ゼロベース思考が業績悪化を軽減する理由 競争に勝ち続ける企業の経営管理アプローチ

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新型コロナウイルスの影響が深刻化する中、企業の間では、データの力を活用してゼロベース思考(ZBx)でコストを見直そうという、新たな経営管理が注目されている。オンラインセミナー「ゼロベース思考(ZBx)の経営管理 Power of Dataが可能にする新たなコスト管理・経営管理の手法」には、2020年7月末に出版された『The Big Zero(ザ・ビッグ・ゼロ)成長、イノベーション、競争優位をもたらすゼロベースのアプローチ』(クリス・ティマーマンスほか著、東洋経済新報社刊)を監修したアクセンチュアの太田陽介氏らが登壇。ゼロベースで企業のコストを設計し、予算管理を成長戦略につなげる企業変革について解説した。

主催:東洋経済新報社
協賛:アクセンチュア

【Keynote1】
ゼロベース思考(ZBx)概論
〜価値あるコストを見極め、様々なリソースをイノベーティブな成長に再投資するゼロベースのアプローチとは

アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
サプライチェーン&オペレーションプラクティス
日本統括 マネジング・ディレクター
太田 陽介氏

経営環境が激しく変化する中で、積極的に変革を成し遂げて競争に勝ち続ける企業と、そうでない企業の差は、どこから生まれるのか。アクセンチュアの太田陽介氏は「描いた戦略の実行に経営資源をシフトするための経営管理オペレーション力の差が大きい」と語る。

従来型の前年対比マイナス何%といった大ざっぱなコスト削減目標では、なかなか成果が上がらない。そこで提案するのが、ゼロベースでの予算管理を導入し、データに基づいて本当に必要なコストを見極め、リソースの再配分まで行うことのできる仕組みの構築だ。

ゼロベースの予算管理アプローチは、まずコストを単価×数量に分解して「誰が、何に、どんな目的で使っているか」を見える化することから始まる。次にデータに基づいて、単価と数量の2つの観点から、余剰コストを洗い出し、より賢い使い方を検討して、コスト削減施策を立てる。太田氏は「日本企業はサプライヤーとの単価交渉は進んでいるが、よりインパクトの大きい、数量面におけるマネジメントが欧米企業に比べて弱い」と述べ、単価と数量の両面からアプローチすることが重要だと指摘する。

施策リストがそろったら、部署、用途、単価、数量などについて細分化されたデータを積み上げ、コストを予算計上する。これで削減効果が見通せるようになり、戦略的投資予算の議論もできる。実績管理も、単価と数量をモニタリングしてループを回す。

ゼロベースアプローチに必要な高速データ処理基盤には、多くの企業がすでに備えるERP(統合業務システム)を活用できる。勘定科目のカテゴリをコストマネジメント用に見直しする必要はあるが、「多くの企業において、すでに持っているデータやシステムを最大限活用すれば十分可能」とハード面のハードルは低いとする。

先進的な企業で実装が進むゼロベースアプローチのノウハウは、予算管理のほか販管費や人件費、サプライチェーン、マーケティングの個別領域でも確立されている。太田氏は「難易度や必要性を踏まえて個別領域にも適用し、ゼロベース思考を体得すべき」と語った。

【Keynote2】
Power of Dataを最大化する ZBx実践論
〜先行きの見通しが効かないこれからの経営を支える経営管理(Zero Based Business Management)

アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部 Enterprise Valueマネジメント プラクティス
日本統括 マネジング・ディレクター
山路 篤氏

市場の先行きを見通せないVUCA(不安定、不確実、複雑、あいまい)の時代。従来の月次業績報告に基づく経営管理では時間がかかりすぎる。業績見通しも、多くの階層を経由して上がってくる間に、責任者の“意気込み”が混入し、経営者は客観的な成り行きの見通しを把握できず、対策は後手に回る。

アクセンチュアの山路篤氏は「これまで日本企業で行われていた経営管理では、これからの時代に追随していくことは難しい」と言い切る。その中で、ゼロベースの経営管理を取り入れた先進的な企業は市場の激しい環境変化に強い体質を実現。コロナ禍でも「業績悪化をかなり軽減できている」と話す。

予算と業績予測の間のギャップを埋める対策を立て、実績を確認しながらサイクルを回すゼロベース経営管理は、テクノロジーの進化とともに精度を高めてきた。AI(人工知能)が社内外のデータを解析し、導き出した需要予測から、損益やキャッシュフローを見通す自動フォーキャストを作成。これに基づくことで、現場の主観を排した迅速な予測が可能になる。

業種やビジネスモデルごとの需要予測法が開発され、個別受注型企業でも、引き合いや具体化段階の案件の受注確率から需要を予測できる。「変化を機敏に捉えられるようになったことで、目標達成のために手を打つゼロベース経営管理も可能になった」と語る。

導入に当たっては、システム構築やデータ整備をしてから新たな管理手法に転換するという一般的なやり方ではなく、「収集可能なデータと既存のツールを使って、先に経営管理のプロセスをゼロベースに変更する」ことを推奨する。

システム構築までに時間がかかり成果の創出が遅れることと、机上で定義した要件が実際の運用に合わずに手戻りが発生することを防ぐためだ。ゼロベース経営管理を導入した企業も、パイロットを進めながらシステムを構築して効果を先取りすることに成功しているとして「いち早く取り組んでいただきたい」と訴えた。

【ディスカッション+ライブQ&A】
日本企業がゼロベースのアプローチを導入・継続的な実践を実現するためのポイント

最後に、アクセンチュアに寄せられるゼロベース経営管理に関する疑問や、オンラインセミナー視聴者からの質問に、太田・山路両氏が答えた。

ゼロベース経営管理を導入すべき理由として、Keynoteスピーチで言及した、事業変革に必要な経営資源の捻出に加え、「ゼロベース思考が『自分の考え方に重なる』と話す名経営者は多い」ことから、経営者の交代の際に、ゼロベースアプローチで経営手法を仕組み化して引き継げる可能性も指摘した。

また、ゼロベース経営管理は、連続的M&Aを行っているファンドが、データを活用した経営管理手法として発展させてきた経緯があるとして「グローバルなエリア進出や企業合併による拡大を目指す企業にとっても有効だろう」と述べた。

ゼロベースアプローチの推進は、経営者が改革の必要性を説いて旗を振り、経営企画やCFO部門を中心として他部門からのメンバーを加えた社内横断的チームがプロジェクトを担うのが一般的だ。とくに重要なのは、取り組みのベースとなるデータのマネジメント。「都合の悪いデータは感情的に反発され、社内に軋轢が生じることもある」として、データを公正、客観的に扱える専門チームを設けることを勧めた。一方でAIやデジタルを活用できる人材の確保が難しい場合には、「アクセンチュアの提供する『タレント・ディスカバリー・プログラム』を通じて、お客様の従業員を対象に、デジタル時代に適応したスキルを持つ人材への転換、および育成を支援することも可能である」と語った。

具体的な進め方については、3カ月程度をかけて社内に散在するデータを整備、見える化しながら、ゼロベース経営管理の必要性について社内の合意を得ていく。予算外のコストは、経営管理部門の承認を求めることが原則だが、権限の過度な集中は、事業の機動性を損なうおそれもある。そこで実際の運用では、単価と数量について一定の幅を持たせて設定した閾値を逸脱した場合にのみ、承認を求めるルールにする。

また、コスト削減は、社員のモチベーションや、取引先との関係に副作用を及ぼすこともあるため、選択の幅を持って検討を進め、短期的成果の追求を避けるなど、柔軟な取り組みの必要性を強調した。

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