経費精算「申請から払い戻しまで」自動化へ 「SAP Concur」と「Slack」の連携など

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システム同士の連携で、煩雑な作業とおさらばできる
「SAP Concur」をはじめとした経費精算システムに、会計システムや銀行API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)など、あらゆるクラウドサービスを連携させ、経費精算を申請から払い戻しまで自動化できる「ActRecipe(アクトレシピ)」。例えば、チャットツール「Slack」との連携では、経費申請の詳細を「Slack」上で確認・承認でき、忙しい管理職の手間を省くのに一役買っているという。複数のクラウドサービスと簡単に連携できる「ActRecipe」の仕組みやその開発背景について、アスタリスト代表取締役CEOの池上大介氏に詳しく聞いた。

「全自動」の経費精算を実現するiPaaS

iPaaS(インテグレーション・プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を自社で企画・開発・運用しているアスタリスト。バリバリの開発ベンダーかと思いきや、もともとはITコンサルティングの会社として設立したと代表取締役CEOの池上大介氏は明かす。

アスタリスト
代表取締役CEO
池上大介氏

「経費精算システムの『SAP Concur』が日本に上陸したとき、初期の導入支援コンサルタントとなったのがきっかけです。人口減少社会を迎える中で、経費精算クラウドを広め自動化のお手伝いをすることは、社会にとって重要な資産である『人』を活かすことにつながると考えました」

そうした環境を多くの企業で整えるために起業したのが2013年のこと。個の力を最大限に引き出したいとの思いから、ラテン語で星を意味する「aster」に、人を意味する接尾辞「ist」を加えた社名にしたという。次第に対応スピードの速さとクオリティーの高さが評価され、「SAP Concur」の導入支援では国内トップクラスの実績を上げるようになる。しかし、結果を出せば出すほど、池上氏はもどかしさを感じるようになっていった。

「『SAP Concur』は経費精算システムですから、出来上がった仕訳データを会計システムに計上しなければなりません。何らかの形で変換するか、システム間をAPIで連携させる必要があるわけです。クライアントから要望を受け、連携のお手伝いもするようになりましたが、毎回同じ開発をして、同じ費用を請求する状況は経済的でないと思っていました」

システムを連携させるために、いちいち企業ごとに開発をしていては、時間もコストもかさんでしまう。そこで、都度開発する必要がなく、集合知を共有するようにシステム間の連携を可能にするiPaaSに着目した。

「とはいえ従来のiPaaSは、利用者側でワークフローの設計やデータ連携の設定が必要でした。つまり、食材と料理器具が用意されたキッチンに案内はされるけれど、『好きなように料理してください』と言われるようなもの。おいしい料理を完成させるにはレシピが必要です」(池上氏)

サン・セバスチャンの奇跡をご存じだろうか。スペインでも人口の少ない街サン・セバスチャンが、人口1人当たりのミシュランの星の数が断トツ世界一の美食都市になる話だ。

「料理のオープンソース化」から、「SaaS連携フローの共有化」を発想

池上氏は、サン・セバスチャンの奇跡が起きた背景とされる「レシピの共有」から発想を得て、iPaaSを利用する際のワークフローや設定を共有化しようと考えた。そうして完成させたのが「ActRecipe(アクトレシピ)」である。

秀逸なのは、「SAP Concur」など財務会計領域のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)間の連携に絞り込み、ワークフローをレシピ化(=パッケージ化)した点だ。プログラミングレスで、ユーザーはレシピを選ぶだけでSaaS間の連携を実現させることができる。例えるなら、「電子レンジ調理で完成する高級レストランのレトルト食品」(池上氏)を利用するような感覚だ。

「SAP Concur」をはじめ、さまざまなクラウドサービスとすぐに連携できる多様なレシピを用意しており、連携したSaaSの数をベースにしたシンプルな料金体系にしているところにも、ユーザーファーストの姿勢が見える。

効率性だけでなくコンプライアンス維持にも

経費精算システムと会計システムが連携するということは、経費精算、仕訳データ作成、会計システムへの計上という一連のタスクがすべて自動化されることを意味する。これは、単に業務効率が向上するだけではなく、コンプライアンスの維持にもつながるという。

