ノーベル賞教授「コロナ99.9%不活化」の衝撃

医療現場も驚く「深紫外線LED」のすごさ

現在も、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。しかし、それを乗り越えるための技術も続々と登場している。「深紫外線LED」もその1つ。医療機器メーカー・日機装が宮崎大学医学部と以前行った実験では、深紫外線LEDの光を30秒照射することで99.9%の新型コロナウイルスが不活化するという結果だったが、最新の研究では1秒で約90%、10秒照射で99.9%の不活化効果も確認しているという。はたして、対コロナの有力な切り札になるのか。以前から深紫外線LEDの基礎研究に取り組んでいた、ノーベル物理学賞受賞者・名古屋大学教授の天野浩氏と、製品化に取り組む日機装の代表取締役社長・甲斐敏彦氏が、深紫外線LEDの可能性について語り合った。

ノーベル物理学賞受賞学者が次に狙った”見えない光”

―まず基礎から教えてください。「深紫外線」とは、どのような光でしょうか。

名古屋大学未来材料・システム研究所
未来エレクトロニクス集積研究センター
センター長 教授
天野 浩

天野 400ナノメートル以下の波長の光を紫外線と呼び、その中でも300ナノメートル以下の短い波長の光を深紫外線といいます。深紫外線を照射することで、タンパク質に含まれるDNAのらせん構造が破壊されて、ウイルスや細菌を不活化する――、つまり増殖を防ぐ効果があります。

甲斐 そうした深紫外線の効果は、以前から知られていましたよね。

天野 はい。昔は深紫外線を光らせるのに、真空管ランプに少しだけ水銀を入れたものが使われていました。これも不活化の効果はありましたが、しかし水銀ランプはもろくて壊れやすく、さらに寿命が短い。これをLEDに代えようと研究を始めました。

甲斐 天野先生は、2014年のノーベル物理学賞受賞前に、すでに青色LEDの実用化に成功していました。その次の挑戦が深紫外線領域だったというわけですね。

天野 深紫外線領域は技術的な難易度が高いので、まずは紫外線の検出から始め、その後発光に取り組みました。ただ、それを具体的に何に使うかまでは見えておらず……。そしてお声がけいただいたのが日機装さんでした。

日機装
代表取締役社長
甲斐敏彦

甲斐 当社はもともとポンプ事業から始まり、そこから派生して産業用機器や医療機器、航空機部品などを手がけています。次の世代のビジネスは、産学連携して基礎研究の部分からしっかり携わりたいと考えていました。

その中で、大きな可能性を感じたのが深紫外線LEDでした。当社のメディカル部門の主力は、血液透析事業です。透析は血液を体外に取り出して、有害物質を取り除いたうえで体内に戻す治療法ですが、深紫外線LEDの話を聞いて、血液の分析に使えるのではと感じました。さらに水の殺菌など応用範囲は広いはずだと考え、ぜひ一緒にやらせていただきたいと天野先生に打診して、2006年から共同研究をスタートさせました。

異分野知識の融合で、深紫外線LEDの性能を向上

天野 当初つくっていた結晶は、1センチメートル角の小さなものでした。しかし商品で使うなら、基盤となる大きな結晶をつくり、それを裁断して同等性能のものを大量につくる必要があります。ただ単に大きくすればいいわけではなく、均質につくる必要があるんですが、これがとても難しい。化学の知識だけでは足りません。

この壁を乗り越える力になってくれたのが、日機装さんから来ていただいた2人の優秀な若手研究員です。製造装置の開発や流体の知識など、化学以外の知識を豊富に持っている2人に入ってもらえたことが、成功の一因でした。

甲斐 広い視野でものを考えられるよう、あえて若く、頭の柔らかい若手を送り込みました。

天野 しかしそれでも、開発は一筋縄ではいきませんでした。光の波長が短くなれば、出力が低くなります。その限界を超えて出力を上げるところにも大変な苦労がありました。

甲斐 そして2015年、量産化技術が確立されたものとしては当時世界最高出力となる50ミリワットの光出力と、1万時間超の製品寿命を持つ深紫外線LEDの開発に成功しました。これで製品化にグッと近づきました。

コロナ禍で大きな注目を集めるウイルス不活化の力

―最初の製品化は、どのような分野だったんでしょうか。

天野 まずは水の殺菌でした。水の場合、流路が決まっていれば、そこに深紫外線を照射すればいいのでそれほど難しくありません。

一方、空気は殺菌する範囲が空間全体に広がるので、まず菌を一カ所に集めてそこで紫外線を照射する必要があり、一気に難易度が上がります。すぐに空気の殺菌に取り組まれたと聞いて驚きました。

甲斐 当社のメディカル部門から、医療機関内での感染を防ぐため、すぐに空気の殺菌に取りかかるべきだという声が上がったんです。それをきっかけに、開発を本格化させました。

