外出先で「密」を回避するディスプレーの正体 BOSCHがPHILIPSをパートナーに選んだワケ
自動で入退場者をカウントし、サイネージで警告表示
政府の提唱する「新しい生活様式」では、密閉・密集・密接の「3密の回避」が盛り込まれている。ソーシャルディスタンス確保のためにも、しばらくは小売店やスーパーマーケットなどの商業施設、映画館といった公共性の高い場所で、「3密を生まない空間」を提供することが求められそうだ。
とはいえ、ソーシャルディスタンスが確保された空間を維持することは、決して簡単ではない。現在のプロスポーツイベントがそうであるように、事前に入場可能な人数を定め、チケットなどを介してカウントする方法がまず考えられるが、入り口や施設内に複数のスタッフを配置する必要があり、どうしてもコストがかさむ。店舗やイベントの内容によっては、専任スタッフの配置が世界観を損ねてしまうおそれもあるだろう。
そんな店舗事業者や商業施設管理者、イベント企画者の悩みをスマートに解決するソリューションが、BOSCHの監視カメラとPHILIPSのデジタルサイネージ用ディスプレーを組み合わせた「People Counting Visualization System」(以下、ピープルカウントソリューション)だ。考案したボッシュセキュリティシステムズ セキュリティ アンド セーフティー ビジネスデベロップメントマネージャー 堀哲朗氏は、その特徴を次のように説明する。
「入場・退場する人の数をインテリジェントカメラでカウントし、あらかじめ設定した数を超えた瞬間にデジタルサイネージで警告表示が出る仕組みです。警告表示のコンテンツは自由に変えられますので、施設やイベントの雰囲気に合わせた内容にできます」
音や過剰な光を使うことなく、入り口付近にいる人へ効果的に「密回避」のメッセージを発することができるわけだ。気になるのがカウントの精度だが、BOSCHは映像解析技術を搭載した監視カメラの開発に早くから注力。たった1台のカメラで、間口20メートルのゲートの入退場者を、98%を超える精度でカウントすることを可能にした実績を持つ。
高精細・高輝度だけでないPHILIPSの魅力
それだけ抜きんでた技術を持つBOSCHが、PHILIPSとのアライアンスを選択した理由は何だろうか。堀氏は3つのポイントを挙げた。
「1つ目は、圧倒的な『視認性の高さ』です。通常、インテリジェント監視カメラの目的は、セキュリティー管理者による映像確認が主ですが、このピープルカウントソリューションは店舗などの施設入り口に設置され、混雑しているか/していないかをお知らせするのがメインの機能。高精細かつ高輝度で、明るい屋内でも高い視認性が確保できるPHILIPS製品であれば、入退人数に基づく混雑状況を視覚的に明示するという要件を十二分に満たしてくれます」
2つ目のポイントは、スタンドアローン使用が可能であることだという。PHILIPSのデジタルサイネージには映像表示が可能なメディアプレーヤーが搭載されているため、たとえ映像まで表示をしようとした場合でも、追加機器を購入する必要がない。BOSCHの監視カメラはインテリジェント機能を搭載しているため、簡単なセットアップが終われば、PC要らずで運用できる。
そして3つ目のポイントは、オープンイノベーションを目指すドイツのインダストリー4.0を牽引するBOSCHならではのものだった。
「Android OSを搭載しているというのが最大の決め手となりました。オープンプラットフォームとして展開できますので、将来的に異なるニーズが出てきても柔軟に対応できます。拡張性と汎用性の高いソリューションを組めるというのが、非常に大きいですね」(堀氏)
この拡張性の高さに関しては、PHILIPSも強くこだわっている部分だ。PHILIPSのデジタルサイネージ用ディスプレー販売を手がけるMMD Singapore 日本事務所営業マネージャーの宮坂覚氏は次のように話す。
「自社だけでソリューションを完成させようとすると限界もありますし、開発コストも時間もかかってしまいます。その点、PHILIPSのデジタルサイネージに搭載しているAndroid OSはオープンリソースなので、どの企業でも自由に対応アプリケーションを開発でき、変化するニーズにも柔軟に対応できます。また、Androidアプリをインストールしてカスタマイズすることも可能です」