「バックオフィス業務には、表計算ソフトに入力して紙で印刷し、複数人が入出金チェックに携わるといった煩雑な作業があります。こうした作業は特定の端末以外の使用を許可していない企業も多く、コロナ禍でもオフィスに出社しなければなりません。しかし、自動化すれば出社する必要もありませんし、そもそも改ざんの余地が生じないのです」(池上氏)

改ざんの有無をチェックするため、会計システムへ仕訳データを移したあとにわざわざ紙で出力し、複数人で確認するといった手順を踏んでいる企業もあるだろう。そうした工程がいっさい不要になるため、時間もコストも大きく削減できるというわけだ。

さらにアスタリストは、経費の承認フローにも目をつけた。従来、「SAP Concur」であればそこへアクセスし、当該レポートを表示しなければならなかった。日常業務に忙殺される管理職にとっては面倒なタスクだったが、アスタリストはチャットツールの「Slack」と連携させるという手法を開発する。

20年7月からは、さらなる業務効率化を目指したインターネット大手のグリーでも採用されている

「経費申請のサマリーや詳細を『Slack』上で確認、承認できるようにしました。わずか数クリックで済みますし、申請者も『Slack』上だと催促しやすいため非常に好評です。弊社もそうですが、社内コミュニケーションは『Slack』、社外はメールと使い分けている企業も多いと思いますので、社内のタスクを『Slack』に寄せることができるという意味でも、業務効率の向上に効果的だと考えています」(池上氏)

銀行振込の自動化とキャッシュレス連携を実現

「Slack」と連携したように、アスタリストのiPaaS「ActRecipe」は積極的に機能拡張を進めて付加価値を加速度的に向上させている。とりわけ注目したいのが、フィンテック領域へのサービス展開だ。20年6月には、国内のiPaaS事業者として初めて銀行APIに対応
※自社調べ

「これまで、銀行振込などの送金を指示するには、経費精算システムから必要なデータをCSV形式などでダウンロードし、インターネットバンキングへアップロードするといった手続きが必要でした。しかし、当社自体が電子決済等代行業者の認可を取得し、『ActRecipe』と銀行APIとの接続を可能にしたため、送金指示まですべて自動化されます」(池上氏)

つまり、銀行振込が自動化できるというわけだ。それだけでも画期的だが、20年7月には、キャッシュレスサービス「LINEPay」との連携も開始。

「LINE Pay」上で、経費精算の払い戻しが受け取り可能に

「立て替え経費の払い戻しは銀行から振り込まれるのが当たり前でした。しかし、『LINE Pay』と連携したことで、そのプロセスを踏む必要がなくなります。例えば新幹線を出張で利用する場合、従業員はチケット予約から決済、経費申請、お金の受け取りまでスマホ1台で完結するのです」(池上氏)

従業員が銀行から現金を引き出す手間が省けるうえ、企業は銀行への振込手数料を大幅に削減できる。SaaS間のみならず銀行やキャッシュレスサービスともつながり、「iPaaS×フィンテック」というこれまでにない組み合わせを実現することで、今までは想像もつかなかったような価値を生み出しているのだ。

水面下ではさらなるコラボレーションの話も複数進んでいるようで、20年9月に開催予定の「SAP Concur Fusion Exchange 2020 Japan」のセッションでは、サプライズ発表をする予定だという。

「紙の出力や複数人での目視チェックなど、これまで当たり前とされてきた業務をなくし、コロナ禍でも出社を余儀なくされてきた経理業務を楽にしたい。そうすることで、よりインテリジェンスな業務にリソースを振り向けることができ、日本経済の発展につながると確信しています」(池上氏)

実際に、「SAP Concur」の導入支援企業数では国内トップクラス、iPaaS事業者としては初めての銀行API接続を実現させてきたアスタリスト。「国内初」「日本一」の事業だけを行うことをポリシーとする同社が、今後「iPaaS×フィンテック」で日本のユニコーン企業となる日は遠くないだろう。

日本最大級の経理・財務部門向けのイベント
「SAP CONCUR FUSION EXCHANGE 2020 JAPAN」
間接費領域のデジタル・トランスフォーメーションで変わる企業戦略や革新的なワークスタイルについて、基調講演や事例セッションを通じ、ご参加の皆様と共に考えます。

「バックオフィス業務のDXで変わる働き方ーペーパレス・キャッシュレスの実現に向けてー」をテーマに、1万人規模のオンラインイベントとして7日間開催予定です。詳しくはWEBサイトをご覧ください。