弁護士語る「ハンコ廃止」「電子契約」の法的解釈 「押印」は、そもそも契約の必要要件ではない

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新型コロナウイルスの感染防止の徹底と在宅勤務による生産性向上のため、押印を廃止して電子契約サービスを導入する企業が急増している。一方で、書面での押印なしでも法的効力があるのか不安視する企業もあるだろう。実際の法的リスクはどうか、そして、電子契約サービスを導入するメリットはどこにあるのか、企業法務を専門とする阿部東京法律事務所の代表弁護士、阿部高明氏に聞いた。

書面の作成も押印も、契約の必要要件ではない

――電子契約サービスには法的効力があるのでしょうか。「押印しないと不安」という声もあるようです。

阿部東京法律事務所 共同代表 弁護士
阿部 高明
慶應義塾大学法学部卒、同大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。企業法務を得意とし、企業からの相談と民事訴訟を多数取り扱う。クレジットカードをはじめとする決済システムが専門

阿部 そもそも「契約」自体は口頭でも成立します。契約に必要なのは「当事者の意思の合致」であり、書面の作成も押印も必要要件ではないのです。ですから、電子契約サービスを活用した契約締結に法的な問題はありません。このことを改めて政府が公式見解として示したのが、6月に内閣府と法務省、経済産業省の連名で発出された「押印についてのQ&A」。ハンコが用いられてきたのは、「本人がその契約書を作成した」合意の証拠としての価値が高いとされてきたから。トラブルを未然に防止するためにハンコを押してきたともいえます。押印は確かに証拠としての強さを持っているものの、契約書に不可欠な要素ではないのです。当然、押印をしない電子契約サービスを活用した契約締結でも法的には有効です。

――「電子署名」と「電子サイン」はどう違うのでしょうか。

阿部 「電子署名」は、2001年に施行された電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)で「本人性と非改ざん性が確認できるもの」と定義されています。これらを担保する手法として長らく主流となってきたのが、「公開鍵暗号方式」。「当事者型」とも呼ばれますが、「認証局」と呼ばれる第三者機関が発行する電子証明書で本人確認を実施したのち、ペアとなっている秘密鍵と公開鍵で契約書を暗号化する方式です。

一方「電子サイン」は法的には定義されていません。近年増えているクラウドサービスを活用した電子契約サービスが、自らをそう呼ぶケースが多いようです。クラウド上でサインすることで契約となるわけですが、事実上は電子契約サービス事業者が代わりにそれを記録する形式のため「立会人型」とも呼ばれます。

法的リスクは低い。コスト・効率を考慮して判断を

――「当事者型」と「立会人型」の使われる比率はいかがでしょうか。

阿部 「当事者型」はほとんど使われていません。「認証局」から電子証明書を発行してもらうのに、時間もコストもそれなりにかかるからです。電子署名法が施行されてから約20年経つのに、電子契約が普及しなかったのはそのためでしょう。一方、クラウドサービスが一般化してから増えている「立会人型」は、違法ではないものの法的に定義されていない状態でした。しかし、コロナ禍で電子契約サービスに注目が集まったこともあって、7月に所管官庁である総務省、法務省、経済産業省が「電子契約サービスに関するQ&A」を発出し、「立会人型」も法的に有効と解釈できる見解を示しています。

電子証明書の発行費用は認証局により差異があるが、1件当たり数千円から1万円程度かかる

――電子契約サービスを活用するメリットは?

阿部 どのくらいの契約をこなしているかにもよります。1日に何十件も契約を締結する場合は、コストや業務効率など幅広いメリットがあるでしょう。具体的には、印紙税や契約書の保存スペースが不要となるほか、契約書類のデータ化でアクセスが容易になり、オフィスへ出勤する必要がなくなります。契約内容の細かい部分をメールのやり取りなどで詰めていくことを考えれば、低コストかつ手軽にできる「立会人型」で十分なケースがほとんどではないかと思います。もちろん、証拠としての強さは「当事者型」のほうが強いので、契約の内容や、相手方との間で紛争が生じる可能性の程度を考えて柔軟に判断することをお勧めします。