コロナが世界に問う、SDGsの重要性(後編) 加速する地方へのシフト、人材獲得のカギとは

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本企画では、エプソン販売・PaperLabの協力のもと国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、どのようにSDGsを意識して企業活動をするべきか、その実例やレポート、価値ある提言などを紹介する「SDGs Lab」Webマガジンを月2回発刊します。

地球に住む一員として、限りある天然資源を守り、社会課題を解決し、誰一人置き去りにすることなく、持続的に成長していくこと。それは、公的な機関および民間企業、そして一個人に課せられた使命であり、互いの責任ある行動、消費、協調が欠かせません。

「SDGs経営」「自治体SDGs」を推進し、企業と地方公共団体の活動に変革を起こしていくために必要なことは何なのか。有識者からの提言、変革者の「実践知」をお届けし、皆様の企業活動を変革する一助となれば幸いです。第26回の今回は前回に引き続き、一橋大学 名誉教授/経営学者の石倉洋子先生に、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)が、改めて世界に突きつけたSDGsの重要性、加速する地方へのシフトや、人材獲得のカギについて、SDGsの観点からお話を伺いました。
一橋大学
名誉教授/経営学者
石倉 洋子氏

――前編では、企業がSDGsを経営戦略に取り入れることの利点についてお聞きしました。他のメリットとして、採用戦略にも有利であることも挙げられると思いますが、先生の見方はいかがですか。

石倉 それはありますね。実は国際比較の調査によると、日本の若い人を全体で見ると、海外の若い人に比べて、社会的課題に強い関心を持っている人がそれほど多いとは言えません。ただ、大学生になると知識や情報も増えて、関心を持つ人が増えていることがわかっています。

アクションを起こすのは難しくても、少なくとも「何とかしなくてはいけない」という問題意識を、多くの大学生が持っているということです。そのため就職活動で企業を選ぶ際も、単に給与や、充実した手当だけで企業を選ぶのではなく、「私がやる仕事は社会や世界にとって意義があるのか」ということを重視する傾向にあります。つまり、SDGsに何一つ取り組んでいない企業が、積極的に選ばれることはないでしょう。

企業はそれを踏まえて、自社が取り組んでいる事業について、対外的にきちんと説明できるようにしたほうがいいですね。社員が日々取り組む業務と、企業が進んでいる方向性、そしてそれが世界に与える影響。この3つをつなげて示すことができるかどうか。それは極めて重要です。

今後、新型コロナウイルス(新型コロナ)の影響で就職活動がどのように変化していくかは、不透明な部分もありますが、大きなトレンドとしては、このように企業のありようをきちんと説明できる企業の人気が高まっていくと考えています。

――新型コロナの対応でリモートワークも浸透しつつあります。SDGsにも影響があるでしょうか。

石倉 必ずしもオフィスに出勤する必要はなくなったので、地方に移住する人が増えて地方創生におけるSDGsが進む可能性はあるでしょう。ただ、地方で働くには、Wi-Fi環境などインフラ面でまだ脆弱なところがあるように思います。インフラ整備については、自治体や政府などの公的機関が果たすべき役割が大きい。本当の地方創生につながるかどうかは行政がどれだけ本腰を入れるかにもかかっているのではないでしょうか。

中には「インフラが整っても、仕事はやはり対面がいい」という人がいるかもしれません。確かに、フェーストゥフェースにはセレンディピティが起きやすいといったメリットはあると思います。しかし、フェーストゥフェースじゃないと仕事が進まないというのもまた、極端な思い込みではないでしょうか。私は新型コロナの影響でセミナーやワークショップをオンライン化しましたが、むしろオフラインより面白いことが起きましたよ。

例えば、セミナーに関して言うと、質問や発言の量が圧倒的に増えました。ヒエラルキーがある会社でセミナーをすると、たとえ質問があっても、下の人が上の人に遠慮して何も言わないということが往々にして起きるのですね。しかし、オンラインだと、その関係性がフラットになって、チャットでどんどん質問や発言が流れてくる。これは新たな発見でした。

具体論に落とし込んで自分事にする

――先生が定期的に開催している「SINCAセミナー」(注)でも、SDGsをテーマに取り上げていますね。参加者の反応はいかがでしたか。

石倉 SDGsは網羅的かつ抽象的です。それ故、すべての人をカバーしているというメリットもある一方、つかみどころがなく、「確かにそのとおりだね」で終わってしまうおそれがあります。

