「どこにも触らず出社」可能にする驚きの技術 環境変化に柔軟対応するオフィスの「新常態」

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新型コロナウイルスは、収束まで長期化するとの予測が出てきている。「ワクチンや薬ができたとしても、インフルエンザのように共存する可能性もある」と話すのは、中央大学大学院戦略経営研究科教授で医師でもある真野俊樹氏。引き続き感染防止対策が求められるとして、「こまめな手洗い」「マスク着用」「適切な換気」「ソーシャルディスタンスの確保」が重要だとした。そうした現状を踏まえ、「非接触オフィス」というニューノーマルな公共空間の実現を目指す動きが顕在化してきた。最先端テクノロジーを活用する先進的な取り組みについて聞いた。

「人は1時間に23回顔を触る」との研究結果

オフィス内で過ごす場合、マスク着用や換気、ソーシャルディスタンス確保はともかく、こまめに手洗いをするのは現実的ではない。それでいてオフィスにはエレベーターのボタンや照明スイッチなど、不特定多数の「接触ポイント」が多いため、不安を拭えない人もいるだろう。

すでに広く知られているように、「接触感染」は多くのウイルスの感染経路の1つだ。真野氏も、次のように言及する。

「ウイルスはさまざまなシチュエーションで手に付く可能性があります。かなり早期の段階でクラスターが起きた病院では、スマホやタブレットが感染源だったこともありました。オフィスも、エレベーターやエスカレーター、ドアノブ、照明、エアコンのスイッチなどに接触感染のリスクがあります」

真野俊樹氏が挙げるビル内・オフィス内の接触感染リスクポイント

たとえ触っても、手洗いをすれば感染リスクは減らせる。しかし、オフィス内でこまめに手洗いをするのが現実的に難しいのは前述のとおり。一方、厚生労働省がウェブサイト上で注意喚起に用いている豪ニューサウスウェールズ大学の研究結果によれば、人は無意識のうちに1時間で自分の顔を約23回触り、その44%が粘膜に接触しているという。つまり、人は顔をどうしても触らずにいられないのである。

パナソニック ライフソリューションズ マーケティング本部
テクニカルセンター兼空間ソリューション事業推進室
豊澄幸太郎 氏

そこで、「顔を触ってしまうのが避けられないなら、どこにも触らずに済むオフィスを実現すればいい」と“コロンブスの卵”のような発想の転換をしたのがパナソニック ライフソリューションズ社だ。同社のマーケティング本部テクニカルセンター兼空間ソリューション事業推進室 豊澄幸太郎氏は次のように話す。

「真の意味でリスクを最小化するには、システマチックな対応が必要だと考えました。ウイルスは目に見えませんから、どこに付着しているのか、していないのかもわからず、不安を増大させます。そこで生み出した既存の商品やシステムでも対応できないかと考え出したのが、仕組みとして接触機会を低減させる『非接触ソリューション』です」

統合型セキュリティシステムを軸にした非接触ソリューション

この「非接触ソリューション」の特徴は、理論上オフィスビルに入るとドアノブを触ることを除いてまったくどこにも触れることなくオフィスへ出社でき、退社までの勤務時間を過ごすことができる点にある。「共用のエレベーターはどうやって利用するの?」「オフィス内の空調や照明は?」「会議室への出入りは?」といった疑問が次々に浮かぶが、どのようなシステムになっているのだろうか。

「まず、セキュリティゲートはカードもしくは顔認証で通過します。そして、事前に行き先予約をすることで、セキュリティゲートに乗車するエレベーターの号機が表示され、行き先階ボタンを押すことなく登録階まで移動できる仕組みとなっています。照明や空調はセンサで自動制御されるほか、スマホで手動制御も可能です。会議室にも顔認証を活用することで、ハンズフリーでの入退出を実現します」(豊澄氏)

