日本中を震撼させた「未解決事件」真相に迫る 希代のヒットメーカーが挑む社会派作品

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第7回山田風太郎賞を受賞した塩田武士氏の同名ベストセラー小説を映画化した『罪の声』が10月30日から公開されている。戦後史でも類を見ない未解決事件をモチーフにした本作品では、日本エンターテインメント界を牽引する「小栗旬」と「星野源」が映画初共演。事件から35年の時を経て、新聞記者と事件関係者として出会った2人が、日本中を震撼させながらも時効となった大事件を追う。人々の機微に触れ、戸惑いながらもたどり着いた“真相”とは――。

「きょうとへむかって、いちごうせんを……にきろ、ばーすーてーいー、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら」

物語冒頭に響く子どもの声。古びたカセットテープに吹き込まれたこの「子どもの声」を発見したことから、ストーリーが展開していく。

今から36年前、日本中を震撼させたある事件の犯人グループが、身代金の受け渡しの際、子どもの声で出した指示と同じ内容だ。

おおむね40代以上の読者なら、実際の事件の記憶が鮮明に残っていることだろう。日本有数の製菓メーカー社長の誘拐に始まり、標的とする企業を次々と変えながら、毒物混入や脅迫を繰り返した凶悪事件。現実社会を舞台に、警察やマスコミに挑戦状を次々と送りつける大胆不敵な振る舞いで国民全体が観客となった、「劇場型犯罪」という言葉を定着させた、あの「キツネ目の男」の事件だ。

当時、警察はもちろんのこと、日本中が犯人像の推理に躍起になったが、新聞に“犯人逮捕”の文字が躍ることはなかった。そして、2000年に時効を迎えた。

これまでもフィクション・ノンフィクションを問わず、この事件の真相に迫ろうとした作品は多い。真相に迫るという意味においては『罪の声』も同様だが、「子どもの声」の謎に重点を置いている点で他の作品とは一線を画す。

この声の持ち主は誰?

子どもたちは事件後、どのような人生を歩んだのか?

子どもたちをめぐるドラマを主軸に、事件の真相と犯人像に迫るストーリーは、フィクションながら“本当にそうだったのかもしれない”という錯覚に陥りそうになる。

あの歴史的大事件に使われていたのは「俺の声――」

舞台は平成から令和へと変わろうとしている日本。

大日新聞大阪本社の記者・阿久津英士(小栗旬)は、すでに時効となった昭和の未解決事件を追う特別企画班のメンバーに選ばれ、日本の戦後史に残る劇場型犯罪を担当することに。

社会部を離れ、文化部に所属する阿久津は当初、乗り気ではなかった。だが、取材を重ねるうちに心境に変化が生まれる……。

一方、京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)はある日、父の遺品から古いカセットテープを見つける。何の気なしに聞いてみると、幼い頃の自分の声、そして、身に覚えのない異様なセリフが。

それが、あの未解決事件で使われた録音テープの子どもの声と同じであるということに気づくまでに時間はかからなかった……。

新聞記者と事件関係者。それぞれの立場で事件を掘り起こし、やがて導かれるように出会うと、互いの情報で点と点をつないでいく。曽根を含め、事件に関わった子どもは3人。阿久津と曽根は、3人のその後の人生をたどりながら、やがて予想だにしなかった真実へと近づいていく。

元新聞記者の原作、「小栗旬」「星野源」が好演

原作は、第7回山田風太郎賞を受賞した塩田武士氏の同名小説。元新聞記者の塩田氏が綿密な取材を基に、練り上げたストーリーだからこその圧倒的な説得力。企業名や団体名などは架空のものが用いられているが、事件が起こった状況やマスコミに送られた挑戦状、警察と犯人との攻防戦などは、かなりの部分で現実の事件とリンクする。

「一説には事件には3人の子どもが関わっているとされるが、私は最年少の未就学児と同世代で、しかも同じ関西に育った可能性が極めて高い。どこかですれ違っているかもしれない……そう思った瞬間、全身に鳥肌が立ち、どうしてもこの子どもたちの物語を書きたくなった」(塩田氏)

着想から15年、完成した小説が発表されると版元には映画化のオファーが殺到したという。

監督は、『いま、会いにゆきます』『涙そうそう』『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』『ビリギャル』など、数々のヒット作を世に送り出してきた土井裕泰氏。そして脚本は、「逃げるは恥だが役に立つ」「重版出来!」などで土井氏とタッグを組み、「アンナチュラル」「MIU404」も手がけた野木亜紀子氏が担当している。

事件自体が複雑なうえ、主人公の2人はもちろん、曽根の家族、事件に利用された子どもたちの物語も描いていかなければ伝えたいメッセージが届かない。限られた尺の中で、事件の全体像をカバーしつつも、登場人物それぞれを見事に描き切っているあたり、さすがだと言わざるをえない。

映画初共演となる主演の小栗旬と星野源をはじめ、豪華キャストの演技にも注目だ。

小栗が演じた阿久津は、派手な感情表現がない分、主役として難しかったはずだ。だが、抑えた演技の中にもしっかりと阿久津の信念や人としての魅力を感じさせる。星野は、自分の声を脅迫テープに使われた曽根という男の逡巡、恐怖、真実から逃げない強さを静かに熱演。

松重豊や宇崎竜童、梶芽衣子といった脇を固める実力派の俳優陣もまた、本作を語るうえで欠かせない。

本格的なミステリーであり、重厚な社会派作品でもある本作。そして、そこには見るものを引きつけるヒューマンドラマがある。この秋注目の1本であることは間違いないだろう。

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