社会的課題を本当に解決するには、抽象的なところを突き詰めていくことで、具体的に自分事化しないといけません。セミナーではそれを意識して、参加者それぞれに自分に関係がありそうなテーマを選んでもらい、何をどうするのかという具体論にまで落とし込んでもらいました。

企業のアッパー層からミドル層の方まで、多くの方にご参加いただきましたが、「私たちがやろうとしていたのは、こういうことだったのか」という気づきを得た人が多かったようです。

また、SDGsのもう一つの難しさは、トレードオフが起きることです。企業の限られたリソースで網羅的なテーマに取り組むと、「あれをやると、これができなくなる」という事態に陥りやすいのです。何かを切り捨てなくてはいけない感覚に陥るのですね。このことも、やはり自分事として考えないと実感できません。セミナーは、それを考えるいい機会になったと思います。

企業の中でも、ぜひ皆さんが、自分たちで考えて行動する場をつくっていただけるとよいと思います。学校教育で「具体的に落とし込んで考える」「考えたことをアクションにつなげる」と教えていくのが理想ですが、教育制度の問題にすると長期戦になってしまう。企業が、社員が自分で考えて行動する機会を増やすことは、今すぐにもできることで、とても大切なことです。

(注)SINCA – Sharing Innovative & Creative Action。石倉氏が主宰する、世界の課題を英語で議論する「実験の場」

――組織内でSDGsのアクションを起こしたいと思った人は、どうやって周りを巻き込んでいけばいいでしょうか。

石倉 「こんなことをやりたい」と漠然と伝えるだけでは、人はなかなか動いてくれません。全体像を見せるだけでなく、できるだけ細かいタスクに分けて、ブレークダウンし、「これをやりたい。だからあなたには、この部分をやってほしい」と働きかけるとよいでしょう。

具体的な方法については、現場からアイデアを募るのもいいと思います。もともと具体的なアイデアを出すのは、現場のほうが得意なはずです。また、自分事にしたほうがいいのも同じです。アイデアを出した人は、当事者意識を持って積極的に取り組んでくれるのではないでしょうか。

SDGs Labは今回をもちまして、一旦終了となります。
長らく、ご愛読いただきまして誠に有難うございました。
また別の機会でお目にかかれることを楽しみにしております。

【Column】
石倉先生がSDGsの文脈で注目している製品の一つが、使用済みの紙から再生紙を作る「PaperLab」です。
「日本は、例えばオンラインかオフラインかといったように、極端な二元論が幅を利かせがちです。紙に関しても同じことが言えます。すぐに、ペーパーレスか紙かと考えてしまう。環境のためには、全体としてペーパーレスの方向に行くことはもちろん間違いありませんが、紙には紙の良さがあり、すべてがスクリーンに置き換えられるわけではない。そこで第三の選択肢になるのが再生紙です。再生紙を活用すれば、紙でなければいけない場面に対応しつつ、紙の量も削減できるでしょう」
通常、製紙には大量の水を必要とします。
【水の消費量】
通常の紙を作るのに、木の生育段階も含めて7610m3(注1)の水を消費します。これは25mプール(注2)で換算すると21杯分以上。一方、PaperLab A-8000が使用する水はわずか70m3(注3)、通常の製紙に比べて1%弱の水しか消費しません。(注4)
しかし、こちらの製品は、機械で衝撃を与えることで使用済みの紙を繊維にまでほぐして、水をほとんど使わずに紙の再生を実現することができます。
「『PaperLab』は、水をほとんど使わずに、社内で再生紙をつくれるのが魅力ですね。水はとても貴重な資源ですから。ただ、サイズが大きいので私の事務所には置けないことだけが残念です。リモートワークでオフィススペースに余裕ができた企業は、導入を検討してもいいかもしれませんね」
新しい働き方のオフィスにもマッチする「PaperLab導入事例についてもっと知る」​
(注1)P.R.VAN OEL & A.Y. HOEKSTRA(2010)
(注2)25mプール:長さ25m×6レーン(レーン幅2m)×深さ1.2mの場合、360m3
(注3)東京都市大学 環境学部 伊坪研究室算出(2018)
(注4)「PaperLab」は機器内の湿度を保つために少量の水を使用します