ラコステのロゴ、いったいなぜ「ワニ」なのか? 「ポロシャツ」誕生秘話から見える3つの理念
とあるテニスプレーヤーが起こしたウェア革命
世界中で親しまれているワニといえば、ポロシャツの左胸にいる「あのワニ」だろう。そう、フランスのプレミアムカジュアルブランド ラコステのロゴだ。では、なぜラコステのロゴがワニなのか、ご存じだろうか。
始まりは1927年のこと。フランス人テニスプレーヤーのルネ・ラコステは、特注のウェアを着てコートに立った。当時のテニスウェアは、長袖のシャツと長いパンツがお約束。動きやすいポロシャツでプレーする姿は革命的だった。吸湿性や通気性に優れた半袖のポロシャツで、胸にはワニのエンブレムが施されていた。ルネ・ラコステが、食いついたら放さない粘り強いプレースタイルで「ワニ」の異名をとっていたことが由来だ。
しかも彼は、4大大会を7度も制するほどの凄腕プレーヤー。機能性とファッション性を融合させた彼のポロシャツは注目を集めた。そして1933年、ルネ・ラコステはブランドを設立し、ポロシャツの販売を始めたのである。ポロシャツ以外にも、発明家・ビジネスマンとしても活躍したルネ・ラコステ。その精神は今も受け継がれていると、ラコステ ジャパン代表取締役社長の李孝氏は話す。
「当社は、設立以来脈々と受け継がれてきた『フェアプレーの大切さ』『洗練されたプレー姿勢』『最後まで成し遂げる精神の強さ』の3点を理念としています。揺るぎない倫理観や高潔さ、他者の尊重といったフェアプレー精神は、ビジネスにも通じるもの。また、激しい試合でも洗練さを追求した彼は『エレガンスさのないプレーや勝利には意味がない』という言葉を残しており、この思いは今も当社の商品に反映されています。さらに、粘り強く最後まで成し遂げる精神の強さは、仕事の結果に対する責任感や、最高最良の製品を追求する姿勢に通じています」
フェアプレー精神が生んだトリビュートコレクション
ルネ・ラコステのプレースタイルそのものである企業理念を守り続けてきたラコステ。このブランドが日本に初上陸したのは、1964年のことだった。スポーツとライフスタイルを融合したブランドの登場が、当時の日本に新鮮な風を吹き込んだことは想像にかたくない。そして今や、誰もが知るライフスタイルブランドとして日本に根付いた。とくにポロシャツは、働き方改革やオフィススタイルのカジュアル化を追い風に、ビジネスシーンにも欠かせないアイテムとなっている。
「ポロシャツの魅力は、あらゆるシーンにマッチすること。ジャケットを羽織ればビジネスユースも可能です。ラコステにとってポロシャツは、ルネ・ラコステの『エレガンスさのないプレーや勝利には意味がない』という言葉を体現している、まさにブランドのDNAともいえる存在です。一切の妥協なく細部にまでこだわっているため、価格だけ見るとお安くはないかもしれません。それでも多くの方に支持されているのは、商品の機能的な価値だけではなく、ブランドの根幹への共鳴をいただいているからこそ。それに見合う価値を提供できるよう、商品はもちろんブランドを磨き続けていきたいですね」(李氏)
ブランドを象徴するワニが口を開けた理由
新しいウェアの創造で幕を開けたラコステの歴史は、革新の歴史でもあった。2019年の秋冬コレクションからはルイーズ・トロッター氏がクリエイティブディレクターに就任。パリファッションウィークにてコレクションを発表しており、同社初のイギリス人女性クリエイティブディレクターだ。
「配偶者が日本人で、本人も大の親日家。彼女のクリエイティビティーやセンスは、当社に新しい風を吹かせています。ラコステはポロシャツというイメージに立脚するブランドですが、その原点は見失わずに革新を続けることが必要。例えば足元から頭までフルシルエットのアイテム提案や、アーティストとのコラボなども行っています」(李氏)
中でも革新的だったのが、昨年秋にオープンした期間限定ポップアップストア「OLD meets NEW」だ。古着と新作を一緒に販売するという異例のコンセプトと、大胆にデフォルメされたロゴのワニが話題を呼んだ。
「普通、ブランドにとってロゴはアンタッチャブルなもの。ワニの口を開けるという挑戦的な発想は、Audacious - 恐れず前へ、という企業としてのバリューがあったからこそ出てきたものでした。こうした活動により、ラコステに共鳴してくださる若い世代が増えるのもうれしいですね。当社は、単なる量的競争は考えていません。大切なのは、最高最良の商品を追求し、ブランドの魅力を高めること。これこそが、日本のような成熟市場で戦ううえで大切だと思います」と、李氏は先を見据える。
87年継承されてきた革新性とエレガンス。一見相反するように見える2つの要素を融合して生まれるラコステのウェアは、ずっと受け継がれていくことだろう。