ビジネスに抜本的な変革をもたらす「DXの真髄」 デジタル変革を前進させる7つのポイント
コロナ禍で進んだデジタル化
DXは本当に進展しているか
DXで世界に遅れていると言われて久しい日本企業。そもそもDXとは、どう定義されるべきものなのだろうか。総合コンサルティングファーム、ベイカレント・コンサルティングの執行役員で、さまざまな業界のDX支援に尽力してきたデジタル・イノベーション・ラボの則武譲二氏は次のように語る。
「デジタルツールの導入にとどまらず、ビジネスモデルやそれを支える組織の再構築につながるデジタル変革こそが、DXの本質だと考えています。そこでわれわれは、DXを『デジタルテクノロジーを活用し、従来のやり方を抜本的に変革すること』と定義しています」
また、チーフエバンジェリストの八木典裕氏は、こう続ける。
「変化と変革はまったく異なるものです。AIやIoT、ブロックチェーンなど、先進のテクノロジーを導入し、既存の業務を効率化しただけではDXとは言えません。抜本的なビジネス変革に向けて、CX(顧客体験)とEX(社員体験)を進化させ、顧客課題や社会課題の解決につなげることが、真の意味でのDXと言えます」
そこで、DXに至るまでの段階を3ステップで整理している。第1ステップが「デジタルパッチ」、第2ステップが「デジタルインテグレーション」、第3ステップが「デジタルトランスフォーメーション」である。
「デジタルパッチ」は、既存モデルへの部分的なデジタル適用のことを指す。顧客接点のスマホアプリ化、RPAによる一部業務の効率化などが、このステップに当たる。
そして、「デジタルインテグレーション」は、既存モデルへのデジタル融合の段階。データを生かすことで、CXを大幅に向上させたり、AIなどによりオペレーションのスピードを飛躍的に向上させる、などが挙げられる。
この「デジタルパッチ」「デジタルインテグレーション」の段階を踏んだうえで到達できるのが、既存モデルからの脱却や、新たなモデルへの進化に当たる「デジタルトランスフォーメーション」である。顧客への提供価値の転換や、バリューチェーンの再構築、業界の垣根を越えたエコシステムの構築、デジタル空間前提のワークスタイルの創造などが例として考えられる。加えて、新しいデジタルビジネスモデルに適合するよう、組織の構造も抜本的に組み直すことも含んでいる。
DXは一足飛びにはかなわず、3つのステップを踏みながら実現させるというのが、この考え方のベースだ。
くしくもコロナ禍を契機に企業のデジタル変革は加速しているが、ほとんどのケースが部分的にデジタル適用を行う「デジタルパッチ」にとどまっていると則武氏は語る。
「企業全体の変革まで見据えているDXの取り組みはまだまだ少ないです。しかし最近になって、その必要性の実感が徐々に進み、一部の経営層や、デジタル部門などに所属する尖った人たちに火がつき始めた印象があります」
八木氏も、「チャットボットやRPAなどを導入することが目的となっているケースがよく見受けられますが、デジタルツールは単なる手段にすぎません。『どの顧客をどう幸せにしたいのか』という視点が最も重要です。売り上げを増やすことだけを追求するビジネスではなく、顧客基点でDXに取り組まなければ、本気のDXを推し進める企業に圧倒され、生き残りを左右する問題に発展しかねないと考えます」と語る。
“とりあえずデジタル”でなく「変革目的」をしっかりつかむ
“とりあえずデジタル”から脱却するためには、DXで目指すべき確固たる目標を定めることが重要だと語る両氏。そのためにも、「変革目的(Why)」「変革項目(What)」を明確にし、「どう実行するか(How)」に落とし込まなくてはいけないという。
「3つのステップのどの段階であっても、変革目的と変革項目は必要です。例えば、DX初期のデジタルパッチの段階で、『デジタルツールを導入したのに、結局使いこなせていない』というケースがよくありますが、これは変革目的と変革項目をおざなりにした結果だといえます」(八木氏)
