「モーニングスター」東証1部へ市場変更 さらなる企業価値向上を目指して
つねに新しいサービスの開発・提供に取り組む
「当社は1998年に設立され、2000年の6月に大証ナスダックジャパン(現・東証ジャスダック)に上場しました。以来、投資家視点によるサービスの提供を通じて、成長を続けてきました」とモーニングスター代表取締役社長の朝倉智也氏は振り返る。
20年には上場20周年を迎えた。朝倉氏の言葉どおり、同社はこの間、業績を着実に伸ばしてきた。とくに朝倉氏が社長に就任して以降はその勢いを加速させている。直近の業績を見ても、連結当期利益は11期連続の増益で7期連続の最高益を更新している。
市場環境を見れば、この間、決して順風ばかりではなかった。それにもかかわらず、同社が成長を続けることができた理由はどこにあるのか。
「早くからITを活用したサービスの拡充には力を入れてきました」と朝倉氏は語る。
今ではSNSを活用したプロモーションがスタンダードになっているが、モーニングスターは09年8月にはSNSによる金融情報の発信を開始している。スマートフォンやタブレット端末を通じた金融情報提供のスタートも早い。10年9月には投資信託や株式、ニュースなどを閲覧できるスマートフォン向けアプリをリリース。その2カ月後にはタブレットによる投資信託の情報提供を始めている。
タブレット用アプリは銀行や信用金庫・信用組合、証券会社・運用会社、証券仲介業者などに提供されているものだが、驚くべきはその提供社数の伸びだ。18年3月期の提供先は127社だったが、20年9月には458社と、この2年間で約3.6倍に伸びているのだ。
朝倉氏は「個人投資家との接点となる銀行や証券会社などで、当社のタブレット用アプリの普及が確実に進んでいると自負しています」と胸を張る。
投信評価機関としてのブランド力を高めて
創業以来、投信評価機関として個人投資家や金融機関に中立的な立場で評価情報を提供してきたモーニングスター。「スターレーティング」と呼ばれる星の数で投資信託(ファンド)を客観的に評価する手法を国内でもいち早く取り入れた。同社の評価に対する信頼性は高く、同社が4つ星や5つ星を付けたファンドには資金の顕著な流入が見られるほどだという。個人投資家向けのアプリのダウンロード数も伸びており、ファンドを購入する際に頼れる投信評価機関として確実にブランド力を高めていることがわかる。
だが、朝倉氏は現状に満足しているわけではない。その理由として、朝倉氏は政府が「貯蓄から投資へ」と旗印を掲げているにもかかわらず、個人投資家の投資に向かう資金がなかなか上がっていないことを挙げた。
「当社は創業当初から個人投資家向けに『資産運用セミナー』などを実施し、ファンドなどに関する情報提供や投資教育を行ってきました。これからも愚直に活動を続けていきます」と朝倉氏は話す。
地域の金融機関と共同で行っている個人投資家向け「資産運用セミナー」は、19年には福岡、千葉、札幌、宇都宮でも開催された。20年には同社のWebサイト、スマートフォン、YouTube公式サイトなどを活用した「オンライン」セミナーを積極的に開催、多くの参加者を集めた。
アセットマネジメント事業にも注力
東証1部への市場変更を、将来の成功に向けてどのような契機にしようとしているのか。今後の展望について朝倉氏は次のように語る。
「主要なサービスの1つであるタブレット用アプリは、さらに提供社数・台数が伸びると考えています。というのも、今後は日本でもIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)の活躍の場が増えていくと考えられるからです。米国ではIFAの販売支援のためにモーニングスターの情報やツールが高いシェアを誇っていますが日本でも同様になるのではと期待しています」。米国では、「人生の友人に持つなら、医師、弁護士、IFA」といわれるほどIFAの社会的な地位が高い。日本でもIFAの存在感が増すことで、モーニングスターの販売支援のニーズも高まるだろう。
「このほか、個人投資家向けの、積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)や、個人型確定拠出年金(iDeCo)対応の積み立て投資ツールなど、使い勝手のいいツールの開発・提供にも力を入れていきます」
グループの総合力という点では、アセットマネジメント事業にも注目したい。19年2月には米国の資産運用会社「Carret Asset Management LLC」を買収するなど、同事業の強化を進めている。さらに同年12月には、「SBIボンド・インベストメント・マネジメント」および「SBI地方創生アセットマネジメント」の運用会社2社を買収。いずれも地域金融機関からの運用受託が拡大し、連結の収益拡大に貢献している。「地方銀行の自己資金運用のポートフォリオ管理など、ニーズがありながらなかなか受け皿がなかった事業を実現していきたいと考えています」と朝倉氏は抱負を語る。
さらなる企業価値向上を目指して、積極的な挑戦を続ける同社に、引き続き注目していきたいところだ。