需給逼迫のアルコール商品をスピード開発 「品薄商品」の安定供給を実現できる理由

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新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の暮らしにさまざまな変化をもたらした。除菌意識の高まりもその1つだろう。結果、洗浄や除菌のためのアルコール商品を利用する回数が増え、肌荒れという新たな課題も発生した。こうした中、化粧品を扱う企業が得意分野である“保湿”を重視したアルコール商品を開発。発売直後から注目を集め、アルコール商品を使った洗浄回数が多い人たちから支持される「PROION(プロイオン)」シリーズの開発秘話に迫る。

トイレットペーパーやマスク、食料品……。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大で、さまざまな噂やデマが広がり、必要以上の買い占めや買いだめが横行した。洗浄や除菌のためのアルコール商品などは、店頭から消えた時期もあったほどだ。

そんな中、異例のスピードで、アルコール洗浄・除菌製品の商品化に成功した企業がある。香水や化粧品の開発・販売などを手がけるメイクアップだ。同社が展開する「PROION」シリーズは、その品質と信頼性の高さから需要が拡大しているという。

同社代表取締役の伊藤治氏は次のように語る。

「ドラッグストアなどの店頭からアルコール商品が消えて騒然となっていた3月末、社内の備品として置いてあったハンドミストを手に取り、たまたま成分表示を見たんです。すると、当社の香水と成分が似ている。これは何とかわれわれでアルコール商品を作って、世の中に流通させなければならないという使命感に駆られたのが開発のきっかけです」

同社は1991年の設立以降、海外ブランドの香水や化粧品の輸入販売のほか、有名アーティストとのコラボレーション商品や、プライベートブランドの香水や化粧品、ヘアケア製品の開発・販売などを展開している。

洗浄や除菌のためのアルコール商品は専門外だったが、市場に出回っている洗浄や除菌のためのアルコール商品について調べてみると、やはり同社の主力商品の香水と主成分が似ているということがわかった。

こだわりの「アルコール濃度70%」の理由

この時、商品の需要の高まりに合わせて、原材料や容器の価格などが高騰し始めていた。そこで同社は、香水や化粧品などの取引で築いてきたネットワークを駆使し、世界中のOEMに連絡。そのうちの1社が、アルコールを大量に保有し、製造ラインも持っていたため、製造にこぎ着けることができた。しかも、OEMから最初のロットが納品されたのは4月下旬だという。

「実は当時、OEMの代表が、出張で日本に来ている間に渡航禁止になり、大阪に足止めされていました。われわれの本社があるのも大阪。これまでの実績に対する信頼もありますが、トップ同士で頻繁にミーティングして、トップダウンで進められたことが、迅速な商品化につながったと考えています」(伊藤氏)

商品化が急ピッチで進められた一方、伊藤氏が重視したのがアルコール濃度だ。厚生労働省によると、手や指などのウイルス対策には、濃度が60%台でも一定の有効性があるとされるが、推奨するのは70%以上95%以下だ。そのため同社は70%以上を目指して商品開発に着手した。

同社では、海外工場で品質をチェックしたうえで、徹底した品質管理を行っている。加えて、第三者検査機関によるエビデンスまで用意した。

「アルコール濃度60%未満と60%以上の間には大きな壁が存在するため、いろいろと解決すべき課題も発生するのですが、当社の場合、これまでの取引先との関係で、何とか乗り越えてくることができました」(同)

化粧品のプロとして少しでも肌荒れを防ぐ商品を

もう1点、同社がこだわったのが肌への影響だ。

「開発段階でアルコール商品の使用頻度が高い方々に話を聞いたところ、肌が荒れて困っているという意見が多く寄せられました。そのため、アルコール濃度70%を維持しながら、肌荒れを防げるよう、ヒアルロン酸Naやアロエベラ葉エキスなどの保湿成分を入れ、ベストな配合を探りました。化粧品を扱う企業としては、非常にこだわった部分です」(同)

コロナ禍で流通したアルコール商品には、販売後に濃度不足が発覚し、回収騒ぎに発展するケースもあっただけに、品質へのこだわりとエビデンスを備えた「PROION」シリーズに対する期待は大きい。実際、ドラッグストアはもちろんのこと、アルコール商品を使った洗浄回数が多く、肌荒れを気にする人たちからの引き合いも強いという。

同社は、災害大国である日本ならではの課題にも取り組んでいる。

「新型コロナが収束していない状況下においては、集団感染が起きやすい避難所で利用するアルコール商品の備蓄が従来以上に重要になってくるはずです。当社では、『BOSAI SPACE FULFILLMENT PROJECT』に、イノベーションパートナーとして参画するなど、『PROION』シリーズの災害利用に向けた施策にも目を向けています」(同)

※JAXA(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)とワンテーブルが、「防災×宇宙」の視点から新たな事業創出や社会課題解決に取り組むプロジェクト

全国の緊急事態宣言が解除されたとはいえ、第2波、第3波の到来が予想される今、品質の高いアルコール商品の登場は、消費者にとって心強いことだろう。しかも、「PROION」シリーズは今秋、高級化粧品に使用される成分を追加するなど、さらなるグレードアップを予定しているという。

「しっかりと洗浄、除菌できることはもちろんですが、化粧品に携わってきたプロとして、少しでも肌荒れを防ぐことができる商品を提供していきたいと考えています。欧米でもアルコール商品の需要が高まっているため、今後、原材料や容器などが不足する事態が発生するかもしれませんが、当社設立から30年の集大成として、取引先と協働しながら安定供給に努めてまいります」(同)