歯みがき剤から燃料まで変幻自在のアパタイト

サステイナブルなものづくりの源泉とは

左:アパガードプレミオ(販売名:サンギXLC2)右:アパデントトータルケア(販売名:サンギαFT3)医薬部外品・薬用歯みがき
「芸能人は歯が命」がキャッチコピーのTVCMで、一躍脚光を浴びた歯みがき剤「アパガード」。日本に“歯の美白”という概念を浸透させた同製品を手がけるのは、サンギだ。2020年に46年目を迎える同社は、生産工場を持たないファブレス企業として、アパガードに含まれる成分「ハイドロキシアパタイト」の研究と製品開発を事業の柱にしてきた。サンギが目指しているのは、「世の中にないものを生み出すこと」。その理念を支える研究開発の現在地、ものづくりに懸ける思いを探る。

NASAの技術からヒントを得て、ハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤を生み出す

「ハイドロキシアパタイト(以下、HAP)」は、リン酸カルシウムの一種で、人間の骨と歯の主成分だ。歯の象牙質の70%、エナメル質の97%が、HAPで構成されている。

歯が白く見えるのは、エナメル質の下にある象牙質が透けて見えるため

元は総合商社だったサンギが、HAPの研究開発に着手したのは、特許の売買を行う中で知ったNASAの研究がきっかけだ。1970年ごろ、NASAが宇宙飛行士の歯や骨の衰え対策として、リン酸カルシウムの活用にまつわる研究を進めていることに、サンギ創業者で現会長の佐久間周治氏が注目。HAPを歯みがき剤に用いるアイデアを思いつき、研究を開始した。それ以来、長年にわたる臨床試験により得られたエビデンスで、93年に、むし歯予防に効果がある薬用成分「薬用ハイドロキシアパタイト(以下、<mHAP>/エムハップ)」として、旧厚生省から薬事承認された。

サンギ 代表取締役社長
ロズリン・ヘイマン氏

「<mHAP>が持つ最大の特徴は、『歯垢の吸着除去』『歯表面についたミクロの傷の充填』『エナメル質から溶け出したミネラルの補給(再石灰化)』の3つです。これらは、3つの作用でエナメル質を健康な状態に保つことでむし歯を予防します。エナメル質からミネラルが失われることでその表層下が脱灰状態になると、歯表面に曇りが生じ、光沢が消えてしまいます。<mHAP>は、脱灰部にミネラルを補いエナメル質の密度を高める再石灰化作用があります。清潔感のある白い歯を保つためにはエナメル質の健康がポイントになりますから」と語るのは、サンギ代表取締役社長のロズリン・ヘイマン氏。

(左から順に)『歯垢の吸着除去』『歯表面についたミクロの傷の充填』『エナメル質から溶け出したミネラルの補給(再石灰化)』

2003年には、<mHAP>を2桁ナノレベルの超微粒子化することに成功し、エナメル質への浸透力や再石灰化率をさらに高めることを可能にした。むし歯予防成分としてよく知られているフッ素は唾液による再石灰化を促進するが、<mHAP>はそれ自体が再石灰化する。また、歯と骨の主成分である<mHAP>は、摂取制限の必要もない。HAPは生体への親和性が高いバイオマテリアルとあって、人体そのものにも優しい成分であるといえる。

“できない”が出発点。斬新なものづくりを支える研究員たちの存在

HAPの研究開発一筋の“アパタイトカンパニー”として成長を遂げてきたサンギは、18年にドイツに子会社を設立し、HAP配合のオーラルケア製品が拡大してきているEUへの進出も果たした。かねて、諸外国から歯みがき剤の輸出を請われてきたというが、それもHAPに関するサンギの豊富な基礎研究と臨床試験、そしてその成果を踏まえて作られた信頼性の高い製品があってこそだ。

また、HAPに特化したオーラルケア製品だけにとどまらず、「化粧品」「医薬品」「無機系抗菌剤」などへの応用にも挑戦してきた。自社ブランドはもとより、有名メーカーの制汗剤やウェットティッシュなどにも、サンギのHAP応用技術が使われている。

スキンケアにアパタイトを応用したHAP+R(ハップアール)シリーズ

現在サンギが、主な研究テーマに掲げているのは、デンタル、ドラッグデリバリーシステム(以下、DDS)、触媒の3つだ。

HAPの粉体を直接歯に吹きつけることで、歯の表面に瞬時にHAPの層を形成する実験の様子

「デンタルは、HAPを知覚過敏治療やホワイトニングなど、歯科医院向けの医療機器として活用するべく、臨床試験を進めています。いずれもHAPを直接歯に吹き付け、エナメル質と象牙質を修復するという革新的な新技術で、現在薬事申請の準備段階です。また、私たちのDDSは抗がん剤など、現在は注射や点滴といった医師が投与する薬に、HAPをコーティングすることで飲み薬に変える技術を開発中です。さらに、HAPは触媒にもなり、例えば、バイオエタノールをガソリンの代替燃料となるブタノールに合成する際に用いることもできます」

HAPは触媒の役割も果たし、バイオエタノールをタイヤの原料となるブタジエンやガソリンの代替燃料となるブタノールに変化させることができる。写真はHAPを合成させている様子

デンタルやDDSに関しては、ヘルスケアへの貢献度が高く、触媒についても、環境に配慮したサステイナブルな取り組みだといえる。こうした成果を上げることができたのは、「世の中にない新しいものを創り出したい」というサンギのフィロソフィーが大きく影響している。そしてもう1つは、HAPの研究を進め、ものづくりの根幹を担う中央研究所の存在だ。フラットな組織の中で生まれた独創的なアイデアが、HAPの可能性を切り開いてきた。

「若手もベテランも関係なく、全員が意見を持って議論し、ブレストしながら研究を進めています。われわれは製造部門を持たないので、アイデアで勝負しなくてはいけません。そして、イノベーションにつながるアイデアは、多様かつ率直な意見から生まれると信じていますので、コミュニケーションを重視する社風の維持に努めています。また、もう1つ大事にしているのは、研究は“できない”が出発点だという認識を共有することです。もしできないと思うのであればその理由は何か、できるようにするには何をクリアすればいいのかを突き詰めることが、革新的なものづくりの一歩だと考えています」

46年の時をかけてHAPと向き合い、HAPが秘める未知の可能性を追求してきたサンギ。日本で誕生したアパタイトカンパニーは、これまで培ってきた研究開発力を武器に、世界で躍進を続けるだろう。

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