ESG時代の企業ファイナンス戦略 エネルギーフリー社会を目指すLooop

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再生可能エネルギーを中心としたエネルギーサービス事業者のLooopが意欲的に資金調達している。2020年4月から6月の総額は68.3億円。その皮切りが、三菱UFJ銀行を引受人として発行した総額30億円のグリーンボンドだ。メガバンクがスタートアップ企業の資金調達の支援を行うだけでなく、ESGを重視した案件であることも注目に値する。ESG投資の新たな潮流と言えるだろう。Looop CFOの松本雄一郎氏と、ESG投資、SDGsなどに詳しい、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高まり氏に話を聞いた。

欧米ではESG投資に早期から取り組む

―― ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視した、いわゆるESG投資が注目されつつあります。日本でも、ESG投資に取り組む機関投資家が増えています。お二人はいずれも、金融機関で環境金融などに携わってきた経験をお持ちですね。

吉高氏 私は2000年代前半に、途上国のCO2排出権ビジネスに携わったのをきっかけに、以後、環境金融コンサルティングなどの業務に関わっています。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経営企画部副部長
プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科講師(非常勤)
吉高 まり氏

日本ではESG投資の概念が突然降って湧いたような印象を持つ人もいるかもしれませんが、欧米ではキリスト教による宗教的な背景もあり、1920年代から社会的責任投資の考え方がありました。60年代、公害問題や人権運動が起こり、その後、これらの問題に対する企業の不適切な対応が損害賠償リスクにつながり、「物言う株主」から議決権行使をされるようになりました。90年代、2000年代に入ると、エンロン事件などの経験からガバナンスの観点が加わった企業経営を評価するようになってきました。

ただ、これまでは、企業経営に対するネガティブインパクトの排除という考え方が主流だったのですが、リーマンショック以降、ショートターミズム(短期的思考で企業評価をする)の反省から、財務以外の情報(ESGなどの非財務情報)によって企業の価値が判断されるようになってきました。つまり、長期的視野にたったポジティブインパクトを評価するようになってきています。ESGへの取り組みが企業の価値向上につながるということが認識されつつあります。

松本氏 私はもともと公認会計士で監査法人にいました。そこで感じたのは、クライアントの財務諸表を評価するよりも、自分でビジネスをつくっていく側になりたいということでした。それで、大手監査法人系のM&A会社に移り、その後は邦銀のメガバンクに転職しました。当時は、地球温暖化対策や省エネルギー設備投資に係る利子補給事業などにも携わりました。

Looop
取締役CFO 管理本部 本部長
松本 雄一郎氏

メガバンクを経て、コンサルタントも経験し、それでもビジネスそのものに関わりたいという思いは変わりませんでした。そのため、経営コンサルタント会社に転職したときに、当社の中村(創一郎社長)に出会ったのです。過去の経験からCFOになりたいとも思っていたのですが、さらに「社会を変えたい」という中村の高い目標を聞いて一緒にやりたいと感じました。入社後早い段階で、30億円ものグリーンボンド発行を実現することができて、うれしく思っています。

日本の機関投資家もESG投資に関心

―― スタートアップが総額30億円ものグリーンボンドを起債、しかも引受人が、メガバンクである三菱UFJ銀行というのはなかなか例がないのではないでしょうか。

吉高氏 数年前であれば、考えられなかったでしょう。

グリーンボンドとは、資金調達のための手法の一つで、調達した資金の使途がグリーン、つまり環境に配慮した事業に限られている債券のことです。例えば、再生可能エネルギー、省エネビルや水の浄化施設の建設などが含まれます。国際資本市場協会(ICMA)ではグリーンボンド原則を策定しており、これに適合しているかどうかを外部機関が審査します。グリーンボンドの市場は急拡大しており、2019年には発行額が2580億ドルにも達し、2018年の1710億ドルから1.5倍増えています。2020年9月現在では1300億ドルで、コロナ禍でも増加しています。

松本氏 当社が発行したグリーンボンドで調達した資金は、自社太陽光発電所の開発および新たな発電所の取得に活用します。まさに、再生可能エネルギーの開発など、環境改善効果のある事業に限定した社債というグリーンボンドの性格に合致したものです。格付についても、グリーンボンド原則が定める資金使途・プロジェクトの評価と選定プロセス・調達資金の管理・レポーティング・発行体の環境活動の第三者認証も取得し、最上位の「GA1」の評価を受けています。

―― メガバンクがグリーンボンドに積極的に投資するほど、ESG投資に関して、日本の機関投資家の関心も高まっているということだと思います。理由はどこにあるのでしょうか。

吉高氏 大きなきっかけとなったのは、2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、ESGの視点を投資決定のプロセスに組み入れることを提唱した国連の「責任投資原則(PRI)」に署名したことでした。PRIは2018年に、運用資産残高の50%超に適用するESG投資ポリシーを制定することを、署名機関の最低履行要件の1つとして導入しています。

