始した。木野さんの狙い通り、実際に見て触れられるシステムが出来上がったことで、社員から「こんな項目も欲しい」「この業務も管理したい」と具体的な要望があがった。チャットツールにもSalesforceチャンネルを開設し、さまざまな意見が集約されるようになり、木野さん1人での構築から社員全員を巻き込んだ構築へとスムーズに移行できたという。

うっかりを防ぐ、自動のリマインド機能を作成

Salesforceによる業務改善の大きな柱は、案件ごとの進捗管理とデータの一元管理だ。

iXacsの本格導入の前に1カ月間のおためし期間を提案している同社。問い合わせから機器の導入、週に1度のフォローアップ、導入2週間後の簡易レポート作成、そして商談、本契約とわずか1カ月強の期間にたたみかけるようにタスクが発生する。当然それが複数社、同時進行するため、従来はうっかり忘れてしまう、関連担当への伝達ミスといった漏れがあった。

「そこでタスクと担当者を整理して、前のToDoが完了してチェックを入れたら、自動で次のToDoが生成され担当者にアラートが飛ぶ、という仕組みをSalesforceで作りました。また、期限を過ぎたToDoはSalesforceのダッシュボードの目立つところに表示されるようにして気づきやすくもしました。ダッシュボードには他に、今期の売上げ、最近iXacsにログインしていないお客様、今月更新のお客様を表示することで、次に何をすればいいのか、優先順位の高い仕事はどれかを明確にしています」

有意義なコミュニケーションに時間を割けるように

従前は営業担当それぞれのメモや日報を報告しあうかたちで進んだ朝礼も様変わりした。iSTCの社長デスクには、Salesforceのダッシュボードを表示した大きなモニターが常駐しており、データやファクトを見ながら朝礼がおこなわれるという。またこれまで担当者ごとに管理されていた「顧客情報」「契約機器情報」「議事録」「請求書」といったファイルが、Salesforceで一元管理できるようになったことで情報ハブとして活用され、結果的に無駄な情報共有工数が削減されたという。

「もう『Salesforceのあそこ見といて~』で伝わるし、これは体感ですけど伝達コストは半分以下ですね。万が一担当者が急に休んでも、お客様のステータスから、どこまで話が進んでいるか、次に何をすればいいのか一目瞭然です。一方で、Salesforceの画面を見ながらみんなであれこれ話し合う機会が増えたので、無駄なコミュニケーションが減って、有意義なものが増えた印象です」

CRMツールの根幹をなす「Sales Cloud Enterprise」は社員15名中、12名が使用しているのをはじめ、マーケティングオートメーションツールの「Pardot Growth」、CRMプロセスの自動化ツール「Engage」等をPremiere Successプランで利用しているというiSTC。他サービスとの連携にも旺盛で、社内連絡、経理、人事・労務で活用しているツール、そして自社サービスのiXacsとつながり、より業務効率のカイゼンを目指している。

「運用開始から半年強ですが、これまで50%だったiXacsの無料トライアルからの成約率が70%にアップしたほか、Pardotによる新規リード獲得も1000件以上。早くも成果を実感しています。今後は自分たちのレベルにあわせながら、自社サービスとの連携強化に、代理店・販売店との情報共有、マーケティングやインサイドセールスのさらなる強化をSalesforceでおこなえればなと思っています」

「人には付加価値の高い仕事を」を社是に掲げるiSTC。勘と経験、アナログによる顧客管理から、データと自動化によるそれへと大胆な変革を遂げたことで、さらなる本業への注力が進みそうだ。

<プロフィール>
代表取締役社長:
木村 哲也(きむら・てつや)

1992年、東京大学大学院工学系修士修了、トヨタ自動車に21年勤務。2013年に旭鉄工に転籍、生産調査部での経験を生かし、生産性・組織や仕事の進め方など経営全般を大きく改革。その中で製造ライン遠隔モニタリングシステムを構築・運用、生産性向上と人材育成の面で大きな成果をあげる。生産性向上を実現するため、このシステムをサービスとして提供する「i Smart Technologies」を設立。中小企業を中心に、100社以上に導入され、「第7回 ものづくり日本大賞 特別賞」をはじめ数多くの賞を受賞。
執行役員:
木野 竜之介(きの・りゅうのすけ)
2019年9月、iSTCに入社。
バックオフィスからカスタマーサクセス、パートナーアライアンスまで広範に携わる、自称「仕組み作り担当」。以前はレーシングカーコンストラクターである童夢を経てフリーランスのメカ・ダイナミクスエンジニアとして活動。レーシングカーを始めとした数多くのプロダクト開発や大手自動車メーカーの国内外レース活動に従事する。