5G需要で絶好調、「通信部品」メーカーの正体 追随許さぬ技術力で大阪から世界へ
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5G時代の裏の主役、「高周波フィルター」
2020年は通信の1年といっても過言ではない。スマートフォンメーカー各社は5Gタイプの機種を次々発表し、3月には大手通信会社が一斉に5Gのサービスを開始。こういった5Gの供給側の準備が整っただけではなく、コロナ禍によるテレワークの普及で、通信機器の需要は急増。もともと高速通信への期待は高かったが、そこにビジネスユースのニーズが加わり、スマートフォンやタブレットなど5G対応製品は急速に普及していくとみられる。
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この5G製品に欠かせない電子部品の1つが「高周波フィルター」。高周波フィルターは、不要な周波数成分の信号を除去して、必要な信号のみを抽出するフィルタリング機能を持つ。4G対応機器にも使われているが、5Gになると周波数帯域が高周波に広がるため、さらにフィルターの必要度が増す。仮にフィルターがなければ通信品質が落ち、消費電力が増えてバッテリーの持ちが悪くなる。5Gを快適に利用するために必要不可欠な基幹部品だ。
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高周波フィルターを作っている企業の1つが、大阪にあるスカイワークスフィルターソリューションズ ジャパンだ。大阪というと「町工場」のイメージがあるかもしれない。しかし、同社はバリバリの「外資系」だ。親会社のスカイワークス ソリューションズは、フィルターを搭載した高性能統合モジュールで世界でも存在感を示す。米国S&P500の1つにも選ばれているグローバル企業だ。20年は、NASDAQの5G関連銘柄として注目された。
もともとパナソニックのフィルター部門がスカイワークスに製品を供給していたが、両社による合弁会社設立を経て、16年からスカイワークスグループの一員としてフィルターの開発・製造を行っている。
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フィルターの要素技術の1つに、温度補償型の「TC-SAW」がある。同社はパナソニック時代の13年にこの技術を用いた製品を開発・量産して、ハイエンドのフィルター市場で確固たるポジションを築いた。製造技術本部本部長の樋野村徹氏は、「市場での優位性は今も変わらない」と胸を張る。
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製造技術本部本部長
博士(理学)
樋野村 徹 氏
「他社も追随してきていますが、いち早く供給を始めた実績があり、顧客とのつながりは深い。モジュールを顧客に提供しているスカイワークスグループの一員としてフィルターの開発・製造を行うというのが、われわれの強みの1つです。最終のセットとしての特性・性能を見据えた設計・開発を行いますので、必要なフィルターをスピーディーに供給できる。これはほかの日系メーカーにないアドバンテージでしょう」
実際、同社の事業は拡大の一途だ。SAWフィルターの製品数は、13年当時から現在は20倍程度にまで拡大。さらに高周波帯域で効果を発揮するBAWフィルターに関しては、「SAWフィルターの拡大を上回るスピードで伸びている」(樋野村氏)という。
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誰もが知るプロダクトに携わる喜び
スカイワークス フィルターソリューションズ ジャパンの事業の拡大を支えているのが、同社が誇る優秀な技術者たちだ。
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製造技術本部BAWデバイス技術部 部長
(兼)BAWプロセスインテグレーション課 課長
岩崎 智弘 氏
10月末現在、同社では1538名の従業員(派遣社員、請負社員含む)が働いており、その多くは開発や量産の技術者。製造技術本部BAWデバイス技術部 部長の岩崎智弘氏は、技術者の構成を次のように明かす。
「実際、私の部下の8割は前職でのフィルター開発経験はありません。しかし、多くのメンバーが異なる分野での経験・強みを生かし、事業に貢献する成果を出しています。また、入社後にフィルターの専門知識を身に付けて成長し、リーダーとして活躍している人もいます」
製造技術本部 BAWプロセス技術部 部長の小坂宜吉氏も、フィルターは未経験の半導体技術者だった。
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製造技術本部 BAWプロセス技術部 部長
博士(工学)
小坂 宜吉 氏
「半導体は、自分が開発したものがどのような製品に使われているか見えにくいところがあります。しかし、われわれが作っているフィルターはどの製品に入っているのかわかりやすく、それも誰もが知るようなプロダクトに使われているので、自分の仕事に手応えを感じられます。
また、わたしの転籍前の13年ごろ、半導体業界は停滞しており、技術者としては『せっかく開発してもモノが流れない』という状況が寂しかった。
それに対して今はわれわれが作るフィルターをはじめ、業界全体が成長を続けていて、とても将来性があります。今は『どうすればもっと多く作れるのか』という正反対の悩みに直面しており、うれしい悲鳴を上げています」
外資日系企業の「いいとこ取り」
需要がどんどん高まる通信機器内のフィルターというプロダクトゆえの醍醐味に加えて、外資系ならではの魅力もある。
「前身がパナソニックなので、ものづくりの現場はチームワーク重視で日本的です。ただ、求められるスピード感は外資系そのもの。開発や量産の現場で発生した課題については親会社と密にやり取りしており、今日取ったデータを明日レビューすることも珍しくありません。日本企業にありがちな『内部で揉んでから上に報告』という悠長さはない。日本的なチームワークと、外資系のスピード感のいいとこ取りをしたような職場です」(岩崎氏)
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「日本企業に比べて、与えられる権限や裁量は大きいですね。それだけ結果も求められますが、自身のスキルのさらなる向上を目指し、自分の裁量で実験・研究をしている技術者もいます。業務をこなしつつ自分のスキルを高めていくことができるので、成長意欲の高い技術者に向いていると思います」(小坂氏)
現在、同社は採用を強化中だ。コロナ禍で採用を絞る企業が目立つ中、同社は昨年度は50名、一昨年度は100名弱の採用実績があり、今期120名程度を採用予定。
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人事責任者
迫田 則久 氏
来期も5Gの追い風を受けて、さらなる増員を計画している。新しい時代の波をつかまえるために、どのような人材を求めているのか。最後に人事責任者の迫田則久氏は転職を検討している技術者に向けて力強いメッセージを送る。
「5G時代を迎えて通信が高速大容量化すると、人々の働き方を含めて社会のあり方が変わっていきます。私たちはその変革の土台となるインフラ整備の一員となり、時代の要請に応えていかなければなりません。
当社に求められるものはとても高いですが、それは大きなビジネスチャンスとも言えます。この状況に対して、“ハード屋としての誇り”と“冒険心”を持って取り組んでいただける方と切磋琢磨し成長していきたいと思います」
「ワクワクする」「腕が鳴る」と感じた技術者は、ぜひ同社にジョインし、5G時代の華麗なる幕開けを盛り上げてほしい。