DXに取り組もうと意気込んでも、何から手をつけていいかわからず、手探り状態の企業も多い。そこで、まずは業務効率化につながるデジタルツールを活用して社内の生産性を上げるなどして、デジタルでできるようになることの理解を深めることが重要だという。そういった試行錯誤を積み重ねる中で、おぼろげだった変革目的や変革項目がはっきり見えてくる。3ステップそれぞれの段階で、変革目的や変革項目を設定していくことが大事になるのだ。
「変革目的や変革項目をつかみきれないのは、机上の空論で議論しているから。デジタルはあくまでも道具なので、使ってみて初めてプロセスやアウトプットを実感できます。例えば、まず問題解決に意欲的な社員が、デジタルツールをトライアルで使ってみて、ワクワクするかどうかを試してみるのも1つ。実際に体験すると、『社内でこんな使い方ができそう』『顧客にこんな体験を提供してみたい』と発想が広がっていきます」(則武氏)
社員の幸せやパッションこそが真のCX向上につながる
消費者の価値観変容が目まぐるしい昨今、スピード感を持ってDXを成し遂げ、CXやEXを進化させなければ、変化への追随は極めて難しくなる。ともすれば新興勢力に負け、競争力を失うことになりかねないだろう。
しかし、“おもてなし”という言葉に象徴されるように、日本企業の多くは、これまでレベルの高いサービスを培ってきた。それは、お客様ファーストが昔から根付いていたということであり、その志向性の下、現場の社員一人ひとりが改善活動を重ねてきた賜物にほかならない。これをデジタルと融合させることで、グローバル市場でも強い優位性を築くチャンスが生まれると両氏は分析している。そのために不可欠なのが“パッション”だという。
「変革にはものすごいエネルギーが必要となります。それを生み出すためには、社員の危機感をあおったり人事評価を変えたりするだけではなく、夢中になれるプロトタイプの存在が不可欠。DXに本腰を入れるためには、まずは社員が自分ごと化できるよう、原動力を遊び心に置いて考えることが重要です」(則武氏)
無機質な印象が強いDXだが、変革を推進するには、意外にもワクワクや楽しいといった人間くさいエッセンスが求められるのだ。
「社員のパッションなしにDXの成功はありえません。例えばデジタルツール導入で社員をルーチン作業から解放すると、現場に余剰パワーが生まれます。余剰パワーを生かす先として、自分の幸せのために選んだ仕事に就くことで、仕事の原動力が強化されます。すると現場から積極的に改善策や提案が上がるようになり、それが顧客の期待を超える施策に結び付いていきます。つまりDXというのは、突き詰めれば社員がパッションを持って仕事に取り組めるようにすることで、その結果として顧客体験の向上が付いてくるものなのです」(八木氏)
また、近年企業にとってますます重要度を増すSDGsを実現させるためにも、DXは切り離せないという。
「SDGsにより、企業経営と社会課題の解決は、切り離せない関係になっています。日本には古くから、企業は社会の公器であるという不文律が根付いていましたが、ここに来て改めて、『何のために存在しているのか?』を問い直すことになりました。DXを推し進める中で、その問いに答えを出すためにも、経営とSDGs、そしてDXをリンクさせ、インパクトのあるSDGs経営に舵を切るべきです」(則武氏)
SDGsの実現にDXが欠かせない理由について、八木氏はこう締めくくる。
「顧客と社員の幸せや社会貢献を追求していくと、必ずSDGsの項目に集約されます。そこで、なぜDXが大切かというと、経営戦略に関わるSDGsの具体的で難しい取り組みに際して、DXは新しい価値創造のパワーを与えてくれるからです。厳しさを増す市場競争において、経営、SDGs、DXが1本の矢となり、経営目標達成や社会課題解決を狙うことが、今後ますます重要になるでしょう」
POINT01
DXへは一足飛びに到達できない。段階的にDXへ向かう3ステップ
POINT02
PoCを変革につなげる。挑戦の先に見据える確固たる目標
POINT03
自ら手を動かし、試してみる遊び心
POINT04
顧客の期待を超え続ける。それを実現するさすがとまさかのCX
POINT05
DXの取り組みにテコを利かせるデータレバレッジ
POINT06
高い視座で目標にコミットするパッション
POINT07
デジタルの新たな可能性を拓くインサイトとインパクトの積み重ね