SDGs Lab

有事に強い、ローカルSDGsを実現(後編) オフィス分散化で注目、地域で描く「曼荼羅」

拡大
縮小
本企画では、エプソン販売・PaperLabの協力のもと国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、どのようにSDGsを意識して企業活動をするべきか、その実例やレポート、価値ある提言などを紹介する「SDGs Lab」Webマガジンを月2回発刊します。

地球に住む一員として、限りある天然資源を守り、社会課題を解決し、誰一人置き去りにすることなく、持続的に成長していくこと。それは、公的な機関および民間企業、そして一個人に課せられた使命であり、互いの責任ある行動、消費、協調が欠かせません。

「SDGs経営」「自治体SDGs」を推進し、企業と地方公共団体の活動に変革を起こしていくために必要なことは何なのか。有識者からの提言、変革者の「実践知」をお届けし、皆様の企業活動を変革する一助となれば幸いです。第22回の今回は、前回に引き続き、環境省環境事務次官の中井徳太郎氏に、ローカルSDGsである「地域循環共生圏」のつくり方についてお話を伺いました。
環境省
環境事務次官
中井 徳太郎氏

前回、地域資源を最大限に引き出して自立・分散型の社会を形成する「地域循環共生圏」のコンセプトをお聞きしました。これを各地で実現するために、現在どのような支援をしていますか。

中井 地域循環共生圏の考え方には、エネルギーや防災のインフラ、移動を支える交通、ライフスタイルとしての衣食住など、ありとあらゆる要素が関係しています。そこで、あるべき論でそれらの要素を描いて整理をしました。その絵が 曼荼羅 まんだら のような宇宙観になりましたので、そのまま曼荼羅と呼んでいます。実は今回、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)による影響―例えばワーケーション(※)などを入れ込もうとしたのですが、2年前に描いたときにすでにそれらは入っていました。それくらい包括的なものです。

一方、地域循環共生圏は、個性を持った地域のポテンシャルを引き出すものなので、曼荼羅も地域ごとによって異なる絵になります。例えばある地域ではバイオマスを生かしてエネルギーを循環させるとか、また別の地域では高齢者が多いのでコミュニティー内の移動ができるモビリティを入れようという話になるかもしれません。環境省は、地域循環共生圏プラットフォーム事業として、地域が曼荼羅を作成する支援をしています。2019年度から始めて、昨年は35団体。今年も同じくらいの数が各地でつくられる予定です。

―曼荼羅をつくった後は?

中井 例えば曼荼羅の中から地域交通を個別の事業に落とし込んでやるなら、そこもトータルで支援します。また、進めていくと、人、モノ、カネ、技術のどこかにネックがあり、アイデアがあっても動かないというケースが出てきます。そこをリアリティーを持ってハンズオンでお助けできるプラットフォームを立ち上げて、地域課題を解決できる人、モノ、カネ、技術を持ったプレイヤーをマッチングすることも始めています。その一環で今年6月には企業の登録制度をスタートさせました。

地域循環共生圏で台風や集中豪雨などの災害に備える

―地域循環共生圏の先進的な事例を教えてください。

中井 滋賀県の東近江市は「東近江三方よし基金」を立ち上げています。東近江市は鈴鹿山脈を源とする川が琵琶湖に注ぎ込む水系に位置しており、住民の皆さんは琵琶湖の水質汚染がさまざまな問題につながっているという問題意識を強く持っていました。もともとそうした環境問題に熱心な地域でしたが、地域の問題を事業で解決していくとなると、お金の問題が出てくる。そこで地元の信用金庫と連携して、地域の皆さんがベースになって出資したのが「東近江三方よし基金」です。このファンドに市の補助金などをマッチングさせながら、地域のソーシャルビジネスを育てていく試みをしています。地域の循環を支える新しいファイナンスの仕組みであり、私も注目しています。

地域同士の連携という点では、横浜市と東北地方の事例がわかりやすいかもしれません。現在、小泉進次郎大臣が2050年の脱炭素に100%コミットするゼロカーボンシティーを推進していますが、横浜市のような人口370万人を超える基礎自治体では、太陽光パネルを屋根に付けても電力が足りないのが現実です。そこで東北地方の12市町村と連携して、太陽光や風力、バイオマスなどで発電した電力を供給してもらうことにしました。この提携で関係ができたため、今度は東北地方側のアンテナショップやPRイベントを横浜の馬車道通りで行うという流れも出てきました。地域循環共生圏が互いに広域でネットワークする事例ですね。

