エアコン「2050年までに約3倍増」問題の深刻度 猛暑に必須、世界でも需要増で環境に懸念
世界の人口は2019年の約77億人から、50年には約97億人へと約20億人増えると予想されている。一方、開発途上国では経済発展が加速し、エネルギー消費量が大幅に増加することが見込まれている。
そのため今後、世界的にエネルギー需給が逼迫すると懸念されており、また地球温暖化による環境負荷などへの対応のためにも、エネルギー消費量を減らす必要性が急速に高まっている。
エネルギーを多く消費し、環境負荷が高いものの1つに、エアコンがある。日本における家庭の消費電力のうち空調が占める割合は、冬のピーク時が30%、夏のピーク時が58%と高い比率になっている(資源エネルギー庁「家庭の節電対策メニュー」〈ご家庭の皆様〉〈2013年4月・11月〉)。
国際エネルギー機関(IEA)のテクノロジーレポート「The Future of Cooling」(18年5月)*1によれば、世界のエアコンの稼働台数は、今後30年で約3倍に増加、世界の約3分の2の世帯がエアコンを利用するようになる見通しだ。当然、稼働するエアコン台数と、消費電力は比例するため、環境への影響が懸念されている。
とはいえエアコンは、もはや生活するうえで欠かせないインフラとなっている。そこで、省エネルギー性能の高いインバーターエアコンの普及率が上がれば、エネルギー消費量の抑制、環境負荷の軽減も不可能ではないと期待が高まっているのだ。
「インバーターエアコン」のすごい省エネ性能を世界へ
インバーターエアコンが省エネといわれる理由は、空気を冷やしたり暖めたりするのに必要な冷媒をエアコン内に循環させる圧縮機のモーターの回転数を、インバーター技術で細かく、高精度に制御できるからだ。
インバーター技術を搭載していれば、エアコンが設定温度になるまでフルパワーで動作し、設定温度に達したら自動で低速運転に切り替わるため、消費電力の低減につながるというわけだ。インバーターエアコンなら、インバーターなしのエアコンに比べて、消費電力を約58%も削減できる(ダイキン調べ)。
日本では、販売されているエアコンに占めるインバーターエアコンの割合が100%だから、何を今さらと思う人もいるかもしれない。だが、開発途上国ではインバーターなしのエアコンのほうが安価で需要が高い。インバーターエアコンは、故障が少なく電気代を安く抑えられることからランニングコストが低くメリットも大きい。長い目で見ると、インバーターエアコンの方がメリットは大きいが、初期費用の高さがネックになり安価なエアコンの需要が高くなっているのだ。
空調専業メーカーであるダイキンは、かねてからインバーターエアコンの技術開発に取り組み、設備機器の普及を通じて環境問題の解決に積極的に取り組んできた。その象徴とも言うべきなのが、08年の中国・大手空調機器メーカー・珠海格力電器有限公司(格力)との提携だ。
当時は、インバーターのようなエアコンの省エネ性能を高める最重要技術が、中国に流出するという懸念から、ダイキン社内には格力への技術開示に激しい反発があったという。だが、格力と提携することによって、大量生産を得意とする格力が持っているノウハウを利用しコストダウンが可能となるため、価格競争力のあるインバーターエアコンを生産できるメリットも大きい。
技術を囲い込んでも、いずれ中国企業が独自開発するかもしれず、ほかの日本企業と提携する可能性もある。しかも、世界150カ国以上で空調を販売しているダイキンだからこそ、市場が大きい中国でインバーターエアコンを普及させたいという思いもあった。
さまざまな思惑が交錯する中で、踏み切った格力との提携。結果として、世界的にもインパクトの大きい中国市場において、メインプレーヤーである格力と提携したことで、ダイキンはインバーターエアコンの普及率を向上させることに成功した。中国における住宅用エアコンのうち、インバーター機が占める比率は、09年7%だったものが、18年には76%にも拡大したのである。
安心快適な空気質の提供と社会課題解決の両立へ
今やダイキンの取り組みは、中国だけにとどまらず、東南アジアやアフリカ、中東へと世界各国に広がっている。
ダイキンでは、各地域の暮らしに合わせた魅力あふれる製品を、ニーズがある場所で開発・生産し、タイムリーに販売する「市場最寄化戦略」を進めており、14年度にアジアの年間を通して温暖な地域向けにコストを抑えた冷房専用インバーターエアコンを開発。省エネ規制の強化や電力価格高騰による省エネ意識の高まりを受け、東南アジアでもインバーターエアコンは着実に普及しつつある。
一方、アフリカでは、19年11月からタンザニアで電力サービス事業を行う東京大学関連ベンチャーのWASSHA(ワッシャ)と共同で、エアコンのサブスクリプション事業の実証実験を開始した。
人口5700万人ほどのタンザニアのエアコン普及率はわずか1%にすぎない。中国・韓国製のエアコンが主流となっているが、エアコンがあっても使われていないことが珍しくない。消費電力が大きく電気代が高くなってしまうのと、修理のインフラが整っていないために、壊れてそのまま放置されているケースが多いのだ。
だが、エアコンを運転する時間に応じて使用料を支払うサブスクリプションであればエアコン本体の代金はかからず、初期費用は購入に比べて10分の1ほどで済む。しかも省エネ性の高いダイキンのインバーターエアコンなら電気代を約半分にでき、故障した際の修理にも対応できるため、利用者のメリットは大きい。
20年6月にはWASSHAと新会社「Baridi Baridi株式会社(バリディバリディ)」を設立。まずはタンザニアでエアコンのサブスクリプション事業を展開し、将来的にはアフリカだけでなく、ほかの空調未成熟市場への展開を目指すという。
環境負荷の高いエアコンを扱う、世界トップの総合空調メーカー*2だからこそ、強い責任感と使命感を持って「エアコン2050年問題」と向き合う。これが、ダイキンのサステイナブル経営の原動力だ。
安心で快適な空気質の提供と、環境問題をはじめとする社会課題の解決を両立するために、ダイキンは今、インバーター技術の普及を推進するだけでなく、地球温暖化係数が低く環境負荷が小さい冷媒「R32」の特許無償開放や、冷媒の回収・再生・破壊、ヒートポンプ式暖房・給湯機の普及促進など世界中でさまざまな施策に取り組んでいる。
2050年までに約3倍増することの深刻さを最も理解している企業として、「空調の環境技術のスタンダードを全世界でつくっていく」という信念が問われる。
*1 IEA Technology report(May 2018)「The Future of Cooling Opportunities for energy-efficient air conditioning」All rights reserved.
*2 富士経済「グローバル家電市場総調査2018」調べ グローバル空調メーカーの空調機器事業売り上げランキング(2016年実績)