サブスク「失敗企業」「成功企業」の決定的な差

「やればやるほど金を食う」のはなぜなのか?

近年、急速に広がりつつあるサブスクリプション(以下、サブスク)のビジネスモデル。しかし、「何となく、はやっているから」で導入すると痛い目に遭う。サブスクリプション総合研究所の主席研究員、藤原大豊氏に、サブスクを採用する際の注意点について聞いた。

サブスクビジネス自体は昔からあり珍しくない

―なぜ近年、サブスクが注目を集めているのでしょうか。

サブスクビジネスは、実は昔からありました。例えば新聞や保険、電気・ガス・水道などはすべてサブスクといえます。昨今の普及の背景には、ITの発達があります。デジタルタッチポイントが浸透し、契約状況や行動履歴を含めた大量の顧客情報の管理が可能になって、申し込みから決済までがWebで完結できるようになりました。このころに始まったのが、コンテンツやソフトウェアのサブスクです。またIoTの登場以前は、メーカーは流通を介してモノを売り切っていました。そのため、保守や消耗品の利用といった限られたタッチポイントしか持ちませんでしたが、IoTの発達でモノをタッチポイントとして顧客と直接つながり、さまざまなサービスを届けられるようになりました。

これらの技術は、従来のサブスクでは難しかった分野にまで可能性を広げています。それに気づいた企業がサブスクを始めているんです。

―サブスクは主に、どのような業界で普及していますか。

サブスクリプション総合研究所
取締役 兼 主席研究員
藤原 大豊

まずは書籍、動画、音楽などのコンテンツやソフトウェアといった無形財がおなじみですね。有形財でも重機、計測機器、自動車、エアコン、パソコンなど多種多様です。最近は洋服、食品、生花など、ネットにつながらないモノのサブスクも広がっています。

―逆に、サブスクが向かない業界はありますか。

今や、サブスクに向かないビジネスはありません。機械や設備といった設置工事が必要なモノを単体でサブスクするのは少し難易度が高いかもしれませんが、そこに付帯するサービスをサブスクにすることで、新たな価値を生み出すことは比較的容易です。具体的には保守や消耗品だけでなく、IoTによる利用状況の可視化や、SNSのコミュニティー形成などが考えられます。

―サブスクは月額定額制のイメージがあります。従量課金もサブスクと呼んでいいのでしょうか。

私たちはサブスクを「顧客との継続的な関係が担保されているビジネス」と定義しています。金額の多寡や課金のタイミング、定額か従量かは関係ありません。サブスクの成功事例に定額制のケースが多いためか、そのイメージに引っ張られている方が多いですが、従量課金も立派なサブスクです。

サブスク導入で、長期的な収益を見通せるようになる

―サブスク導入は、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

1人の顧客の生涯からいくらの売り上げや利益を得られるのかを示す「LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)」という指標があります。サブスクではLTVが見通しやすくなるんです。

例えば、原価100円の弁当を300円で売るとします。売り切りだと粗利200円で、月に20個売れれば4000円ですが、そもそも20個売れるかどうかは確定できません。一方、月に6000円で20日毎日1個ずつ提供するサブスクなら、1回の契約で4000円の粗利が確定します。1日200円の売り切りと、20日間で4000円のサブスク。後者は売れ残るリスクを回避できるのはもちろんのこと、顧客獲得に費用を大きく使えますので、手数料施策やノベルティー、値引き、ポイント還元などの選択肢が広がり、企業にとっても顧客にとってもメリットがあります。

他方、前者は費用をかけるほど企業が未回収リスクを負うことになります。例は20日間としましたが、「顧客との継続的な関係の担保」が長期になればなるほど大きな粗利が見通せて、安心して投資できるのが企業にとっては魅力です。これをサブスク会計では「予測可能性が高い」と表現します。

―サブスクだと収益見通しに見合った投資をするので赤字になりにくく、キャッシュリッチな経営がしやすいということですか。

売り上げの回収時期と頻度、顧客獲得活動の内容や規模によるため一概にはいえませんが、既存顧客からの売り上げ規模が一定の水準を超えてこないと、新規顧客獲得に伴う支出の増加によって、一時的に累積赤字が膨らみ資金繰りが苦しくなることがあります。とくにビジネスの拡大期は注意が必要です。

―なぜ資金繰りが悪化するのですか。

例えば、粗利が月額4000円で12カ月契約のサブスクを提供するに際し、新規顧客獲得時に1件につき2万4000円を支出するとします。このとき、1件獲得につき4万8000円の粗利と2万4000円の営業利益が確定します。しかし、回収期間が6カ月ですからこの間の損益は赤字となり、キャッシュはマイナスです。さらに、利益最大化を目指して同じ条件での新規顧客獲得を毎月繰り返していくと回収期間は延びていき、毎月の新規顧客獲得数を増やすと支出額が大きくなるので赤字が膨らみます。これは、既存顧客からの粗利が新規顧客獲得の支出を上回るまで続きます。

つまり長期で大きな収益を見通せるようになったことによって、長期回収を前提とした大きな顧客獲得投資も可能になったものの、それゆえ回収期間を終えるまでの資金需要も肥大化したというわけです。これを理解していないと、資金繰りの悪化と累積赤字の一時的な肥大化に驚いて、せっかくビジネスが成長しているのに黒字化する前に慌てて撤退することになりかねません。

―ほかに、サブスク導入で注意すべき点があれば教えてください。

サブスクの定義、会計、そして指標を理解することです。理解せずに「何となく、はやっているから」で始めるのは危険です。サブスクは「顧客との継続的な関係を担保するビジネス」。継続的な関係が前提にあるからこそ、LTVを見通せます。一方で、ビジネスの拡大期に累積赤字が増大し、資金繰りが苦しくなることがあるのは先に述べたとおりです。ただ、これらを踏まえてサブスクを導入しても次はビジネスの状況を評価し判断する必要があり、そのためにはLTVのほかにもCAC、ユニットエコノミクス、ARR、チャーンなど、サブスク特有の指標への理解が不可欠です。今後、サブスク導入を検討されている皆さんには、これらを理解することで成功確率を上げていただきたいです。

サブスク「失敗する企業」がハマる落とし穴

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