ドバイ案件で損失覚悟 大手ゼネコンの隘路
「交渉状況によっては業績に影響を与える可能性があります」。大林組と鹿島が2月に発表した2009年度第3四半期の決算短信には、こうしたリスク情報が盛り込まれた。両社は5年前からドバイ・メトロの建設工事を請け負っており、数百億円規模の工事損失が発生する可能性が高まっているのだ。
昨年12月のドバイ危機以降、投資家の間では国内ゼネコンの巨額損失リスクが関心を集めてきた。両社は言及を避けてきたが、今回初めてリスク情報を開示。共同企業体の責任者である大林は、設計変更と追加工事などで工事費用が当初の3倍程度に膨らむと見込んでいる。
ドバイより大規模なアルジェリアで損失も
国内の建設需要低迷を受け、大手ゼネコンは近年、海外へ活路を求めてきた。中でも全長約75キロメートルを誇る世界最長の無人鉄道システム、ドバイ・メトロは象徴的案件。05年8月の着工以来、現地特有の意思決定の複雑さもあり工事は難航。それでも第1期の「レッドライン」は駅舎など未完成部分を残しつつ、「先方の強い意向」(大林組)で昨年9月に予定どおり営業運転にこぎ着けた。
ただ今年3月に開通するはずだった第2期の「グリーンライン」は工事が完了していない。進捗の遅れは、共同企業体が発注者側のドバイ政府道路交通局に対し、工事中断をちらつかせて工事代金の支払いを催促していることもある。大林は「先方はそんなに工期にこだわっていない。ペースを落としただけ」と意図的な遅延を認める。10年度中の完成を見込むが、実現するかはドバイ政府のカネ払いにかかっている。
大林は当初の建設工事費2280億円の50%が持ち分。3倍に膨らむと請負規模は3420億円となる。工事代金は出来高払いで、同時に少しずつ損失を引き当ててきた経緯から「リスク債権は800億円前後」が業界アナリストの見立てだ。鹿島は大林より持ち分が15%少ないため、計算上550億円前後となる。
その鹿島は「ドバイより規模が大きいアルジェリアの損失リスクもある」(大和証券キャピタル・マーケッツの川嶋宏樹シニアアナリスト)。アルジェリアを横断する東西高速道路東工区は、日本と異なるもろい地質の区間にトンネルを通すなど難工事に直面した。商慣習も日本の常識が通用せず、工事の手法や支払いをめぐり交渉が一時迷走。「先方の交渉姿勢は柔軟、世間が言うほど混乱はない」(共同企業体の西松建設)というものの、今年1月完了予定の工事は「引き渡したところもあるがトータルで期間が延びている」(鹿島)。
受注規模が約5400億円と大きいため、追加工事分を含む請負金の1割でも損失リスクは巨額。アルジェリアは豊富な鉱物資源で外貨を獲得しており、支払い原資が滞る心配はないが、工事損失の懸念は残る。