オンライン時代の機会損失を招く「重大な罠」

入山章栄氏「コロナ禍で人脈力の格差が拡大」

入山章栄
早稲田大学ビジネススクール教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 19年から現職。近著に経営理論の解説書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)

新型コロナウイルスの感染拡大以降、ウェブ会議やオンライン商談が主流となり「画面越しのやり取りになじめない」「人脈を広げられない」と感じている人も少なくないだろう。しかし、そこで立ち止まってはリスクが増すばかりだ。早稲田大学ビジネススクール(大学院経営管理研究科)教授の入山章栄氏は「コミュニケーションはオンラインがベースの時代となった」と指摘する。その認識が不足する企業は、今後生き残れなくなるおそれがあると警告する。

人脈構築に対応できる人とできない人に二極化

コロナ禍で一気に普及したウェブ会議で「ミーティングの質が明らかに変わった」と入山氏は指摘する。

「コロナ前は、とりあえず会議室に集まり、雑談を交えて長時間かける定例会議を惰性的に行うこともあったと思います。ここでは、『実際に顔を合わせる』というフィジカルな価値と、ブレストや意思決定といったミーティング本来の価値が混同されていました。ところがオンライン会議では、フィジカルな価値がない分、事前にだらだら続けないよう目的を定めることが求められるようになりました」(以下、コメントはすべて入山氏)

このようにミーティングが効率化した状況を生かせる人と、生かせない人との格差が生まれているのだという。

「『コロナでコミュニケーションが不足して困っている』とか『オンラインでの人脈構築は社会の課題だ』という経営者の相談をよく受けます。ですが、それは個人のリテラシーの問題。実際にはオンラインでのコミュニケーションをうまく活用できる人とそうでない人に二極化していて、前者はむしろ人脈を広げています」

オンラインのコミュニケーション術とは何か。もちろん、ウェブ会議システムやSNSの操作を覚えるだけでは足りない。

「オンライン時代の大きな特徴は2つあります。1つは、個々の人脈構築能力および人脈を生かす能力の差が、オンライン化によって浮き彫りになったこと。もう1つは、ビジネスパーソンや企業に対する評価が『あからさま』となってきたことです」

1つ目は、ビジネスの諸課題を解決するのに欠かせない能力だ。キーパーソンにつながるには、自分の持っている人脈をどのように生かしてコンタクトを取ればよいか、いち早く察知、コントロールする優位性は言うまでもない。そこで従来は、他の社員をフィジカルな商談に同行させるなどして、属人化を防ぐため組織内で人脈の共有を図ってきた。裏を返すと、オンラインシフトした今、何らかの方法で共有・可視化しなければ、ビジネスが止まってしまうおそれもある。それだけ人脈は組織の資産として活用されてきたのだ。

もう1つの特徴も、オンラインシフトが進まず、フィジカルな関係性のみに依存している企業にとっては耳が痛い。入山氏はこんな例を挙げた。

「BtoBの新規営業が難しくなったという話もよく聞きますが、九州で非常に伸びているベンチャー企業である一平ホールディングスの代表取締役社長・村岡浩司氏は『むしろコロナ禍になってから新規開拓がやりやすくなった』と話していました。フィジカルだと階層別の商談をクリアしなければならなかったのが、短時間でたくさんの人とオンラインで話せる時代なので、キーパーソンとつながりやすいのだそうです」

これは、商談相手の選別がシビアになったことも意味する。肩書や役職ではなく、「この人とつながり続けたい」と思わせる人間的魅力がなければ、ビジネスの土俵に立つことすらできないのだ。

「そこにいる存在感や“雰囲気”だけでアピールするビジネスパーソンがいますが、オンライン時代には通用しなくなるでしょう。これまで以上に言語化して人に伝える能力が必要です」

個の重要性が高まり「大転職・大副業時代」が到来

思いや主張をわかりやすく表現できる「形式知」が、ビジネスパーソンの基本スキルとなる「個の時代」へ。入山氏は、コロナ禍がその流れを加速させたという。

「テレワークをきっかけに会社へのエンゲージメントが落ちて、副業や転職の動きは活発化しています。2021年以降、『大転職・大副業時代』がやってくるのはほぼ間違いないと考えています」