もう1つ、防災の観点から千葉県睦沢町の事例をご紹介しましょう。房総半島は天然ガスが出る土地ですが、睦沢町は環境省の予算も使って、天然ガスを利用した発電のシステムを展開しました。このシステムは自立しています。昨年の台風による災害で東京電力の系統が切れて房総半島で大規模な停電が起きたときにも、睦沢町では熱いお風呂に入れました。日本は災害が多い国。その観点からも、エネルギーの自立・分散を考えていく必要があるでしょう。

アフターコロナで進むオフィスの分散化

―地域循環共生圏に対して、企業はどのような貢献・参画が可能でしょうか。

中井 新型コロナで、3密回避のライフスタイルやワークスタイル、つまり場所を分散化させる動きが加速しています。より具体的に言えば、個人なら2拠点住居、企業ならオフィスの分散化やワーケーションです。この流れは、新型コロナの後もレジリエンス強化という観点から続くはずです。都市部の企業が地域にオフィスを分散させる流れは、地域循環共生圏でいう自立・分散型の地域像に合致しています。環境省としては、「ここにこういういい所がありますよ」とうまくマッチングできるという意味も含めて、プラットフォームを充実させたいと考えています。

※ワーケーション:Work(仕事)とVacation(休暇)の造語。個人が主体的に選択する、日常的な仕事と非日常的な休暇の感覚を取り入れた柔軟で新しい働き方の意

そして実際に地域にオフィスを置くなら、そこで働くだけでなく、企業人かつ生活者として積極的に地域に関わっていただきたいですね。例えば地域の伝統に触れたり、祭りの担い手になったり。生身の人間として地域と関わりを持つことが、真の意味での地域活性化につながるはずです。

―最後にSDGsに取り組む企業や個人にメッセージをお願いいたします。

中井 環境省は所管官庁ではないので、産業界、供給者サイドを監督して政策を実現していくやり方はできません。私たちが重視しているのは、国民一人ひとりのボトムアップの視点です。そして、環境省自らが社会変革のプレーヤーとして行動していくことです。

幸いSDGsが浸透したこともあって、国民の環境への意識は高まっています。ただ、CO2の80%削減を実現するなら、さらに環境への負荷が少ないオーガニックなライフスタイルにシフトする必要があるでしょう。このとき頼りになるのは、会社のコミットメントです。日本は集団を大事にする人が多いので、会社がSDGsや地域循環共生圏にコミットすると、そこで働く人たちも「自分たちもできることをやろう」と気づいて動き始めるはず。企業には、その面でも期待をしています。

【Column】
本文中で取り上げた、環境保全、経済発展、社会との共生に三位一体で取り組む「地域循環共生圏」。これは日本が独自に練り上げたコンセプトですが、SDGsの文脈で解釈すると、ローカルSDGsと捉えることが可能です。
長野県諏訪市に本社を置くセイコーエプソンは、この意味におけるローカルSDGsを実践している企業の1つです。取り組みの中でも注目したいのは環境配慮型オフィスの実践であり、その立役者になっているのが、オフィス内で使用済みの紙から再生紙を作る「PaperLab」です。
通常、製紙には大量の水を必要とします。
【水の消費量】
通常の紙を作るのに、木の生育段階も含めて7610m3(注1)の水を消費します。これは25mプール(注2)で換算すると21杯分以上。一方、PaperLab A-8000が使用する水はわずか70m3(注3)、通常の製紙に比べて1%弱の水しか消費しません。(注4)
しかし、こちらの製品は、機械で衝撃を与えることで再生紙を繊維にまでほぐして、水をほとんど使わずに紙の再生を実現。地域どころかオフィス内で、資源の循環を行っています。「PaperLab」は、環境保全に役立つことはもちろん、企業のブランド価値の向上、さらに情報漏洩事故の防止、ガバナンスの強化につながります。環境、経済、社会にバランスよく貢献するという意味で、地域循環共生圏のオフィスにふさわしい製品でしょう。「PaperLab導入事例についてもっと知る」
(注1)P.R.VAN OEL & A.Y. HOEKSTRA(2010)
(注2)25mプール:長さ25m×6レーン(レーン幅2m)×深さ1.2mの場合、360m3
(注3)東京都市大学 環境学部 伊坪研究室算出(2018)
(注4)「PaperLab」は機器内の湿度を保つために少量の水を使用します
お問い合わせ
PaperLab/エプソン販売