有事に強い、ローカルSDGsを実現(前編) 「地域循環共生圏」で自立・分散型社会を目指す

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本企画では、エプソン販売・PaperLabの協力のもと国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、どのようにSDGsを意識して企業活動をするべきか、その実例やレポート、価値ある提言などを紹介する「SDGs Lab」Webマガジンを月2回発刊します。

地球に住む一員として、限りある天然資源を守り、社会課題を解決し、誰一人置き去りにすることなく、持続的に成長していくこと。それは、公的な機関および民間企業、そして一個人に課せられた使命であり、互いの責任ある行動、消費、協調が欠かせません。

「SDGs経営」「自治体SDGs」を推進し、企業と地方公共団体の活動に変革を起こしていくために必要なことは何なのか。有識者からの提言、変革者の「実践知」をお届けし、皆様の企業活動を変革する一助となれば幸いです。第21回の今回は、環境省環境事務次官の中井徳太郎氏に、第5次環境基本計画の中で打ち出された「地域循環共生圏」についてお話を伺いました。
環境省
環境事務次官
中井 徳太郎氏

―中井さんとSDGsの出合いを教えてください。

中井 私はもともと大蔵省(現・財務省)に入省して、東日本大震災が起きた2011年の夏に環境省に移りました。まず手がけたのは、震災の復旧・復興です。放射性廃棄物の除染が始まって難しい部分を環境省が引き受けることになり、同時に中立性を保つという観点で原子力発電の安全性を科学的な見地から確保する行政部門(注・原子力規制庁)を環境省の外局に置くようになりました。そうした復旧・復興の動きと並行して、温暖化対策税を導入しました。

そして、2012年には第4次環境基本計画が閣議決定されました。このときにはもう気候変動が問題になっており、2050年にCO2を80%削減するという努力目標を入れました。80%削減は非常に高いハードルであり、口で言っているだけでは難しい。リアリティーを持ってそれを実現するにはどうすればいいのか。当時、総合環境政策局の総務課長だった私は、震災対応に取り組みながらずっと考えてきました。

取り組んでみてわかったのは、「経済にとって環境はコストである」という考え方では80%削減は無理だということでした。実現には、電気自動車をはじめとしたテクノロジーのイノベーションに加えて、消費行動を含めたライフスタイルの転換も必要です。また、価値観が変わる中で税や金融の仕組みが合わなくなれば、制度も変えていかなくてはいけません。これらがトータルで起きて、環境・経済・社会がすべて調和した形になって初めて達成が可能になる。つまり環境をコストとしてではなく経済や社会のドライバーと見なす発想が必要です。

その具体的な姿を描いて政策展開を練っていたところ、15年9月にSDGsが国連で採択されました。環境・経済・社会全体の17のゴールを目指すというSDGsは、環境省が取り組んできた文脈に沿っていました。いい追い風になるという印象でしたね。

→サステイナブルな取り組みでSDGsに貢献、PaperLabを知る

「地域循環共生圏」=ローカルSDGsという理解

―環境・経済・社会が調和する姿として提唱されたモデルが、2018年の第5次環境基本計画に入れ込まれた「地域循環共生圏」です。

中井 地球には、エコシステムとしての生命系の循環があります。しかし、化石燃料・地下資源に依存した大量生産・大量消費・大量廃棄という経済パラダイムは地球のエコシステムに大きな負荷をかけており、今やそれを壊そうとしています。それでは人間がきちんと食べて活動をし、幸福感を感じて生きていくという状況を保つことは難しくなります。

本来、地域には、エネルギーや水、空気、食べ物など私たちを取り巻くものがきちんと存在し、循環しているはず。そのもともと存在するポテンシャルを生かそうというのが地域循環共生圏の考え方の根底にあります。

例えば都市部なら太陽光発電を自分の家の屋根に取り付けたり、ベランダ菜園でナスやトマトを作ってみるのもいいでしょう。一方、農村・漁村は豊かな自然があるため、そもそもエネルギーや食料を生み出していくポテンシャルは高いですね。