例えば、電源のON/OFFなどのさまざまな制御をリモートで可能にするアプリをインストールすることで、 担当者が現場にいなくても、遠隔から表示するコンテンツを変更するなどの制御が可能になるという。(PHILIPSのAndroid OSモデルには、リモートアクセスを可能にするアプリ「TeamViewer」がデフォルトで内蔵されている)
来場者のソーシャルディスタンス確保を促すだけでなく、事業者側の非対面・非接触でのワークスタイルを支える機能を兼ね備えた、ニューノーマル時代に適したデジタルサイネージなのである。
デジタルサイネージ市場がさらに広がる理由
実際、拡張性が高く多機能なPHILIPSサイネージは世界的にも評価されており、 英国調査会社オムディアによれば、2019年は20万795台*1を売り上げている。
「現在はビジネスモデルから4Kの大画面モデルまで幅広いラインナップで展開しています。おかげさまで日本における引き合いも高まっており、19年は国内シェア約4.5%でしたが、20年は上半期で約8.5%となっています*2」
*1・2出典:Public Displays Market Tracker - Country Level, Q2 2020
そう明かす宮坂氏は、今後さらにデジタルサイネージ市場が広がると予見する。
「最近は家庭用テレビの大型化が進み、価格もリーズナブルになってきていますが、同じ流れがビジネスの分野でも起きるとみています。デジタルサイネージといえば看板としての利用が中心でしたが、今回のピープルカウントソリューションのように、単なるインフォメーションメディアの役割から進化した活用が増えていくのではないでしょうか」
具体的には医療や教育、小売りなどでの活用が広がることを見込んでいるという宮坂氏。例えば小売店舗なら、BOSCHとのピープルカウントソリューションを生かしたシフトの最適化など、従業員マネジメントも提案する。
「レジ周りが映るようにBOSCHの監視カメラを設置し、一定以上の人数になったらバックヤードに設置したサイネージにヘルプの表示をするといった使い方もできると考えています」
この宮坂氏の提案に対し、堀氏は次のように補足する。
「そういうニーズは以前からありました。しかし、監視システムとして構築しようとするとかなりのコストがかかる可能性がありますので、リテール企業としては導入しにくかったのです。業種を問わず、そして新型コロナウイルス収束後も、現場の状況を可視化したいというニーズは多いのではないでしょうか」
コロナ後のニーズにも適応する柔軟な拡張性
すでに、BOSCHの代理店はそうしたアフターコロナのニーズを感じ取っているようだ。
「厳しいセキュリティーが求められるミッションクリティカルな業界でも、BOSCHの監視カメラは多く採用されています。そういった施設には、人数制限が定められたハイセキュリティーエリアが多いため、その入り口にピープルカウントソリューションを導入すれば、誤って人数制限を超えて事故につながるようなリスクを防ぐことも可能になると考えています」(堀氏)
高度なセキュリティーが求められる現場だからこそ、スタンドアローンでスリムな設備であることや、遠隔操作できる機能を備えていることが有効となる。インテリジェント機能を搭載した監視カメラと、スタンドアローンのデジタルサイネージという個人情報に抵触しない組み合わせなのも、時代を先取りした優位性を示しているといえそうだ。
「視覚化したいというのは、人間の根源的な欲求の1つだと思います。そして、映像がもたらす情報量は、たとえ一瞬であってもかなりの分量です。新型コロナウイルスは行動様式をガラリと変えましたが、そういった劇的な変化にしっかりと対応できるソリューションのオープンプラットフォームとして機能させていきたいですね」(宮坂氏)
予測不可能な変化が起こり続けるニューノーマルの時代を迎えた今、コロナ対策がそうであるように、社会のニーズを素早く察知した柔軟な対応力が求められている。時間をかけてワンブランドでの解決を目指すよりも、迅速に適切なアライアンスを組むことが重視される時代が到来したともいえる。欧州のビッグネームであるBOSCHとPHILIPSが手を携えたピープルカウントソリューションはそれを象徴しており、自由な拡張性を持つプラットフォームの存在が今後さらに重要視されることは間違いないのではないだろうか。