コロナが世界に問う、SDGsの重要性(前編) 危機だからこそ考えたい企業のあり方

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本企画では、エプソン販売・PaperLabの協力のもと国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、どのようにSDGsを意識して企業活動をするべきか、その実例やレポート、価値ある提言などを紹介する「SDGs Lab」Webマガジンを月2回発刊します。

地球に住む一員として、限りある天然資源を守り、社会課題を解決し、誰一人置き去りにすることなく、持続的に成長していくこと。それは、公的な機関および民間企業、そして一個人に課せられた使命であり、互いの責任ある行動、消費、協調が欠かせません。

「SDGs経営」「自治体SDGs」を推進し、企業と地方公共団体の活動に変革を起こしていくために必要なことは何なのか。有識者からの提言、変革者の「実践知」をお届けし、皆様の企業活動を変革する一助となれば幸いです。第25回の今回は、一橋大学 名誉教授/経営学者の石倉洋子先生に、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)が、改めて世界に突きつけたSDGsの重要性、危機だからこそ考えたい企業のあり方やアフターコロナの世界のありようについてお話を伺いました。
一橋大学
名誉教授/経営学者
石倉 洋子氏

―SDGsを経営戦略や事業戦略に採り入れる企業が増えてきました。この動きをどのように見ていますか。

石倉 SDGsは、MDGs(ミレニアム開発目標)が開発途上国を主な対象としていたこと、また目標が一部達成できなかったことなどを踏まえて生まれました。その特徴はMDGsに比べて網羅的であり、社会的課題をかなりの広範囲でカバーしているということ。そのために誰もが、どこかのゴールに関わってきます。誰もが関係するということは、世界や社会における共通のコミュニケーションツールになり得るということ。これはとてもいいことだと思います。

SDGsが、誰もが社会的課題と無関係ではないと打ち出した意味は大きい。かつては「社会的課題を解決するのは政府の役割だ」という考え方が世の中では支配的だったように思います。しかし近年、企業もその役割を担い、むしろ積極的にリードすべきではないかという考え方も広がってきた。そうしたタイミングでSDGsが決議されて、企業が社会的課題にコミットしていく流れがより強くなったのです。

―これまで企業の社会貢献としてメセナ(文化・芸術活動の支援)やCSR(企業の社会的責任)が注目されたことがありました。SDGsは、それ以上の盛り上がりを見せています。

石倉 これだけ注目されるようになったのは2018年あたりからでしょうね。今やどの企業も経営戦略のどこかにSDGsというワードを入れているほどです。世界経済フォーラムの方と話したときも、「日本では、なぜこれほどSDGsが盛り上がっているのか」と驚いていましたよ。

きっかけはESG(環境=Environment、社会=Social、ガバナンス=Governance)投資でしょう。投資家がESG投資を重視するようになり、ESGに関して何かやっていないとお金を集めにくい状況になりました。資金を調達できなければ企業活動は継続できません。それでこれまで関心が薄かった企業にまでSDGsが浸透したという背景はあるでしょうね。

SDGsが達成すべき目標ならば、そこに到達するプロセスを測定するのがESGともいえます。ただ、企業によってESGでフォーカスするところは異なりますし、プロセスを定量的に測定する方法が確立されていないなどの課題も残っています。しかし、企業がESG投資のためにSDGsへの貢献に、より力を入れるという流れはここ2年くらい、とりわけ昨年からはっきりしてきました。

→紙から紙を再生。環境負荷を減らすPaperLabとは?

アフターコロナも、世界は元には戻らない

―新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)で戦略の見直しを迫られている企業が続出しています。企業のSDGsの取り組みにおいても何か影響を受けるでしょうか。

石倉 新型コロナに関して言うと、先ほど指摘した政府と民間の役割のバランスが変わりました。ビフォーコロナでは、社会的課題の解決について、企業がリードしつつありましたが、新型コロナが引き起こした問題はあまりにも大きすぎて、さすがに企業のリソースでは対処しきれない。世界においては、再び政府の役割が強くなってきたように感じます。

一方、企業は短期と中長期で2つの課題を突きつけられていると感じています。短期的なこととしては、まず生き残って社員を守ること。中長期では、アフターコロナの世界は、今とはまったく違う世界になることを踏まえて、自社はどこを目指すのか、社会に対してどのような役割を担うのかを問い直すことです。