まずそれぞれが、いったん、自分たちの地域における自然の恵みを評価して、地域ごとに個性を持ったポテンシャルを引き出す努力をしていく。つまり地域ごとに自立・分散型の社会を形成することから始まります。

ただし、都市部では太陽光発電やベランダ菜園だけで自活することは難しいし、農村・漁村には自然があるけれども、それを循環させるための人やお金が足りないという別の問題があります。であるならば、地域のポテンシャルをそれぞれの地域で自己完結させずに、地域同士で連携して循環させよう。それが地域循環共生圏の基本的なコンセプトです。

地域循環共生圏はSDGsをにらんで構想したものではありません。ただ、環境・経済・社会のあるべき姿からバックキャストで絵を描いていたら、図らずもローカルSDGsとほぼ同じになった。今はそういう整理をしています。

「地域循環共生圏」図解

→紙から紙を再生し、循環を実現させるPaperLabとは?

ボトムアップ型で循環をつくっていく

―自然の循環というと、地球規模の大きな循環をイメージしますが、足元の小さな循環に注目すると部分最適になって、全体最適にならないというリスクはないでしょうか。

中井 人間の体をイメージしてください。人体は37兆個の細胞からできているといわれています。一つひとつの細胞が生きていて、それがつながって血管や筋肉をつくり、それがまた心臓などの臓器となり、最終的に1人の人間をつくります。

この多重構造は地球においても同じです。自分を含む家族の中での循環もあれば、町内会のようなコミュニティーの循環もある。それが集まって市町村単位の循環になったり、環境省は「森里川海(もり・さと・かわ・うみ)」という言葉で表現していますが、流域系での循環になったりする。そしてそれが最後には地球のエコシステムになります。

地球のことを考えるときも同様に、上から目線で考えていくのではなく、自分自身の体に置き換えてわかるように、ボトムアップで細胞の一つひとつが生きるポテンシャルを持っていて、それが地球や宇宙につながっているという感覚を持つことが大事だと思います。そのほうが、元気が出て自分の能力を発揮してやろうという気になるのではないでしょうか。

→水を使わず紙を再生、PaperLabで地球環境を守る

【Column】
本文中で取り上げた、環境保全、経済発展、社会との共生に三位一体で取り組む「地域循環共生圏」。これは日本が独自に練り上げたコンセプトですが、SDGsの文脈で解釈すると、ローカルSDGsと捉えることが可能です。
長野県諏訪市に本社を置くセイコーエプソンは、この意味におけるローカルSDGsを実践している企業の1つです。取り組みの中でも注目したいのは環境配慮型オフィスの実践であり、その立役者になっているのが、オフィス内で使用済みの紙から再生紙を作る「PaperLab」です。
通常、製紙には大量の水を必要とします。
【水の消費量】
通常の紙を作るのに、木の生育段階も含めて7,610m3(注1)の水を消費します。これは25mプール(注2)で換算すると21杯分以上。一方、PaperLab A-8000が使用する水はわずか70m3(注3)、通常の製紙にくらべて1%弱の水しか消費しません。
しかし、こちらの製品は、機械で衝撃を与えることで再生紙を繊維にまでほぐして、水をほとんど使わずに紙の再生を実現。地域どころかオフィス内で、資源の循環を行っています。「PaperLab」は、環境保全に役立つことはもちろん、企業のブランド価値の向上、さらに情報漏洩事故の防止、ガバナンスの強化につながります。環境、経済、社会にバランスよく貢献するという意味で、地域循環共生圏のオフィスにふさわしい製品でしょう。「PaperLab導入事例についてもっと知る」​
(注1)P.R.VAN OEL & A.Y. HOEKSTRA(2010)
(注2)25mプール:長さ25m×6レーン(レーン幅2m)×深さ1.2mの場合、360m3
(注3)東京都市大学 環境学部 伊坪研究室算出(2018)