「自動運転」実現を支える、仮想シナリオとは? 数億回のシミュレーションが支える安全性

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車載ソフトウェアの開発・検証ソリューションの世界的なリーディングカンパニーであるdSPACE。とくに自動車メーカーが手がける自動運転技術開発のパートナーとして、市場投入までの期間の短縮やコストの最適化を図る包括的な検証ソリューションの提供に強みを持つ。そんな同社の最新の取り組みと自動運転の現状や将来について、dSPACEドイツ本社CEOのマーティン・ゲッツェラー氏とdSPACE Japan代表取締役社長の宮野隆氏に話を伺った。

日々進化しているといわれる自動運転技術。この自動車業界の一大イノベーションを成功させるには、自動運転技術のほかに電動化、コネクティッド(注1、そして安全であるという条件を同時にクリアする必要がある。ただ、それこそが現在の開発を困難にしているとドイツ本社CEOであるマーティン・ゲッツェラー氏は語る。

dSPACE ドイツ本社
CEO
マーティン・ゲッツェラー氏

「自動運転については今、システム全体の複雑さを管理可能なものにすることが非常に重要な課題となっています。その課題を解決するためには、ハードウェアとソフトウェアのコンポーネントで構成された堅牢なアーキテクチャーが必要です。すべての開発ステップは、個々のコンポーネントとシステム全体の両方を検証できるよう相互に調整され、継続的なプロセスに統合されていなければならないのです」

dSPACEでは、そうした課題を解決するために、2018年から約2年をかけて徹底的な努力を行ってきた。実際、チーム強化や優秀なエンジニアを約400人採用したほか、データアノテーション(注2)の自動化エンジンに特化したスタートアップ企業であるunderstand.aiやフランスのソフトウェア会社Intemporaなどを買収することで、データやAI、クラウド、さらにレーダー技術などの専門分野を洗練させ、データロギングやデータエンリッチメント(注3)からのデータ再生、シナリオ生成、シミュレーションまでを一気通貫。いわば、AD(自動運転)開発プロセス全体をカバーするオープンで一貫性のある高性能なソリューションを提供できるようリソースを大幅に増強したのである。

「今日では、自動運転やコネクティビティーなどのユースケースやテストケースに対する膨大な需要があります。ソフトウェアシミュレーションのための新しいプラットフォーム、生産性の飛躍的な向上、また統合された使いやすいツールやソリューションが必要とされており、これからも新たなニーズに迅速に応えていきたいと考えています」

dSPACE Japan
代表取締役社長
宮野隆氏

同社の取り組みはそれだけではない。ゲッツェラー氏は次のように述べる。

「さらに私たちはe-モビリティーの実現のために自動車だけでなく、エコシステムの構築にも力を入れています。エネルギー生成からバッテリー管理、電気モーター、充電に至るまで、エンド・ツー・エンドでお客様の要件をカバーするために、現在はパワーエレクトロニクスと充電インフラのためのソリューションにも焦点を当てています。今後はインフラや情報システム、サービスやメンテナンスにも視野を広げたビジネスを展開する方針です」

こうしたビジネスの再編と進化を基に同社では「New dSPACE」になるべく、新たなビジョンを立ち上げた。それが「The Technology Leader in Simulation and Validation(注4)」だ。

「私たちはデータドリブン型のシミュレーションおよび検証ソリューションに加え、ソフトウェアコーディング、テスト自動化、データ管理の専門知識の充実を図っていますが、いずれにしてもソフトウェアは、dSPACEのコアコンピテンシーです。これからもお客様のパートナーとして、シミュレーションおよびバリデーション戦略の定義から実行まで、すべての開発プロセスの問題解決に取り組み、世界各国でプレゼンス、専門知識、エンジニアリング能力を拡大し、パートナーと密接に連携していきたいと考えています」

その意味で、同社では日本を非常に重要な市場であると捉えているという。

「日本の自動車市場の規模は非常に大きく、またe-モビリティー、ハイブリッド、燃料電池、その他多くのエレクトロニクス分野のトピックなどイノベーションの先駆者としての伝統的な役割があります。私たちは約30年前にdSPACEを設立、直後に日本に進出しました。15年前からは現地法人を設立し日本との関係を強化してきました。これからも日本のお客様と、シミュレーションと検証の長期的かつ信頼できるパートナーとして活動していきたいと考えています」

ただ、世界では新型コロナウイルスが蔓延し、困難な状況を迎えている。それが自動運転実現のロードマップに影響する心配はないのだろうか。ゲッツェラー氏はこう語る。

「確かに今年の自動車の世界市場は約20~25%減少するとみられています。この状況はもちろん研究開発への投資にも影響を与えます。しかし、ソフトウェア技術とセンサー技術をベースにした安全運転支援機能と快適運転支援機能はいち早く進化しており、電動化分野の開発ペースも早い。中国市場では受注状況が好転する兆しを見せています。バッテリー管理システムのテストソリューションでは引き続き、多くの問い合わせを受けています」

では、コロナ禍で一時的な影響はあるものの、これからの自動運転技術の進展をどのように考えればいいのだろうか。

「自動運転は個人の移動手段、サービス指向のモビリティーコンセプト、商用車部門のいずれにおいても世界的な革命をもたらします。そこで重要なのが、どのようなユースケースでビジネスケースを提示できるか、また、そのタイムラインはどれくらいの期間がかかるのかということです。私の認識では、多くの自動車メーカーでコロナ禍の影響において一部遅れがあるとはいえ、ロボットタクシーや乗用車の分野では開発が着実に進められていると見ています。とくに商用車部門への応用は経済的にも魅力的であり、建設現場やそのほかの限られた場所での自動運転車の使用などが挙げられます。それを実現させるためにも、自動運転レベル3~4、さらには潜在的にはレベル5のシステムを実現するためにも検証とホモロゲーション(承認)が必要不可欠となっているのです」

そのためにdSPACEでは、“Software-In-the-Loop シミュレーション”を最大限に活かすべく、データ収集、データセンターでのストレージ、データアノテーション、シミュレーション、および再シミュレーションシステムのためのツール「AUTERA」を提供。更に収集したデータのアノテーション、特徴抽出、選択からシミュレーションシナリオを仮想化し、シナリオベースのテストを利用して、実際の走行状況を様々なバリエーションで繰り返しシミュレーションすることで、広いテスト対象となるソフトウェアの検証範囲を広げることを実現させてきた。その実績をもとに宮野氏が自動運転の将来をこう語る。

「2025年には自動運転は確実に実現すると考えています。特に日本では、トラクターなど農機具分野の自動運転技術の開発において、高いレベルを実現しています。世界的に見れば、中国メーカーが台頭してくる中で、日本の自動車メーカーも競合だけではなく、協調して対応すべき時期に来ていると考えています。これからもdSPACE Japanのチームは自動車メーカーの長期的なパートナーとしての役割を果たしていきたい。ドイツの開発チームと日本の専門家チームが協力してオーダーメイドのソリューションを提供し、日本のお客様のイノベーション実現に貢献していきたいと考えています」

*「自動運転の未来」をより詳しく知る

(注1)通信によって自動車と外とがつながる(接続する)こと
(注2)機械学習のモデルに学習するための教師データ(正解データ、ラベル)を作成すること
(注3)計測したデータをより有用なものにするために、データの特長を抽出、数値化、分類などを行うこと
(注4)信頼されるイノベーションリーダーとして、より安全、クリーンで快適なモビリティ社会の実現に貢献するという意味

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