感染症患者の隔離ブース、製造元は意外にも… 「1カ月で開発」新商品に見るダイキンの本気

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コロナ禍で、感染症患者を受け入れる医療現場の「2次感染防止策」に注目が集まっている。患者はもちろん、日々奮闘する医療従事者を守るためになされている工夫の1つが「患者の隔離ブース(陰圧ブース)」だ。患者のベッドがビニールカーテンで囲まれ、周囲から隔離されている様子をメディアで見た人も多いだろう。この「陰圧ブース」を手がけているのは、意外にも空調メーカーのダイキン。エアコンで知られるダイキンが、なぜこの分野に進出しているのか。その狙いと開発の経緯を追った。

「工事レス商品」の開発は初めてのことだった

長期化している、目に見えないウイルスとの闘い。じわじわと感染者数が増え、医療逼迫が懸念される中、病院やクリニックでは医療従事者を守りながら感染症患者の治療に当たるという難題を突きつけられている。待合室から診察室、入院病棟まで、動線を完全に分離して2次感染を防ぐことは難しい。また、院内で大規模な工事を行い、設備を導入するのも現実的ではない。

ダイキングループ 日本無機
営業本部 東京営業部 第3課
重山 陽佑

こうした状況に対し、空気の専門家として1つの答えを出したのが、エアコンで知られるダイキンだ。空気にまつわるノウハウを生かし、医療現場の2次感染を防ぐ「陰圧ブース」をつくり上げた。ダイキングループの日本無機で病院や介護施設に感染対策商品の提案をしている重山陽佑氏は、開発前夜の社内の様子をこう打ち明けてくれた。

「緊急事態宣言が発出され、私たちもリモートワークになる中で、空気の専門家である弊社の技術を世の中のために生かせないかという話が自然と持ち上がりました。コロナ禍で大きな負担を強いられている医療現場の役に立ちたいという考えからです。実際に病院の現状を考えれば、設置工事を伴うものは現実的でなかったため、工事レスの商品を開発しようと考えたんです」

陰圧ブースは、単に病床をビニールシートで囲っているだけではない。内部の気圧が外部よりも低く、つまり「陰圧(負圧)」に調整されている。空気は圧力の低いほうへ流れる性質があるため、陰圧の空間内に感染者を隔離すれば、内部の空気を外に漏らすことなく、2次感染を防ぐことができる。

気圧は目に見えないが、医療従事者など周囲を守るために欠かせない要素だ

そして、陰圧空間内の空気を安全に保つために欠かせないのが、ブース上部についている「HEPAフィルター」だ。JIS規格で0.3µm(マイクロメートル。1µm=0.001mm)の粒子に対して99.97%以上の捕集率を有する高性能なフィルターで、ブース内のウイルスを効率よく捕集することができる。このHEPAフィルターのリーディング企業が、ダイキングループの日本無機というわけだ。

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同社のフィルター製品は、半導体や医薬品の工場など空気の清浄度が求められる現場で重用されてきた。ただし、建物の建築時に組み込む形で設置されるのが一般的。「工事が要るような、大がかりな対策は取れない」という医療機関も少なくないだろう。そうしたニーズをくみ取った日本無機は今回、初となる「工事レス商品」の開発に踏み切った。

感染者数の増減に応じて病床数を変える病院があることを踏まえれば、この判断は的を射ているといえよう。工事レス製品はゼロからのチャレンジだったが、わずか1カ月で完成。2020年5月には販売を開始した。

「弊社の商品で、ここまで短期間で開発したものはほかにありません。ダイキングループとして世界規模の緊急事態に対応するべく、全社一丸となって取り組んだ結果です」(重山氏)