新型コロナの感染が拡大した直後は、いずれ元の世界に戻れるし、戻りたいと考えている経営者が少なくありませんでした。しかし、それは無理です。そして無理なことがはっきりとしてきた。もはや、まったく違う世界が開かれたのだから、これまでの延長線上ではないあり方を考えていくべきときにあります。

もともと企業は、新型コロナが来なくても変化を必要としていました。例えばデータの活用、企業の活動全体を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ活用、働き方改革などが挙げられます。

ただ、現状の企業活動がなんとか回っていたので、それらに本気で取り組まない企業も多かった。それがコロナで浮き彫りになり、今までのあり方を変えなかった企業も変化せざるをえなくなりました。

SDGsへの取り組みも同様です。SDGsはサステイナブルな社会と世界をつくることが大きな目標であり、仮にパンデミックが起きても社会を存続させることは、もともと私たちが考えるべきことの1つだったはずなのです。

ところがコロナで、その準備ができていなかったことがあらわになってしまった。とはいえ、「あの時ああしていればよかった」と振り返っていても仕方がありません。「では、次にどうするのか」と考えればいいのです。

―自社のこれからのあり方を考えるとき、SDGsは1つの指針になるでしょうか。

石倉 なると思います。ただ、実際はこの新型コロナで「SDGsをファッションのように捉えて掲げていた企業はみんな引いてしまった」という話も出てきました。短期的には、それどころじゃない、生き残らなくてはということに必死だと思うので、理解できる部分もあるのですが、危機だからこそSDGsはそのような危機をどう跳ね返し、回復していくかを考える絶好のきっかけになり得るのです。そう考えるともったいないですね。

今後新型コロナが収束しても、これから続いていく世界は、これまでとまったく違ったものになります。また、近年の気候変動などの問題を考慮すると、パンデミックのみならず、また違う形の危機がこれから何度も世界を襲うでしょう。そうした世界で、ただ恐怖に怯えるのではなく、自分たちは何をすべきなのか。SDGsをヒントにして、今から考えておくことが大事だと思います。

9/29 公開予定 「コロナが世界に問う、SDGsの重要性(後編)」に続く

→水を使わず紙を再生、サステイナブルな社会の実現に貢献する

【Column】
石倉先生がSDGsの文脈で注目している製品の一つが、使用済みの紙から再生紙を作る「PaperLab」です。
「日本は、例えばオンラインかオフラインかといったように、極端な二元論が幅を利かせがちです。紙に関しても同じことが言えます。すぐに、ペーパーレスか紙かと考えてしまう。環境のためには、全体としてペーパーレスの方向に行くことはもちろん間違いありませんが、紙には紙の良さがあり、すべてがスクリーンに置き換えられるわけではない。そこで第三の選択肢になるのが再生紙です。再生紙を活用すれば、紙でなければいけない場面に対応しつつ、紙の量も削減できるでしょう」
通常、製紙には大量の水を必要とします。
【水の消費量】
通常の紙を作るのに、木の生育段階も含めて7610m3(注1)の水を消費します。これは25mプール(注2)で換算すると21杯分以上。一方、PaperLab A-8000が使用する水はわずか70m3(注3)、通常の製紙に比べて1%弱の水しか消費しません。(注4)
しかし、こちらの製品は、機械で衝撃を与えることで使用済みの紙を繊維にまでほぐして、水をほとんど使わずに紙の再生を実現することができます。
「『PaperLab』は、水をほとんど使わずに、社内で再生紙をつくれるのが魅力ですね。水はとても貴重な資源ですから。ただ、サイズが大きいので私の事務所には置けないことだけが残念です。リモートワークでオフィススペースに余裕ができた企業は、導入を検討してもいいかもしれませんね」
新しい働き方のオフィスにもマッチする「PaperLab導入事例についてもっと知る」​
(注1)P.R.VAN OEL & A.Y. HOEKSTRA(2010)
(注2)25mプール:長さ25m×6レーン(レーン幅2m)×深さ1.2mの場合、360m3
(注3)東京都市大学 環境学部 伊坪研究室算出(2018)
(注4)「PaperLab」は機器内の湿度を保つために少量の水を使用します