天野 私たちが手がけたのは深紫外線LEDまで。製品化に当たって最も苦労されたのはどの点でしたか。前述のとおり、空気の殺菌は本当に難しいので、まして部屋全体を殺菌するとはなかなか考えつきませんでした。

甲斐 空気中に散乱する菌に光を当てて、不活化する構造にすることでした。ただ単に光を当てても距離や強さが不足します。また紫外線は人体に直接当たると目や肌を痛めるので、菌を捕捉して、光が漏れないように照射する構造にたどり着くまでが大変でした。紫外線は材料を傷めるので、材料の選定も含め多くの課題がありました。

天野 製品を発表されたのが2020年1月でしたね。

甲斐 もともと、顧客として医療機関や介護施設を想定していたところ、新型コロナウイルスの感染拡大により問い合わせが殺到しました。エビデンス確立のために宮崎大学医学部と実験を行い、深紫外線LEDを10秒照射したところ、減少率は99.9%でした。今の製品は8畳サイズの小型のものなので、年内にも20畳用の空間除菌装置を生産開始する予定です。今後は、例えば空調設備向けの除菌消臭装置を開発し、大手住宅メーカーと提携して住宅用の空調システムに搭載するなど、もっと幅広く展開していくつもりです。さらに住宅だけでなく、飛行機や電車などの交通インフラにも提供していきたいと考えています。

天野 規格が非常に厳しい航空機部品を作っておられる日機装さんならではの品質です。信頼性は抜群ですね。

甲斐 ありがとうございます。注目を集めている深紫外線LEDですが、新型コロナウイルス対策以外にも、ウイルスや細菌の不活化が求められる場面はたくさんあります。皆さんが安全かつ安心して暮らせるように、これからも開発を続けていきます。

臨床現場から大きな信頼が寄せられる「深紫外線LED」


杏林大学医学部呼吸器内科学 教授
石井晴之先生
今年2月以降、国内でいち早く新型コロナウイルス感染患者の処置対応に当たってきました。深紫外線LEDには、臨床現場から今大きな期待が寄せられています。

用途としては、まずはマスクの消毒です。マスクをリユースする体制を整えることで、感染防護に備えてきました。そしてもう1つ、空気感染の防止対策としても活用しています。「換気」「マスク着用」といった施策はもちろんずっと行っていますが、病院の診察室は窓がないことが多く換気しにくいですし、防護服を都度取り替えるのもコスト面で厳しい。現状、医療従事者を守るものはマスクと手洗いだけです。緊急時には食事も水も取れませんし、マスクの着脱すらできない状況。そんな中で深紫外線LEDを使うことには、大きな意義があります。今は新型コロナウイルス感染の第2波というべき感染拡大が起きており、物品の確保や院内感染の防止策をアップデートしています。深紫外線LEDを活用することで、より安心して医療現場に立つことができます。

今後のことを考えると、まずはワクチンと治療薬の確立が第一です。また感染流行の予測を立てることも重要。予測を基に、いかに具体的かつ有効な対策を立てるかが注目されるでしょう。その中で有力な対応策の1つとなりうるのが、深紫外線LED。公共交通機関や多くの人が集まる所など、あらゆる場所で深紫外線LEDの効果が期待されます。感染防止策として、深紫外線LEDが日常生活にまで浸透していくことを期待しています。

深紫外線LEDによる新型コロナウイルスの不活化を実証


宮崎大学医学部医学科 教授
藤元昭一先生
宮崎大学と日機装が行った最新の共同実験では、深紫外線LEDの光を新型コロナウイルスに1秒照射すると約90%、10秒で99.9%のウイルスを不活化できることが判明しました。ウイルス不活化の効果は予測していたものの、これほど短い照射時間で不活化させられるとは驚きました。

宮崎大学と日機装は、2016年に包括的共同研究連携協定を締結。その後、宮崎大学医学部内に共同研究講座を設け、医療環境に関する研究を進めてきた中で今年、新型コロナウイルスが大きな社会課題として浮上しました。そこで、コロナ対策を進める上で、この研究には大きな社会的意義があると考え、この実証実験を行うことにしました。

日機装がすでに深紫外線LEDを搭載した製品を持っていたこと、当大学が新型コロナウイルスを入手していたことから、スムーズに実験を行うことができました。両者が蓄積していたノウハウや知見、連携をベースに、世界に先駆けての研究が実現したというわけです。実験結果をまとめ、今年5月末にようやく発表するに至りました。

発表後は、日機装の空間除菌消臭装置に対する問い合わせが急増しまして、2020年内に、年産10万台体制を整える予定だと聞いています。短い照射時間でもウイルスを不活化できることが大きな強み。医療施設はもちろん、介護施設や学校、保育施設など、さまざまな場所で活用され、社会貢献の一助となることを願っています。
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