機関投資家にとっては、通常の債券投資と比べ、グリーンボンドに投資するのはより高いプレミアムがつくわけではない場合もあり追加的な手間もかかります。それにもかかわらず投資するのは、自社がしっかりとした考えをもって、ESG投資をしているとアピールできるためです。

松本氏 今回は三菱UFJ銀行を引受人とするグリーンボンドを発行したのですが、私が銀行にいたころとかなり意識が変わっていると感じました。当時なら、太陽光発電所の開発と言っただけでノーと言われていたでしょう。しかし、今回は、太陽光発電というビジネスについて、いかにキャッシュフローが堅実か、さらにリスクとのバランスについてもしっかりと取れているということを説明したところ、きちんと聞いていただけましたし、納得してもらえました。

吉高氏 そこはとても大事なところですね。私は今、慶應義塾大学の大学院で環境ビジネスデザイン論を教えているのですが、まさにその視点が不可欠だと思っています。というのは、依然として「環境に配慮したビジネスです。社会に貢献できます。」というだけで、キャッシュフロー計算書も、損益計算書も作らないような方が少なくないのです。それだけではなかなか投資家は投資の判断ができません。もう一つ、どうしても日本の企業は環境で儲けるものではない、と考える傾向があります。環境に貢献して儲けていいじゃないですか。そうでないと持続可能な事業になりません。

「エネルギーフリー社会」の実現に向けて

―― Looopでは2020年6月、ENEOS、NECキャピタルソリューション、双日(CVC経由)、日本グリーン電力開発ら合計6社に対する、28.3億円の第三者割当増資を実施しています。グリーンボンドや他の資金調達と合わせると68.3億となり、国内のスタートアップ企業の中でもトップクラスの資金調達額ですが、なぜ調達を続けているのでしょうか。また、調達した資金はどのように活用する計画ですか。

松本氏 一口で言えば、「再生可能エネルギーの可能性を信じ、エネルギーフリー社会を実現する」という当社のビジョンを実現するためには、資金面も含めて、外部の方々の力をお借りすることが不可欠だからです。

「エネルギーフリー社会」とは、エネルギーが完全に無料で自由に使えるようになる社会です。再生可能エネルギーは、化石燃料由来のエネルギーなどと違って燃料費がかかりません。また、枯渇の心配もありません。ですから、再生可能エネルギーの最大普及が実現されれば、エネルギーをめぐる争いが無くなり、移動や輸送のコストがフリーになることで地方や高齢者を取り巻く社会課題の解決が見えてきます。様々な制約から解放され、人間の知恵や情熱、フィロソフィが無限大に広がっていく。それが当社のビジョンです。

再生可能エネルギーの普及のためにはパネルを設置していくことが必要で、当社では工場や倉庫などを対象とした法人向け自家消費事業や、個人宅向けの太陽光0円設置サービスである「未来発電」、住宅用ソーラーパネルのリースで導入の初期費用を下げるスマートライフ事業などサービスを拡充させています。しかし当社の力だけでは、家庭の屋根や工場の屋根には設置できても、例えばガソリンスタンドにはまだ設置できていません。それであればENEOSさんとの提携でさらに新しいことができるのではないか。さらにガソリンスタンドをドローンの中継基地にしてそこで充電するといった実証実験もできるでしょう。

浦和美園プロジェクトの概要

また、当社は発電事業のみにとどまらず、2016年より電力小売事業「Looopでんき」を展開しています。現在全国で22万件を超えるお客様に低圧電力を供給しています。発電から小売までを展開する当社は、需給両面の精緻な予測に基づくエネルギーマネジメントにも強みを持っています。そんな当社だからこそできる次世代事業として、コミュニティ全体のエネルギー循環を設計・管理する事業にも着手し、さいたま市浦和美園地区で行われているスマートシティさいたまモデル構築事業に参画しています。ここでの狙いは、エネルギー・モビリティ・情報のシェアリングによる“究極”の脱炭素循環型コミュニティづくりを目指すことで、当社はこの事業における自立分散省エネ/配電網地中化コンソーシアムの代表を務めています。このさいたま市での知見を新たな事業として展開していく構想も持っており、今後も、さまざまな方々と連携し多様な取り組みを進めていくために、今回調達した資金を活用したいと考えています。

吉高氏 欧米では環境ビジネスを主たる事業とするスタートアップがいくつもあって、さらに上場したりしています。ところが日本にはそのような企業は多くありません。日本からも環境で大きくなる企業が出てほしいですね。そうでないと若い人たちが希望を持てる社会になりません。そういう点では御社に期待しています。

松本氏 ありがとうございます。ファイナンス、テクノロジー、人材、いろいろなものをつないで、それを実現していきたいと願っています。

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