そのオフィスの社員だけでなく、来訪者も同様の恩恵を受けることができる。受付に用意された認証機器で顔写真を登録する方法だけでなく、メールなどでQRコードを配布し、ゲートで読み取れるようにする方法も用意。必然的に受付業務の効率化・無人化も促す。

この画期的なソリューションの核となっているのは統合型セキュリティシステム「eX-SG」だ。登録ID10万人、履歴500万件、ゲート数1200ゲートまで管理できるため、大規模オフィスビルでも対応可能。これに顔認証システムやエレベーターとの連携、および画像センサやかってにスイッチ(微動検知型)、明るさセンサなどを連携し組み合わせることで、「非接触オフィス」を実現。かってにスイッチはAIも活用し、誤作動を低減させている。

「『eX-SG』をこのソリューションの核としている理由の1つは、顔認証と連携したID登録管理が一括でできることにあります。万一感染者が出た場合にも、履歴から濃厚接触者を特定できるだけでなく、その動きをトレースできる可能性もあるのです」(豊澄氏)

これまでは、オフィスビル内で感染者が出た場合、細かい聞き取り調査を行う必要があったが、その手間もなくすことができるというわけだ。豊澄氏によれば、検温との組み合わせや、同社の新技術の屋内位置情報システムを活用して感染者自体の入室をシステム上で制限したり、感染者が出たときの初動をより早くすることができ、精度の高いパーソナルな照明・空調制御の実現も視野に入れているという。

平時も非常時も「人と事業を守る」ために

さらに注目したいのは、このソリューションが感染対策のためだけのものではないということだ。

「弊社はもともと、働き方改革や生産性向上につながる快適なオフィス空間の創出を目指してきました。2020年7月には、広島・中町の弊社ビルで『環境変化に柔軟に対応し続けるアップデート型ワークプレイス』の実証実験を開始し、LPS(Local Positioning System 屋内位置情報システム)を活用して人の位置・動線を可視化しているほか、温度・湿度・CO2、照明・空調・電力などのデータを蓄積しています」(豊澄氏)

「人と事業を守る」をコンセプトのベースに置き、コロナ禍のような非常時だけでなく、平時も活用できることを重視して構築したソリューション。固定費削減を意識せざるをえない状況下で、実に魅力的な提案だといえる。しかも現在、「非接触」だけでなく「密回避」と「空気質」のソリューションを構築しているというから、さらに活用の幅が広がりそうだ。

「密回避は、統合型セキュリティシステム『eX-SG』やカメラ、屋内位置情報システムなどを活用した混雑情報発信を軸とする予定です。屋内位置情報システムのデータを活用し、何人以上に達したらアラートを通知するといったことを検討しています。また、エレベーターホールではカメラや各種センサで混雑度を明らかにします」(豊澄氏)

空気質では「物理的な安全性」と「心理的な安全性」を追求。そして後者は、「空間の可視化」によって訴求していくという。

「『心理的な安心感』というとエビデンス不在のイメージをお持ちになるかもしれませんが、そうではありません。例えば、CO2の数値が一定であれば換気を中心とした空気質コントロールがなされていることの証明の1つになりますし、温度・湿度がある程度の時間一定であれば、こちらも空気質がコントロールされていることを裏付けていることになると考えています。そういったデータをデジタルサイネージに可視化したり、スマホアプリを通じたプッシュ通知での提示を今後検討することで、安心感をご提供したいと思っています」(豊澄氏)

適切な換気がなされ、上質な空気に常時コントロールされている空間。先に紹介した非接触ソリューションも、平時ならば無駄なアクションをとる必要のない、エレベーター待ちも不要な快適オフィスとなる。予測不可能な時代でも変わらない価値である「安心・安全・ホスピタリティ」。そのすべてを満たす空間は、まさに未来のオフィスの新常識となるに違いない。

※出典:Face touching:A frequent habit that has implications for hand hygiene.
Am J Infect Control 2015;43:112-114.

 

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