陰圧排気ユニット。下部から空気を吸い込み、HEPAフィルターを通してきれいにした後、ダクトを通して外に排出する

そのため開発のスピードを優先し、商品を提案する中で顧客の声を集め、改良を重ねていったのだと重山氏は振り返る。この可動式陰圧排気ユニットは、個室に設置して室内を陰圧にすることで、空気を外部に漏らすことなく2次感染を防ぐことができる。内蔵されるHEPAフィルターの厚さだけで29cmあるにもかかわらず「高さ約100cm×幅69cm×奥行き39cm/48cm」とコンパクトなサイズを実現。騒音値を抑えることにもこだわるなど、初の可動式製品とは思えないクオリティーを発揮している。さらに、ダクトを外して付属パネルを付ければ空気清浄機としても使え、日常使用も考慮した「1台2役」仕様となっている。

「通常、弊社の製品は販売開始からある程度の期間をかけて売れていきますが、この陰圧排気ユニットにはすぐに大きな反響がありました」。重山氏がそう振り返るように、販売開始から半年に満たない2020年10月時点で、問い合わせ数は500件を突破。すでに100以上の施設に250台を導入済みというヒット商品となった。

患者と医療従事者、両方に安心感をもたらす

注目したいのは、同社がさらなるニーズを探って、新商品「折畳み式陰圧ブース」を生み出したことである。

「既存のブース商品を陰圧仕様にカスタマイズした『組立て式陰圧ブース』を、5月に発売しました。しかし、組み立て時にはネジ留め作業などがあり複数人が必要で、また一度組み立てたものを移動するのは難しかったんです。ユーザーからは『今すぐ必要ではないが、スタッフに安心感を与えるため簡単に組み立てられるブースがほしい』『不使用時はコンパクトに収納したい』といった要望も多くありましたので、軽量なアルミフレームを使った『折畳み式陰圧ブース』を開発し、8月に発売を開始しました」

折畳み式陰圧ブース

この折畳み式陰圧ブースは、10分ほどで組み立てられる簡単なもの。想定外だった、入院設備のないクリニックからの引き合いが多いのだという。

「先日から問い合わせが急増していますが、増えているのは待合室でのご利用です。小規模なクリニックでは、患者を隔離するスペースや動線を確保できないケースも多い。待合室にブースを設置することで、患者と医療従事者の双方に安心感が生まれていると聞きます」

ブースの大きさは3種類あり、スペースに合わせて選べる仕様。ブース内外に圧迫感がないことから、新たな展開も広がり始めている。

「HEPAフィルター内蔵の装置は、葬儀場やスポーツジム、ダンスホールや飲食店など、これまでまったく想定していなかった業態にも導入され始めています。感染症対策は長期の闘いになると見込み、幅広い場所で役立てられるよう、フル回転で対応しているところです」

ダイキンならではのやり方で「医療現場を応援」

医療現場の安全性に一役買っている日本無機のフィルターは、当然ながらダイキンの主力事業であるエアコンとの親和性が非常に高い。一方で、高性能ゆえの課題もあるのだと、ダイキンの本田条二氏は説明する。

ダイキン工業 フィルタ事業本部 事業戦略室 企画担当課長
本田 条二

「高性能フィルターは、微細なほこりも逃さないように目が非常に細かくなっているため、それだけ空気・風に対する抵抗も強くなります。そのままエアコンに搭載できるものではありません。しかし、快適性に加えて『安全性』も求められるようになるなど、かつてないほど空気への関心が高まっている今、この開発に挑戦する価値は十二分にあると考えています。

例えば現在、夏場の暑さ対策を行いながら感染予防を行うために、高性能フィルタとエアコンを組み合わせた冷房機能付きの陰圧排気ユニットを開発しています。こういった取り組みは、空調事業で積み重ねてきたノウハウはもちろん、国内外にフィルターの関連会社をもつ当社だからこそ貢献できる分野だと自負しています」(本田氏)

私たちの日常を揺るがす変化がいつ起きるともわからない時代、メーカーに求められるのは、現場のニーズを迅速にくみ取って商品に反映することだ。空気質への関心が高まる中、ダイキンは、空気にまつわる独自の技術をあらゆる空間に展開するため、着々と布石を打っている。

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