人生を人質にしていたともいわれる終身雇用制はすでに崩壊しているが、オンライン時代の到来によって、人材の流動化が劇的に進むというわけだ。

そうなると企業にとって問題となるのが、人脈資産の枯渇化である。今まで企業を軸に築き上げてきた人脈資産が個人に属すれば、企業はビジネスネットワークから孤立しかねない。裏を返せば、組織内で保有している人脈情報やそれにひも付くさまざま情報を社内で共有することができれば、人脈を組織の資産として活用できるということだ。人脈資産を組織として共有、活用し、人材の流動性に対応していくにはどうすればよいのか。

「組織のあり方は変わらざるをえません。変革のカギを握るのはビジョンやパーパス(存在意義)、バリューです。その企業が何を大切にしているのか、何を目指すのか、そしてそこで働くと何ができるのかを形式知として明確にすることが重要です。それらに共感する人材が集まる会社でなければ、今後は生き残れないのではないでしょうか」

これは中小零細企業を指しているのかと思いきや、入山氏は大企業の危うさを警告する。

「近年大企業を見ていると、会社のビジョンに共感できず、上から押し付けられた仕事を無目的にこなし、意思決定にも携わっていない人材が目立ちます。昔は大企業に勤めているだけでエリートとされてきましたが、スタートアップで活躍し、1日に何度も意思決定の場に携わっているような人材と比べると、明らかなクオリティーの差が見られます」

タグ検索可能な人脈資産で、新たなビジネスを創出

では、オンライン時代に活躍する人材には何が求められるのか。入山氏は「イントラパーソナル・ダイバーシティ」が重要だという。

「日本語にすると『個人内多様性』で、タグを増やしていくということです。例えば私なら、大学教授以外にラジオパーソナリティーやテレビのコメンテーター、社外取締役もやっていますので、それぞれのタグ付けができます」

営業部に籍がある人材でも、DXやプログラミング、動画などに詳しいことがわかれば関連プロジェクトで声がかかることもあるだろう。そうしたタグベースの検索ができる人脈資産は、業界の垣根が低く、社会のニーズが複雑・多様化している今、新たなビジネス創出に有用なリソースであることは間違いない。そして、入山氏が主張している「弱いつながりの強さ理論」※1や「ストラクチャル・ホール理論」※2が示すように、タグ経由でつながりを増やすことでさらなるネットワークの広がりも期待できる。

「コロナ収束後、フィジカルなコミュニケーションは復活するでしょう。しかし、効率的かつ迅速なやり取りを可能とするウェブ会議は今後もなくなりません。むしろ、オンラインはコミュニケーションのベースとして欠かせないものとなるのではないでしょうか」

オンラインの人脈資産を社内で共有・可視化することがスタンダードとなる――。そんな入山氏の指摘の一方で、コロナ禍のオンラインシフトに伴う対面の名刺交換が減少したことにより、これまでなら活用できた顧客データも薄くなってしまうという。Sansan社の調べでは、これによる平均経済損失額は年間約21.5億円(100名規模の企業が対象)にものぼると推計した。さらに、人脈資産の蓄積・管理・活用になじめず、この危機的状況を理解していない経営者が約5割を占めるとの結果も出ている。

 

そうした危機を乗り越え、予測不可能な変化に随時対応しなければならないニューノーマルの時代を生き抜くには、オンラインやオフラインに関わらず、あらゆる顧客との接点をシームレスに人脈資産として有効に共有・可視化する「ハイブリッド顧客基盤」を構築することが重要となるのではないか。

Sansan社の「法人向けクラウド名刺管理サービス」なら、社員が交換した名刺を登録するとクラウド上でデータ化され、部署や部門を超えて社内で共有できる。それだけでなく、企業との接触履歴とひも付けた記録や営業管理ツール上の情報と統合、整理することでまさにシームレスな人脈資産の蓄積、共有、活用が可能だ。

こうしたサービスがなぜ必要とされるのか。このリンク先から無料ダウンロードできる「コロナ禍に失われゆく企業の『顧客データ』の実態」からも見てとることができるだろう。

※1「弱いつながりの強さ理論」とは、緩いネットワークのほうが情報の流れがスムーズであり、遠くまで伸びるというもの。高効率で多様な経験を持つ人とのつながりや情報取得ができることを意味する。

※2「ストラクチャル・ホール理論」とは、2つのネットワークのハブにいる人が最も給料が高く、出世しやすいというもの。情報が必ずハブを通過するためで、ハブの位置に立つためにはつねに多様なネットワークに関わっていなければならない。

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